第20話/ついカッとなってやった。後悔はして・・・いる?
<MOVE>
システムボイスが頭に響く。
光に包まれた俺達は、何処かに転送されたようだ。
目の前に広がるのは、ゲーム開始時にあの少女と出会った、一面スクリーンで囲まれた部屋だった。
明るくなった事で、初めて分かったが思ったより広い部屋だ。
見た感じ、端から端までは200メートルはありそうだ。
そしてあの時と違うのはスクリーンは全て白く光っているのと、一部のスクリーンが破損して0と1のデジタルデータが見えている事だ。
「みんなぁ~大丈夫?」
「ここは何だ?おい、KAIN!これはどういうことだ?」
桃華の声を合図に、お互いの無事を確認し合うギルドメンバーの応答が聞こえる。
どうやら皆、無事の様だ。
普通じゃない状況を悟った凛が隣に並び、こちらに問いかけて来る。
とはいえ、俺自身も何が何だか・・・助けを求める声に反応して飛ばされたとしか。
<助けて。>
その時、再び助けを呼ぶ声が俺の頭に響く。
声に誘われるように部屋の左奥を見ると、壁を背にしているあの少女が居た。
少女の対面には、青白く光る鎧武者らしき者が刀を突き付けて立っている。
その光景を見た俺は、本能的にこのままでは少女が殺されると思った。
所詮ゲームのEOWだ。
実際にはデータ同士のやり取りでしかないはずなのに、何故だかその時俺はそう思ってしまった。
思った瞬間、俺の中で何かがキレた。
「させるかぁぁぁ!」
「ダメだよ!KAIN。一人じゃ無茶だ!」
CBが止めるのも聞かずに気がつけば刀を抜いて、鎧武者へと一直線に走り出していた。
<イレギュラーが入ったか・・・しかし、優先順位変わらず。まずはクイーンの排除・・・。>
「何だ、この声?」
「おい、KIRIKA!私の装備を返せ!KAINのバカを止める!」
どうやら鎧武者の声らしきシステムボイスは、他の皆にも聞えているようだ。
呆然と呟くKIRIKAの声と、それに詰め寄る様な凛の声が後ろから聞こえる。
目の前では、鎧武者が少女の体へ刀を突き刺そうと、後ろに引き絞った。
このままでは間に合わない!
走りながら俺は、咄嗟に黒霧の刀を顔の横で垂直に構える。
<クイーンの排除!>
「一刀流【虎牙】!間に合えぇぇぇ!」
≪スキル発動・一刀流【虎牙】≫
一か八かの賭けだった。
鎧武者を攻撃しても間に合わないとふんだ俺は、今まさに少女へと突き刺さろうとしている刀めがけて、虎牙の牙突を撃ち込む。
「ぐっ!」
賭けは成功し、金属同士がぶつかり合う音と共に鎧武者の剣先が少女を逸れて、後ろのスクリーンに突き刺さる。
一方こちらは、弾かれた反動でスキルモーションがキャンセルされ、反動で後ろに飛ばされた。
発動中のスキルモーションがキャンセルされるなんて・・・いったいどれだけレベル差があるんだ。
<・・・イレギュラー。何故、邪魔をする。その者を逃せば、世界は終わるのだぞ。>
鎧武者の声に前を見ると、スクリーンに刺さった刀を手にしたまま、こちらを向いていた。
キレて突っ込んだはいいが・・・はっきり言ってかなりピンチだ。
ぶっちゃけ衝動的に起こした事なので、この後の事は何も考えていない。
さて、どうしたものか・・・よし、まずはどのくらいレベル差があるのか確認するとしよう。
鎧武者の頭上を見てみると、そこに映し出されたのは【ミn亜m●と頼ミツ:unknown】の文字。
いや、これどう見てもバグだろ・・・運営、仕事しろ。
<答えを持たぬか・・・ならばそこで大人しくしておれ。>
おいおい!なんか、再び刺さってる刀を抜こうとしてるんだが。
これって、問いかけの答えを言わないと、再び少女が狙われるってことか?
またさっきみたいな奇跡を、起こすなんて俺には無理だぞ!?
ええっと、落ちつけ俺・・・確か、何故邪魔するか?だったか?
この子を護る理由か・・・ふむ。やっぱりあれしかないよな、最大の黒歴史。
よし、ならば派手に行こう!痛い人風に。
「おい、待てよ。俺は護る英雄になる!って、その子に言ったんだ。だからお前を止める!」
うん。完全に痛い解答だな。・・・黒歴史再びって感じだ。
「妖術、大火炎!」
「はぁぁぁ!」
俺の解答に鎧武者が何かを応える前に、声と共に俺の横を通過する物が2つ。
一つは、CBが放ったと思われる炎の塊。
それに追随する形で、KIRIKAが朱槍を鎧武者に叩きつける。
「KAIN!僕達も援護するよ。」
「何のイベントか知らないけど、その子を逃がせばいいんだろ?」
後ろから追いついたCBと、攻撃後バックステップで戻ったKIRIKAが俺の左右へ並ぶ。
CBの手には扇子では無く、古代の鏡みたいなものを持っている。
どうやら混乱状態から戻り、何かのイベントだと理解したみたいだ。
今まで加勢が遅れたのは、装備の変更をしてたみたいだ。
そして鎧武者との距離が開いた今、後方からさらなる追撃が撃ち込まれた。
「燈狐さん。その娘さんを今のうちにこちらへ連れて来て下さいな。」
「任せて!さぁ、こっち!」
鷹乃宮からの射撃が鎧武者にヒットする度に、その姿が煙に隠れていく。
ギターの装備を外した燈狐が、素早い動きで少女の元へ辿り着くと、すぐに抱きあげて桃華の元へと下がっていく。
ギターを装備していた時にはわからなかったが、その動きはまるで時代劇に出てくる忍者の様に速い。
桃華の横では、凛がいつもの装備に戻り、ウィンドウで何かを確認している。
「では、とっておきですわ!」
「やばい。Cherry!KAIN!下がるぞ!」
鷹乃宮の不穏な声を聞き、KIRIKAの合図で俺達は後ろに全力で跳ぶ。
俺はステップのモーション制御が発生した事で、鎧武者とかなりの距離が開いてしまった。
しかし、これは逆に良かったかもしれない。
着地と同時に見たのは、10連発のミサイルが鎧武者にヒットする光景だった。
ヒットする度に爆風を起こして、ダメージ判定範囲が増えていく。
もし、あのままわからず立っていたら間違いなく巻き込まれただろう。
・・・避けないってこと考えなかったのだろうか?
<この程度で我を止めようとは・・・片腹痛いわ!>
全てのミサイルがヒットした所で、鎧武者が声と共に壁から引き抜いた刀を、横に一振りする。
それまで漂っていた爆煙が全て吹き飛び、鎧武者の姿が再度露わになる。
またその姿に一切の傷は無く、HPバーは1ドットも減っていなかった。
「そんなぁ!私達の攻撃が無傷なんて!レベル60以上ってこと!?」
「・・・ありえない。そんなモンスターは公式では発表されていない。」
その光景に、桃華とMAIKAが愕然している。
考えてみればこのギルド桜花狂乱は、現状このゲームでトップギルドなのだ。
そんな彼女達が傷一つ付けれないと言う事は、現状このゲームに置いてこの敵を倒せる者が居ないと言ってもおかしくない。
もし噂通りならば彼女達は、今までに発表されているボス達を全て倒しているはずなのだ。
そんな彼女達が一切の傷を着けることができず、また公式にも載っていないモンスター。
これは、本格的にバグモンスターととらえるべきかもしれない。
流石の運営も、攻略不可モンスターを出してゲームバランスを壊すような危ない事はしないだろう。
そんな事をすれば、ゲームとして機能しなくなる。
それにもし、時間をかけてレベル上げをすれば倒せるとしても、現状では退路もレベル上げする時間も無い。
つまりこの現状は・・・。
<イレギュラー、滅びよ!無ノ太刀【斬】>
「KAIN、危ない!」
考えに集中していた俺は、CBの声で現実に引き戻された。
見ると鎧武者が横に刀を振るうのに合わせて、半円状の斬撃がこちらに飛ん来ている。
CBは咄嗟に俺を庇い、覆いかぶさる様に盾になってくれた。
おかげで俺は助かったが、隣でガード体制をとって耐えようとしたKIRIKAは、防御に使った朱槍が真ん中から折れると、悲鳴と共に後ろへ吹き飛ばされた。
飛ばされたKIRIKAを追って、後方を見ると少女を庇った燈狐や凛を庇った桃華も、共に吹き飛ばされている。
MAIKAは銃撃後に、スキルの反動で硬直していた鷹乃宮を庇った様だ。
「おい!CB、しっかりしろ!」
「ごめん、KAIN。さすがの僕でも、この敵には勝てないかも・・・。」
ずり落ちてきたCBを、俺は慌てて腕で支える。
実際の痛みは無いはずなのに、支えた腕の中しゃべるCBはとても苦しそうだ。
HPバーを見てみると、レッドゾーンの半分を超えていた。
慌てて周りを見渡してみると、HPバーが黄色まで残っているのは俺と凛だけだった。
どうやら、鷹乃宮が庇ったMAIKAだが、完全に庇いきれなかったようだ。
そして直撃を受けた全員がまるで痛みに感じるかのように、苦しんでいる。
とても、すぐに動ける状況じゃない。
本当にこれがゲームなのか!?
「このままじゃ持たない。・・・おい、あんた。逃げれるなら、逃げな。ここは長くは持たない。」
俺の後ろで、凛が誰かに指示を飛ばしているのが聞こえた。
そちらを向くと少女が頷き、その場で姿を消す所だった。
彼女が撤退することでイベントも終わるかと思ったが、どうやらそうも行かないらしい。
というか、これは本当にイベントなのだろうか?
<世界の終わりを望むか。良かろう、イレギュラーよ。ここで殺してくれる!>
「やらせるかよ!激龍連撃!」
≪スキル発動・激龍連撃≫
再度攻撃体制に入ろうとした鎧武者に、俺が飛び出すよりも早く凛は近接すると連撃を放った。
スキルモーション制御で加速されている為か、その動きを俺は目で追えないが、確実に連撃を決めているようで打撃音が響く。
しかし、鎧武者はダメージを受けた気配は無く、連撃を放つ凛の動きをとらえると、刀で下から上へと凛を撃ち上げた。
「がっ。」
「凛!」
苦しそうに呻くCBを寝かせ、俺は慌てて凛を助けるべく飛び出す。
その間にも空中に舞った凛へ、鎧武者は次々と剣撃を撃ち込む。
その光景はまるで、ラケットの上でボールを弾ませて遊んでいるようだった。
凛のHPバーが遂に残り僅かになった時、鎧武者は凛を空中高く飛ばす。
そのまま落ちてくるときに合わせて、牙突の構えをする。
「やめろぉぉぉ!」
≪スキル発動・ブレイクダウン≫
右手にある黒霧の刀で鎧武者を切りつけようとした時、俺の左腕は叫びに応えるが如くシステムボイスと共に紋章が浮かび上がる。
そのままモーション制御が発生し、オーラを纏った左腕が鎧武者の体を貫いた。
その瞬間、俺は左腕に何かを掴んだ感覚を得た。
そのまま俺は掴んだ物ごと引っ張るように、左腕を引き抜く。
<ナンダ・・・コレハ。>
俺の一撃でタイミングを逃した鎧武者の攻撃をすり抜け、落ちてくる凛を慌てて抱きとめる。
よかった。落下ダメージを軽減した事で、3ドット程HPバーが残ってる。
俺はすぐさま凛を抱いたままで、CBの元へバックステップする。
その間、鎧武者は制御プログラムを失ったが如く無差別に刀を振るい、何やらもがき苦しんでいる。
有り難い事に、がむしゃらに振り回している攻撃には、先ほどの斬撃は無い。
「ごめ・・・KAIN。助かった。」
「気にするなよ。そこで休んでろ。」
凛をCBの隣に寝かせると、俺は左腕に持っている物を改めてみる。
≪アイテム:白銀の鞘を手に入れました。≫
≪アイテム:鞘を破棄します。≫
≪スキル・一刀流奥義【飛燕】を習得しました。≫
今までの時が動き出したかのようにシステムボイスが響くと、腰に着けていた黒霧の刀の鞘が砕けて消えた。
どうやら鞘が変わった様だ。
そして、そのおかげで新しいスキルも手に入ったみたいだ。
しかし、どうしたものだろうか?
相手のレベルがわからない上に、桜花狂乱のメンバーですら攻撃が通じなかったのだ。
果して俺に勝てるのだろうか?
・・・まぁ普通に考えれば無理だろうな。
ただ、あのスキル・ブレイクダウンは効いているみたいだが。
しかし未だに発動条件もわからないし・・・仕方ない、これは負けを覚悟しよう。
そうだ。どうせ負けるならせっかくだし、新スキルを使ってみるのもいいかもしれない。
<イレギュラー・・・ナンジラハ、セカイノオワリヲノゾンダ。モンハ・・・ヒラ・・・カレ・・・タ・・・>
あの技を受けてから鎧武者の言動は、段々機会音声に近くなっている。
まぁそんなことはどうでもいい、とりあえずは新スキルの試し打ちだ!
負ける前に一度は撃っておきたいじゃないか。
「物は試し!」
動きを止めた鎧武者に、俺は一度鞘に黒霧の刀を納めると、一気にステップで距離を詰める。
そのまま五月雨を放つ時の様に右に一回転し、その遠心力で抜刀する。
え?納刀した理由?いや、鞘だから抜刀術かと思って・・・。
「一刀流奥義【飛燕】!」
≪スキル発動・一刀流奥義【飛燕】≫
しかし、どうやら抜刀術じゃなかったようだ。
モーション制御で飛び出した刀を空中で右手に掴むと、そのまま鎧武者の胴を左から右へ切り込む。
斬り込んだ反動で回転の動きが緩むが、すかさず今度は左手に持った鞘を逆手持ちの刀の如く、鎧武者の胴の切り口に突き立てる。
飛び散った返り血を気にせず、今度は左腕に力を入れて鞘を押しだす反動で、鎧武者の胴を右から左へ斬り裂く。
切り裂いた勢いで鎧武者に背を向けると、俺は刀を血を掃い目の前で水平に納刀する。
キンっと刀が鞘に収まる音に合わせて、鎧武者が胴から上が崩れ落ちて砕け散った気配を感じる。
残った下半身も数秒の後に砕けて消える。
「倒した・・・のか?」
このスキル・・・どれだけ強いんだよ。
見るとMPバーは空っぽだった。
振り向き鎧武者の最後を確認した後、凛達へ振り向こうとして俺の意識は途絶えた。
<世界を終わらせる七つの大罪は解放されました。>
最後に脳に響いたこの言葉を残して。