第21話/思わぬ真実・・・最近、幼馴染が怖いです。
突然落とし穴に落ちた様な落下感で、慌てて目を開けるとそこには、知らない天井・・・では無く見なれた天井が見えた。
「うぅ・・・どうなったんだ?」
どうやら強制ログアウトされた見たいだ。
落下感のせいで掻いた嫌な汗が服をべとつかせる。・・・すげー気持ち悪い。
鈍い頭を動かし、腕に力を入れてどうにか上半身を起こした。
LINKSを外して隣のリクライニングシートを見ると、まだ来夢は寝ているみたいだ。
もしかして、俺だけがゲームから弾かれたのだろうか?
それともあの尋常じゃないゲームのダメージで、来夢はリアルボディに何らかの影響を受けているのだろうか?
まさか、死んでるなんてことは・・・。
寝息一つ聞こえないので、ショック死の心配を考えて来夢に近づいてみる。
「おい、来夢。生きてるか?」
「ん・・・僕は、いったい・・・。」
どうやら死んでは居なかったらしい。
体を揺すってやると、眠そうな声と共に目がうっすらと開いた。
それにしても、強制ログアウトによる倦怠感がひどい。
冷蔵庫から自分用のミネラルウォーターを取り出すついでに、未だ起き上がらない来夢にも持って行ってやる。
「ん。ありがとう、誡。」
寝た状態のままでLINKSを外した来夢は、受け取ったミネラルウォーターを一口飲む。
すぐに起きれない程に、ダメージがひどいのだろうか?
「ん~?・・・誠心誠意の手厚い看護があれば、すぐ起きれると思うよ。」
OK。こいつは放置しても大丈夫そうだ。
この人がせっかく心配してやってる状況で、微笑みを浮かべてる余裕があるくらいだしな。
全く。弱っている時のこいつが微笑むと、無駄に儚げで妙に色っぽいから、いろんな意味でタチが悪い。
「そんだけ馬鹿な事を言えるなら、大丈夫そうだ。先に風呂場借りるぞ、寝汗を落としたい。」
「あ!ずるい。僕も今すぐさっぱりしたいのにぃ。レディには優しくするべきだと僕は思うよ、誡。」
・・・お前はレディじゃないだろ。
つっこみを入れるのも面倒なので、放置してそのまま風呂場に入る事にした。
念の為、鍵をかけて。
しばらくして俺が風呂場から出ると、扉の前で何やら不満そうなに頬を膨らました来夢が、着替えを胸に抱えて立っていた。
来夢は何か言いたそうだったが、あえて無視し続けると諦めたのか、そのまま風呂場へと消えて行った。
・・・こいつは一体何をしようとしていたのだろうか?
それはともかく今回の強制ログアウトについて、EOWの公式からは何か情報はないのだろうか?
LINKSを買ってからまともに使っていなかった、デスクトップ型の自作PCでブラウザーを立ち上げる。
普段、EOWをやる時はこのデスクトップを中継器代わりにして、LINKSでダイブしているので起動自体は常にしたままだ。
『EOW運営からの重大なお知らせ。』
ブラウザーで公式サイトを開くと、トップページにある最新情報の欄にリンクがあった。
すかさずクリックし、情報ページを開く。
『本日17時頃に、一部サーバーにおける重大なトラブルが発生した為、緊急強制ログアウトをさせて頂きました。皆様には大変ご迷惑をおかけいたします。なお、現在緊急メンテナンスに伴い、ゲームは一時停止させて頂いております。メンテナンス終了次第公式ホームページにて、報告させて頂きます。』
他にもいろいろ書いてあるが、面倒になったので俺はブラウザーを閉じた。
それにしてもリアル時間で17時か・・・丁度、俺達があの鎧武者と戦闘していた頃ではないだろうか?
≪メールが届きました。≫
何か関係性があるのかと考えこもうとした矢先、PCがメールの受信を知らせてくる。
誰からかは分からないが、PCのメールソフトでとりあえず開いてみる事にした。
ちなみにLINKS内に設定しているメールソフトと、このPCのメールソフトのメールサーバーは同じ所なので、LINKSに来るメールをこちらで受ける事もできる。
メールの差し出し人は凛だったが、内容が意味不明だ。
『今すぐかけなさい!番号は・・・。』
番号の後には11桁の数字が・・・これはケータイ電話の番号だろうか?
件名には最重要と書いてある。
さて、どう解釈したものだろうか?
これは単に、この番号へ電話しろと言う事なのだろうか?
それとも手の込んだ悪戯か、何かなのか?
・・・そういえば昔、メールに書いてる番号に電話をかけると、かけた先で変態が出るって悪戯あったな。
考えが逸れた・・・。
ふむ。もし単に連絡取りたくて電話して来いと言うのなら、まずその理由が俺には思いつかない。
逆に手の込んだ悪戯だったとしても、俺が受ける筋合いはない。
何せ、仕返しの心当たりがあるとすれば浴衣装備の一件だ。
そもそも浴衣を着せたのは、俺では無くKIRIKAだ。
それに凛がそういうことするとは思えないが・・・とりあえず、ここは無視するとしよう。
メールを見なかった事にして消そうとしたら、再び凛からメールが来た。
『何やってるの!早く電話をかけなさいよ!まさか、見なかった事にするつもりじゃないでしょうね?』
何故、ばれたし・・・。
あれか、凛はエスパーか何かなのか?
ともあれ俺から電話をかける意味がわからない。
こちらは特に要件も無いので、無駄に電話代をかける必要がないのだが・・・。
その旨をメールにて返信したら、すぐに答えが返ってきた。
『なら、番号教えなさい!私からかけてあげるから。』
・・・そこまでして連絡を取りたい理由とは何だろうか?
しかたない。
何度か一緒に狩りをしていて、ある程度信頼しているも事実だ、ここは連絡するとしよう。
べ、別にEOW内で後で責められるのが、怖いわけじゃないんだからね!
うん、俺のツンデレはキモイだけだな・・。
改めて、指定された番号をケータイで入力する。
3コール程して、ゲーム内での凛と同じ声がケータイの向こうから聞こえてきた。
『ようやく電話してきたわね。KAIN・・・であってるわよね?』
確認が取れる前にその態度って・・・違っていたらどうするつもりだったんだろうか?
一瞬、いいえ違いますと言おうかと思ったが、無駄に電話代を増やしたくないので辞めた。
「ああ。それで?ここまで電話を要求したという事は、何かあるんだろ?」
早速本題に入る俺に凛は、少し待って。と呟くと、ケータイの向こうで凛の声が遠くなった。
それと共に鍵がかかる様な音がしたから、何処かの扉でも閉めたのだろうか?
考えている間に、お待たせ。と凛の声が返ってきた。
『まず、初めに・・・EOWから強制ログアウトされた理由は知ってる?』
理由も何も、公式で発表しているじゃないか・・・重大なトラブルが発生したって。
『ああ。言い方を変えるわ。その重大なトラブルが何かもう知ってる?』
凛は何が言いたいのだろうか?
そんなゲーム運営側の情報なんて、一般ユーザーに知らされるわけないだろう。
それとも何処かで、情報が開示されているのだろうか?
『まだニュースを見てないのね。KAIN、そこにテレビはある?あるならニュース番組をつけてくれる?』
「ニュース?来夢。悪いが、テレビつけてくれないか?チャンネルはCGBで!」
丁度風呂上がりに、豆乳を冷蔵庫から取ってきた来夢に頼み、凛に言われたようにテレビをつけてもらう。
ちなみにCGBは、ニュース専門チャンネルのテレビ局名だ。
「もう、人使いが荒いなぁ。はい、これでいい?」
「悪い、助かる。今テレビをつけたが・・・おい、まさかこれが原因か?」
テレビに映ったニュースを見て、俺も来夢も固まった。
『繰り返しお伝えします。本日17時頃、東京都港区にあるKC社の新橋支社で大きな爆発がありました。なお、この爆発での死者は無く、社員5名が手や足に軽い火傷を負ったという事で、KC社は事件の究明を急ぐと共に・・・』
一体、どういうことだ。
ニュースキャスターが報告している爆発した会社は、EOWの開発運営をしてる会社じゃないか。
『・・・多分、間違いないわ。この爆発が起きた場所は、KC社のEOW開発サーバーらしいし、それに時間が気にならない?』
「ああ。それは俺も考えた。逆算ミスやラグがなければ、余りにも一致しすぎてる。」
そう。・・・この時間帯、17時頃は鎧武者が倒れた時間帯だ。
それにしても何故凛は、爆発した場所まで特定できているのだろうか?
『ああ。それはね、私がKC社の社長令嬢だから。』
はい?社長令嬢とか聞こえたぞ?・・・何だただの幻聴か。
それにいくら社長令嬢でも、そんな簡単に会社の情報を知る事ができる訳ないだろう。
全く、冗談を言うならもっとうまく言えばいいものを。
『むっ?なんか今、失礼な事を考えたわね。まぁいいわ。明日の日曜日、暇かしら?もし暇なら家に来なさい。私が社長令嬢だと証拠を見せてあげる。あとついでに事件の詳しい話を説明してあげるわ。』
だから、何で凛は俺の考えを読めるんだ・・・。
それにいきなり来いって・・・凛の家の住所なんて知らないぞ、俺。
『住所は後でメールで送るけど・・・ところでKAINって東京在住?』
誘っておいて、今さらそれに気がつくのかよ。
この場合、運がいいのか悪いのか、俺達が通う大学は奥多摩に有り、寮も大学から徒歩30分圏内なので東京在住だ。
その事を話すと、なら問題ないわね。と凛の家に行く事が半ば強制的に決まった。
細かな時間とかは電話終了後、メールで伝えるとの事だが・・・。
リアルで一度も逢ったことが無い俺なんかを、そんな簡単に信じていいのだろうか?
個人的には、凛の将来が若干心配になりましたよ?
『ふふん。KAINに心配されなくても、私の家の警備は万全よ?万が一、私の美しさにKAINが暴走したとしても触れられる事無く、即牢獄きよ!お生憎様。ねぇ、悔しい?』
何だろう、凛の奴・・・変なスイッチでも入ったのだろうか?
そもそも凛のリアルを知らない俺が、美しいと思うかどうかが、先の問題だと思うのだが・・・。
それこそ男だが、見た目だけは美女レベルのが隣にいるからな・・・嫌でも美しい人の基準が高くなる、残念な事に。
「誡。・・・さっきから誰と話しているの?」
『ねぇ、KAIN?さっきから遠くで声が聞こえるんだけど・・・もしかして、そこに誰かいるの?。』
ある程度の話がまとまった所で、来夢と凛が同時に話しかけてきた。
全く、説明が面倒だ。
俺は凛との会話をスピーカー出力にすると、CBが居る事を凛に伝える。
『・・・誰か居るなら、居るって先に言いなさいよ!恥ずかしいじゃない。』
何を今さら・・・というか、俺にはいいのか?
それと恥ずかしい方が優先なのか?会社の需要機密のほうじゃなくて・・・。
結局、明日はCBも一緒に、凛の家へ行く事になった。
・・・結局、凛のリアルネームもリアルボディも知らないんだが、大丈夫か俺?