第22話/説明長いよTT・・・メイドさんのスカートも。
さて、現在時刻はリアル時間で午後12時45分。
俺と来夢は凛に呼ばれて、お宅訪問するはずだったのだが・・・。
現在進行形で警備っぽい、怖いおっさんに捕まっております。
一体どうしてこうなった!?
よし、落ちつけ俺。
こういう時は何でこうなったのか振り返るのが一番だ。
まず目的地が新宿駅から近いので、午前10時頃に来夢と寮を出ようとした所、来夢に服のダメ出しをされる。
一体、黒のデニムにスカルと拳銃が描かれたデザインTシャツの何処がいけないんだ。
ちなみに来夢は白のワンピースに同じく白のつば広帽子、肩には薄での水色のカーディガン、手にはシルバーのハンドバックを持っている。
・・・何処のお嬢様ファッションですか。
どうしても譲らないと言うので仕方なく、来夢のコーディネイトにより、黒のスリムガーゴパンツと白地に真ん中に黒の細いラインが入ったシャツ、それに灰色のデザインネクタイへ着替えて出たのが午前10時30分前後。
午後12時過ぎに新宿駅に着いた所で、流石に手ぶらでは失礼だと思い、駅でお土産を購入。
凛のメールを頼りに、25分程歩いた所で目的の建物を発見。
・・・というか凛よ、徒歩25分は近くないと思うぞ?
間違ってない事を確認してインターフォンを探していたら、警備員っぽいおっさんに話しかけられる。
要件と名前(リアルネームの方)を二人揃って伝えたら、訪問予定に無いとの事。
ん~?訪問する家を間違えたのだろうか?
試しに来夢が住所を見せた所、場所はあっているようだ。
そのまま現在、おっさんと対立中・・・今ここ。
「誡。凛ちゃんとの約束の時間って確か・・・。」
来夢の言いたい事はよくわかる。
凛の家に招待された時間は午後1時、つまり後15分を切っている。
このままでは遅刻しそうなので、凛に電話してみる事にしよう。
『KAIN?そろそろ着くと思ったんだけど今、あんた何処に居るのよ。まさか・・・寝坊したとかじゃないわよね?」
全く失礼な、出がけに手間取りはしたがここまでは順調だったんだ・・・このおっさんに捕まらなければ。
『おっさん?それってもしかして、警備服着た人?』
何故わかったし。・・・これで俺が思考を読まれたのは三度目、やはり凛はエスパーの様だ。今度テレビ局にでもネタを提供するとしよう。
とりあえず俺と来夢が捕まっている状況を説明してみる。
『ライム?え~っと・・・ちょっと待って、もしかしてそれってリアルネーム?』
「ああ。まぁ俺のじゃないが。」
ケータイの向こうで、ああ!っと凛が何か納得した様な声を上げている。
「あ!そうかぁ。」
同じタイミングで話を聞いていた、来夢もどうやら何かに気がついたらしい。
全く、俺だけわからないのはまるで、俺だけ馬鹿みたいじゃないか。
「警備員さん。申し訳ないのですが再度、訪問予定を確認して貰えますか?【Cherry blossom】と【KAIN】で。」
怪しむようにこちらを見た後で、再度おっさんは予定表らしき台帳を確認している。
それにしても、何故キャラクターネーム?どういうことだ?
『ごめん、KAIN。私、あんたたちのリアルネーム知らないから訪問予定はあっちの名前で出しちゃった。』
あ!なるほど。考えたら、俺も凛のリアルネーム知らないな。
というか何処のオフ会ですか、リアルネーム知らないで集まるとか・・・ああ、一応これもオフ会か。
そう考えたら人生初のオフ会でちょっとワクワクしてきたぞ。
そうしているうちに今度は俺達の名前があった様で、俺と来夢はようやく屋敷内に入れた。
とはいえ、まだ門をくぐっただけだが・・・この屋敷広すぎだろ。
門から玄関らしき扉まで軽く100メートルはあるぞ・・・。
「いらっしゃいませ。KAIN様とCherry blossom様ですね。どうぞこちらへ、お穣様がお待ちです。」
ようやく玄関に着いた所で、今度は中から出てきたメイドさんの後を、俺達はひたすらについて行く。
だって、こんな広い屋敷・・・俺は間違いなく迷うぜ?
そして今さら気がついたけど、俺靴脱いで無いのに何も言われない所見ると・・・この家では土足有りか。
良く見たらメイドさんも靴のままみたいだ。
・・・何故わかるって?スカートの中から見える靴を必死に凝視したに決まってるじゃないか。
しばらくして大きな扉の前についたメイドさんは、扉をノックした。
「失礼します。お穣様、Cherry blossom様とKAIN様がお見えになりました。」
「お二方共、ようこそ。さぁ、どうかお掛けになって。神楽、案内ありがとう。もう下がっていいわ。」
中からのどうぞ。っと声で部屋に入ると、ゴシックドレスを着た亜麻色の髪をした少女とその隣に、スーツ姿の20代前半に見えるメガネをかけた黒髪の女性が居た。
少女に誘われるまま俺達が席につくと、一礼してメイドさんは部屋の外へ出ていく。
最後に扉が閉まる音が聞こえると、少女はこちらを見て微笑んだ。
それにしてもこの少女、妙に偉そうだ。
「ふう。ようやく普通に話せるわ。改めまして、始めまして?久しぶり?まぁどっちでもいいか、凛こと、鈴城 雫よ。よろしく!」
ふむ。どうやら凛はリアルでも少女だったようだ。
確かに亜麻色の髪と合わせて可愛らしいとは思うが、少女に手を出すほど俺はロリコンじゃないぜ?
・・・というか少女が昼間の真昼間からレべ上げしてるって事は、こいつサボり魔か。
「むっ?そっちのなんか失礼な事考えてるわね。まぁいいわ。で?どっちがKAINなの?って、まぁ見ての通りみたいね。」
それはそうだろう。
だって今の来夢は男の娘だしな・・・。
「まぁそうなるよね。うん、僕がCherry blossomの桜木 来夢。こっちがKAIN事、武見 誡だよ。凛・・・じゃなかった。雫ちゃんよろしくね。」
ああ。なるほど、鈴城の鈴を文字って凛か・・・。
「KAIN、じゃなかった武見・・・さんでいいのかな?なんか今どうでもいい事、考えているでしょ。いい加減顔に出やすいんだから自嘲したらどう?」
なん・・・だ・・と!?
俺、そんなに顔に出やすかったのか・・・よし、次から気をつけよう。
ところで、そちらの女性は誰ですか?
「ああ。彼女は矢代 岬さん。品川支社でEOWの運用してるの。高校の同級生で、今回の件で爆発元を教えてくれたのは彼女よ。」
「どうも始めまして、岬と気楽に呼んでください!」
スーツにメガネだから意外と型物かと思ったけど、岬さんテンション高いね。
・・・うん、偏見良くない。
さて、品川支社でEOWの運用か・・・いや、ちょっと待てよ?それ以前に高校の同級生?誰の?
「誰って、私に決まっているでしょ?他に誰が居るのよ。」
雫よ・・・大人びたいのはわかるが、嘘は良くないぞ。
どう見ても、お前はまだ小学生か中学生くらいだろ!
「なっ!失礼ね。これでも現役の大学生です!ほら、これが証拠。」
むむ?確かにその手に持っているのは学生証だが・・・って、これ東大のじゃん。
もしかして雫って頭がいいのか?・・・いや、そんなわけは、つまり偽造?
「雫は、ちゃんと現役東大生ですよ。歳も私と同じで今年で19ですから。」
なるほど、どうやら本当に現役大学生の様だ。
というか、19って事は俺の一個下?
「まぁそうなるわね。EOWでは私の方が先輩だけど。それより今回の本題に入りましょう。まず、私が休みの岬を呼んだ理由からだけど。」
ひとまず、雑談はこの辺りにして本題に入る事になった。
やはり雫も昨日、あの謎のフィールでバグモンスターを倒した直後に、強制ログアウトをかけれたらしい。
そして、強制ログアウトかけられた事に腹を立てた雫は、動けるようになると岬さんに連絡し事の全容を話したそうだ。
「私もその頃、新橋支社の爆発によるデータ復旧の補佐として、品川支社で働いていたので・・・雫の言っている内容を検証してる暇はありませんでした。なので、現状起きてる状態だけを雫に教えて、今日窺うと伝えたのですが・・・。」
なるほど、その後で俺にメールしたわけか。
それで、結局あのバグイベントと関連はありそうなのだろうか?
というか、いくら社長令嬢でも、そんなに簡単に情報教えていいのだろうか?
「まぁそのあたりは内密に。それでお二人が来る前に状況を再度聞きながら行った検証結果ですけど・・・私の見込みでは、95%関係無いと思います。それに今回サーバーが爆発したのは、電力制御盤が暴走して異常電圧を瞬間的に流したのが原因ですし・・・。」
ふむ。
残り5%の可能性は?
「そうですね・・・それはEOWの特徴に関わってくるのですが、EOWではAI制御による独自のストーリー進展要素が含まれています。」
「自動クエスト生成機能とかですね?」
自動クエスト生成機能?
来夢の言葉に、どうやら俺一人だけがわかってないようだ。
呆れた雫が簡単に説明してくれた内容によると、例えばAという町で討伐クエストが発生したとする。
そのクエストに多くの冒険者が参加して、討伐対象のモンスターの全体数が減った場合、Bという町では討伐モンスターの子供育成クエストが発生したりする。
また、討伐されるモンスター自体も、ステータスに変化が発生したり、攻撃パターンが変わったりなど、一定パターンに留まらない様に、AIが常に独自のプログラムで調節しているらしい。
「自動クエスト生成システムもそうですが、基本的にゲーム内の管理は全てマザーと呼ばれるAIによって行われております。このマザーなんですが、開発方法がボトムアップ型である事以外、運用チームの私達にさえ教えてもらえないんです。なので、私達はユーザーからの苦情をデータに纏めて、マザーに転送することで自動対応して貰う形になっています。なので、もしマザーが何らかの行動を独自判断で行った場合、私達にも到底わかりません。」
運営の重要機密なので、他言無用ですよ?っといいつつ、岬さんは教えてくれた。
それにしても、マザーか・・・最近、誰かがAIについてなんか自慢してた気がするが・・・だめだ、うまく思い出せない。
もっと重要な事もあったはずなのだが・・・。
「なるほど。なら、どちらにしても現状は気にするだけ無駄みたいですね。ところで、別件なんですけど。EOWのメンテナンスっていつ頃終わります?強制ログアウトされたので、自分が何処に居るのか気になりまして・・・。」
「あ!それなら、今日の夕方6時には復旧しますよ。爆発発生前の午後4時50分の状態まで戻されちゃいますけど、最後に立ち寄った町に戻されるはずです。」
運営側からのお詫びの品御ついてきます。っと来夢に解答する岬さんだけど・・・。
ん?午後4時50分・・・つまり16時50分?って事は、鎧武者と戦う前?
つまり、これってまさか・・・。
確認するにはログインしかないが・・・現在時刻は午後4時ちょっと前。
どうやら、話し込んでいるうちに、思ったよりも時間が立っていた様だ。
「雫。申し訳ないんだが、そろそろ俺は帰るよ。あ、そうだ。来夢、あれを。」
今から戻れば、午後6時のメンテナンス明けに間に合うので帰宅しようとした所で、大事な物を渡すのを忘れていた。
「あ!忘れてた。これ、つまらない物ですけどよろしければどうぞ。」
どうやら来夢も忘れて居た様で、駅で購入したお土産を手渡す。
それから俺達は岬さんと連絡先を交換してから、雫やメイドさんと警備のおっさんに挨拶しつつ、鈴城邸を後にしたのだった。
でも、考えたら別に急いで戻る必要も無かったんじゃ・・・と思いついた時には奥多摩の駅だった。
・・・自分用のお土産買ってくるの忘れた。




