第19話/ライブ!そして・・・。
「あ!凛ちゃん起きた?なら、今さらだけど、メインイベントの前に自己紹介しようかぁ。」
俺の隣にで不機嫌そうにしてる凛に気がついたのか、桃華がメンバーを整列させる。
ところでメインイベントって・・・この花見がそうじゃないのか?
「よし!まずは私から~!ギルド桜花狂乱のマスターにして、ヴォーカル担当の桃華ちゃんです!」
ノリノリで小さな敬礼とウィンクをしてるが、なんだろう・・・違和感がない。
なんか素人じゃないみたいな・・・それにヴォーカルって?
「次は私だな。コーディネーター&前衛担当のKIRIKAだ。よろしく!」
凛に浴衣を着せた犯人でもあるポニーテール巫女が、目元で横ピースを決めてる。
あ。凛にすげー睨まれて、表情が引き攣ってる。
「・・・ベース&魔法担当、MAIKA。よろしく。」
黒髪のショートヘアーに黒地に赤の模様が入ったミニスカートの着物ドレス姿で、自己紹介してくる。
あまりしゃべらない所を見ると、無口キャラ見たいだけど・・・その左目の眼帯はファッションですか?
「・・・うん、お気に入り。」
あ、そうですか・・・なんだろう。このギルド、痛い子しかいない気がする。
「わっちはギター&サポート担当の燈狐。よ・ろ・し・く!」
さっきまでギター弾いてた吟遊詩人の人か。
良く見るとロングストレートの金髪に隠れて狐耳が見えてる。
どうやら尻尾もあるみたいだが、この人も相当テンションが高いな。
「私の番ですね。私はキーボード&射撃担当の鷹乃宮と申します。お見知りおきを。」
一言で言えば、清楚な純和風のお嬢様。
セミロングの黒髪に、白とピンクの振袖が似合っている。
それにしても吟遊詩人の職業ならば、キーボードもわかるけど・・・射撃?
「ああ、それは後でわかるよ。さてと・・・最後は僕だね。ギルド桜花狂乱の副団長&マスコットアイドル!Cherry blossom。キラッ!」
「「「ただし、男である!」」」
おお!CBのノリノリの自己紹介に、桃華・KIRIKA・燈狐のそれぞれ笑いながらも、息のあった突っ込みが入ったな。
この人達、いつもこのノリなのだろうか?
「え?え?ええ~!!KAIN。どういう事?ねぇ、まさか・・・」
「うん。僕は性別は男だよ?男の娘をやってるけどね!」
うん。やっぱり凛の奴、CBを女だと思ってたな。
あ、すげーショック受けてる。なんか、これが男・・・とか膝ついて呟いてるし。
そんな凛を一時放置して、俺はメンバー全員とフレンド登録しておく。
何故か、ついでにチームに誘われたので俺と凛のパーティーはチームを組む。
チームとはパーティー同士を組み合わせた物を言うらしい。
EOWは1パーティー6人で、1チームは最大6パーティーの36人で組めるとの事。
他にも、ギルド同士で組むグループというのもあるらしいが・・・まぁ今は関係無いな。
「さて!それじゃメインイベントに行こうかぁ!皆、準備できてるぅ~?行くよ~!しゅっぱーつ!」
そういえば、さっきからメインイベントの前とか言ってたが・・・何しに行くんだ?
気にせずついていけばわかると言う事で、俺と凛は和服と浴衣のまま森の奥へと進むギルドの後について行く事にした。
先ほどまでの森とは一転し、禍々しい雰囲気の森が続く。
再び開けた所出ると、桜花狂乱のメンバーはフィールドの中央に先行する。
「我に挑むは、汝らか!」
野太い声と共に、中央で何か大きな体が立ちあがる。
「さぁ、華麗に決めるよ!」
「OK!モモ、歌姫よろしく!Cherry。GO!」
「了解!」
桃華の掛け声を合図に、CBとKIRIKAが走り出した。
CBは扇子を装備しており、KIRIKAは朱槍のようだ。
中央で立ちあがったのは、大きな鎧を着た鬼だった。
全長3メートルはあると見える。
「おい!あれは【酒天童子】だろ?いくらトップギルドでも二人で何て無茶だ!」
凛は援護に行こうとして、KIRIKAに浴衣装備にされていたのを思い出した。
慌てて装備画面を操作して、装備を整えようとしているが・・・。
「くそ!あいつ、私の手を使ってこっちの装備を変更してやがる。しかも、装備品を持っていきやがった!」
ふむ。どうやらKIRIKAは凛の手を操作して浴衣装備を装備しただけではなく、外させないために着ていた装備一式を持って行ったようだ。
あの短時間でよくやるな。・・・でも、ぶっちゃけそれ違反じゃね?
それにしても慌てているのは凛だけで、他の桜花狂乱メンバーは余裕で二人の動きを見ている。
突っ込んだCBとKIRIKAは、まるで踊るように前後の立ち位置を交互に変えつつ、確実に一撃を入れていく。
二人の攻撃はまるで連撃の様にコンボが重なり、攻撃を出そうとする度に酒天童子の体がよろける。
状況を見る限り、凛が慌てる程強くは見えないのだが・・・。
試しに酒天童子の頭上を見てみる・・・【酒天童子:レベル45】。
何これ・・・どんだけ強いの、思いっきり赤文字だよ。
しかもHPバー3本もあるじゃん。
「凛ちゃん、あの二人なら大丈夫だよ!それよりもここからが私達の活躍だから、ちゃんと見てて欲しいなぁ!」
笑顔で微笑む桃華は装備画面を操作すると、両手を使って瞬時に装備を切り替えた。
くそ、そんな一瞬じゃ見えないじゃないか。
早着替えを終えた桃華の姿は、超ミニスカートの着物ドレスだった。
「むぅ、やりおるわ。野郎共、我を助けよ!」
おっと桃華に気を取られているうちに、酒天童子のHPバーが1本無くなったみたいだ。
なんか、すげー不吉な言葉を話してるんですけど・・・酒天童子近くの地面が妙に盛り上がってるし。
地面から出てきたのは、大量の鬼。
さすが、鬼の総大将と呼ばれた酒天童子。
そういえば、酒天童子って、酒呑童子とも朱点童子っても書くな。
そして、大量に湧いた鬼がこっちに向ってきてるのは気のせいでしょうか?
きっと、気のせいじゃないよね・・・名前文字の色が赤色なのですが、俺勝てませんよ?
「それじゃ、みんな!いっくよ~!フェアリーダンス!」
おっと、掛け声と同時に桃華が歌いながら踊りだした。
あれ?この曲どっかで聞いた事有るような・・・。
どうやら桃華は支援系の吟遊詩人の様だ。
彼女の歌と踊りに合わせて、チーム全員に攻撃力強化・防護強化・速度強化が次々に追加されていく。
正に全身を使った音ゲーの様に、モーションのポーズによって強化される物が変わる様だ。
横では鷹乃宮が、桃華の曲に合わせて肩掛けのキーボードを弾き始めた。
・・・そのキーボード、なんか先が出っ張ってませんか?
そしてキーを弾くたびに、キーボードの先から弾丸が次々と飛び出した。
なるほど、鷹乃宮はガンナーだったのか・・・てか、それ銃?
「このキーボード型マシンガンは、Sレア級アイテムですわ。」
襲い来る鬼に次々と鉛の弾を撃ちこみつつ、めちゃくちゃ微笑んでるんですけど・・・。
その後ろではMAIKAがベースで桃華の曲を支援しつつ、口早に何かを唱えてる。
「・・・ネクロファンタズム!」
お?鷹乃宮から放たれた弾丸の雨を抜けた鬼が、いきなり前のめりに顔面から地面に突っ込んだ。
それも一人や二人ではない。
良く見ると地面から生えた手に鬼達は足首を掴まれている。
・・・あれ?なんかそのまま地面に引きづり込まれてませんか?
「楽しい死霊の宴にご招待。」
うわ・・・すげーいい笑顔。
というか、MAIKAの演奏と呪文があってないな。
・・・しかも、魔法使いじゃなくてネクロマンシーかよ。
どんどん地面に引きづり込まれてる鬼が、めちゃくちゃ嫌そうな顔で抵抗してるんですけど。
この状況には、敵ながら同情する・・・あ、最後の一人が悲鳴を残して消えた。
「もう、MP消費早過ぎるよ!はい。青ポーション。」
さっきまでギターを桃華に合わせて弾いていた燈狐が、足元の鞄から青色の液体が入った瓶を取り出す。
そして栓を抜くと、MAIKAの口に突っ込んだ。
MAIKAが苦しそうなんだけど、これで大丈夫なのだろうか?
「けほっ。・・・燈狐、もう少し優しく。」
あ。やっぱり苦しかったのか、涙目になってる。
「・・・噂はマジだった。マジでたった6人で酒天童子を圧倒してる。」
諦めたのか浴衣姿のまま戦闘を見ていた凛は、唖然とした感じで言葉を漏らした。
ふむ。どうやら前に凛が言ってた、大手ギルドが束になっても勝てない相手ってのは、こいつだったようだ。
「ラスト!決めるぞ、Cherry!」
「いいよ!KIRIKA!」
酒天童子の最終HPバーが残り半分を切った所で、CBとKIRIKAが一旦敵から距離を取った。
互いに背中合わせで横並びになると、酒天童子に向けてそれぞれの得物を向ける。
「「フェアリーダンス・フィナーレ!!」」
桃華の曲に合わせて、二人は背中を軸に回転をする。
どうやらスキルモーションが発動しているらしく、その回転速度はどんどん上がっていく。
回転速度が最大になった所で、まずはCBが酒天童子へ向けて飛び出した。
そのまま酒天童子に攻撃を連続して打ち込み、防御態勢を崩していく。
崩れた所を後を追って飛び出したKIRIKAが、飛び込むとその勢いを殺さずに槍で連続突きを打ち込む。
「我が死ぬか・・・これも定めなり。」
スキルモーションが消えると同時に、酒天童子はそんな一言を残して砕け散った。
「お疲れ様ぁ。今日のライブも面白かったねぇ!」
戦闘が終了し、それぞれが戻ってくると桃華が満足そうに言った。
・・・ん?ライブ?討伐じゃなくて?
「その曲、まさかとは思うけど・・・【シークレット・ブロッサム】?」
凛の言葉に、桃華が正解~!とか言ってるが何の話だろうか?
「よかったぁ。知られてないかと思っちゃったぁ。今日は凛ちゃんとK君の為だけのライブだったんだよぉ!楽しんでくれた?」
だめだ、話についていけない。
仕方がないので、凛に聞いてみる事にする。
どうやら桃華達の正体は、ネットアイドル【シークレット・ブロッサム】だそうだ。
なんでもリアルの姿じゃなくて、アバターによるライブで有名ならしい。
・・・ぶっちゃけ、アイドルユニットとか興味ない俺は知らないんだが。
CBだけは正規ユニットの関係者ではないそうで、たまたまベータテスト時代に桃華が出会い、意気投合した結果このギルドができたらしい。
なるほど。俺が曲に聞き覚えがあるのは、CBが良く部屋で流してる曲だからか。
<・・・けて。>
「ん?何だ?」
一人納得していた俺は突然、頭の中で声が響くのを感じた。
「K君どうかした?」
俺の様子に気がついた桃華が、聞いてくるので誰かにささやかれた気がすると伝える。
<たす・・け・・て。>
「まただ・・・誰かが助けを求めてる。」
「誰かからの念話でのヘルプ要請?近いなら手伝うよ?」
再度聞こえた声に反応した俺を、不思議そうに皆が見ている。
<早・く・・き・・・て。>
「早くって・・・一体、何処へ行けばいいんだ?」
「ちょっと、マジでどうしたのよ、KAIN。言っておくけど、厨ニ病は流行らないよと思うよ?」
声からしてかなりピンチの様だ。
聞こえてる俺も余計に焦る。
俺はひたすら辺りを見渡すが、声の主らしき姿は見えない。
尋常じゃない行動に、何事かと心配したギルドメンバーが集まってくる。
凛は心配しつつも、俺の慌てぶりに演技か何かかと呆れている。
しかし、今の俺はそれに応える事すらできない。
何せ何処かで聞いた事有る声が、俺に助けを求めているのだ、それもかなりヤバそうな声で。
それなら一刻も早く助けなければと、俺の英雄思考が訴える。
その時初めて俺は自分の左手に装備したグローブの上に、紋章が浮かび上がっているのに気がついた。
すっかり忘れていたが、ゲーム開始時に少女との出会い後、気が付いたら有った物だ。
その紋章が痛みと共に光をどんどん増していく。
・・・まさか、あの少女に何かあったのか?
「KAIN!何かしたの?」
「KAIN。これって、前に言ってた・・・」
凛とCBの言葉と悲鳴を上げる桜花狂乱のメンバーの声を最後に、俺達は光に包まれた。




