第17話/裸エプロンは中身が大事だと思うんだ!
「おはよう、誡。パーティーの詳細な日程メール出しておいたから、凛ちゃんにもメールしてあげてね。」
LINKSのアラームで目を覚ました俺が聞いたのは、来夢のそんな言葉だった。
・・・パーティー?ああ。ギルドパーティーの事か。
というか、俺はまた寝落ちしたのか。
町で凛と別れた所までは覚えているのだが・・・。
「はい、ミネラルウォーター。トースト焼くけど、誡も食べる?」
「ああ。悪い、貰う。」
LINKSを外して、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを受け取り、500mlペットの半分を一気に飲む。
それにしても、何でこんな時間から来夢は起きているのだろうか?
簡単な物なら作れる程度のキッチンが部屋にあるとはいえ、普段そんなに使わない来夢が珍しく朝食を作ってる。
今日は取っている講義はないはずだが・・・あいつは違うのだろうか?
「え?違うよ。僕も今日はお休み。」
トーストと一緒に受け取った回答を聞く限り、やはり休みであっている。
トーストを3口程食べた所で、ようやく俺の頭が覚めてくる。
そして、来夢が朝食を用意している原因が何となくわかった・・・わかりたくなかったが。
「・・・なぁ、トースト焼いてもらって言うのもなんだが、その姿は何だ?」
「ん?可愛いでしょ!昨日バイト帰りに新しく買ったんだぁ。」
ピンクのハート型フリル付きエプロンはどうかと思うぞ。
おまけに、ショートパンツとキャミソールの上から着けてるせいで、正面から見たら裸エプロンにしか見えない。
「え~!似合ってない?えっちゃんが、この組み合わせをオススメしてくれたんだけど・・・。」
少し凹みつつ、自分の姿を見るのはいいが、そのえっちゃんは来夢を女性だと思って、その服をオススメしたのではないだろうか?
確かに女性がその格好をしてたなら俺も嬉しい。いや、かなり嬉しい。
しかし、男の娘である来夢がその格好をしていても、対応に困るだけだ。
違和感無く似合っている分余計に・・・。
まさか、来夢が男の娘だと知っていて、それでも薦めたなんて事はさすがに無・・・。
「え?えっちゃんは僕が男の娘だって、知ってるよ?」
そのえっちゃんとやらは、一体何を考えているのだろうか?
ダメだ、これ以上考えるのは止そう、頭が痛くなる。
それよりも、パーティーの詳細だ。
俺は残りのトーストを口に入れるとLINKSを被り、メールソフトを起動する。
LINKSで通常アプリだけの起動ならダイブする必要がない。
設定やメール内容などは、バイザー上の半透明な画面に表示される。
一時期流行った拡張現実(AR)の画面を見ている様な感じだ。
さて、メールの内容を見るにパーティーは今度の土曜日、リアル時間で13時から始まるらしい。
場所は・・・【桃源の里】?
「【桃源の里】は、【リムタウン】の東にある町だよ。東洋の文化が中心の町で、【リムタウン】からだと遠いから聖王神殿で行くといいよ。」
説明を終えて、いただきます。と自分のトーストに小さく齧りつく来夢。
ふむ。こうして見てると思うのだが・・・何でこいつは女じゃないのだろうか?
いかん。また思考が脱線した。
現状の問題は、どうやって凛にこの事を知らせるかだ。
来夢はメールしろと言っていたが・・・俺は凛のメールアドレス知らない。
仕方ない。凛がログインするまでレベ上げでもして待つとしよう。
先にダイブしてるとトーストを頬張る来夢につげて、俺はリクライニングシートに横たわるとそのままダイブした。
凛がログインしてくるのを待って、レべ上げしているうちに冒険者のカードがレベル10になった。
どうせなので聖堂協会に行き、転職できるか試してみる事にする。
最初に冒険者のカードとショートソードをくれたおっさんに話しかけて、冒険者のカードを渡す。
「転職を望むか・・・よろしい。では、【侍】・【拳闘士】・【弓兵】・【騎士】・【魔術師】・【鍛冶士】から選べ!」
それにしてもこのおっさん、相変わらず偉そうな上から目線だな。
ともかくまずは職業選択だ。
俺は迷うことなく【侍】を選択。
黒霧の刀を装備している以上、これ以上の嵌まり職はないだろう。
≪職業カードが【侍】になりました。≫
おっさんから【侍】カードを受け取ると、システムボイスが頭に響いた。
ちなみに、職業カードを増やす事はできるらしい。
その場合は職業カードlv10以上で、なお且つ、転職では無く入職を選ぶ必要があるらしい。
どちらにしても、今の俺には関係ない事だ。
ついでに、スキルカードも何かあるかと思い、怪しい仮面の男にも話をかけてみる。
怪しい仮面の男は自分の前にあるテーブルに、スキルカードを置くよう伝えてくるので、所持している全カードを置いてみた。
「ほう。次のカードが示せるが・・・汝、望むかね?」
一体、何を言ってるんだろうかこの男。
目の前にはカードクリエイトしますか? YES/NOと出ている。
わからないが、YESを押してみよう。
「よろしい!ならば、作ろう。この2枚で新たなる導きのカードを!」
本当に、無駄にオーバーアクションを起こす男だ。
並べたカードの上を男の手が通り過ぎると、2枚のカードが輝きだした。
≪スキルカード【ジャンプ】とスキルカード【ダッシュ】が無くなりました。≫
≪スキルカード【ステップ】を手に入れました。≫
・・・何だと?
思わず、システムボイスに突っ込みを入れてしまった。
テーブルを見ると、確かに一枚足りない・・・。
なるほど。カードクリエイトは元のカードを組み合わせて一枚に纏めるようだ。
別に怪しい仮面の男が盗んだのでは無い様だ。
作成後に大げさなリアクションで自画自賛する怪しい仮面の男を無視して、テーブルのカードを勝手に回収すると早速装備してみる。
<ステータス>
LV:15
HP:750/750
MP:750/750
経験値:10/4500
名前:KAIN
職業:侍lv1
ギルド:無所属
コール:43500c
<武器>
右手武器:黒霧の刀
左手武器:無し
追加スロット数:0
<防具>
頭:無し
上着:レザージャケット黒
上半身:綿のタンクトップ黒
腰:布のベルト紺
下半身:デニムのズボン黒
脚:アーミーブーツ黒
腕:革の指開きグローブ黒
追加スロット数:0
<ジョブスキルカードスロット>
カードスロット1:パンチlv5
カードスロット2:剣技lv15
カードスロット3:ステップlv1
カードスロット4:キックlv1
追加スロット数:0
<固有スキル/発動可能スキル>
固有スキル:
・剣術強化
・闘志
発動可能スキル:
・ブレイクダウン
・一刀流【五月雨】・【虎牙】
うん。これでようやくキックが装備できる。
固有スキルの剣術強化は、刀スキルを使用時に攻撃力が増え、闘志はHPとMPを毎秒2ずつオートヒーリングしてくれるようだ。
それにしてもこの男、先ほどから高笑いがうるさい、どんだけハイテンションなんだよ。
丁度その時、開いていたフレンドリスト画面が、凛のログインを表示した。
『凛。パーティーの日程を知らせたいから、いつものオープンカフェに来てくれ。』
『・・・あんた。本当にいつも唐突ね、まぁいいけど。オープンカフェね、オーケー。』
念話をかけると、しょっぱならから凛に呆れられた。
ふむ。何故だろうか?
ともかく俺は待ち合わせのオープンカフェへ向け、聖堂協会を後にした。
まだ、高笑いしてるよ・・・。
オープンカフェに着くと、既に凛が座ってパフェを食べていた。
「悪い。遅くなった。」
「遅い。罰として、ここの代金はKAIN持ちね。」
そう答える凛は、パフェを一口含む毎に顔を幸せそうに緩んでいる。
・・・待たせたのも事実だし、仕方がない。この笑顔に免じて奢るとしよう。
凛をこうして見ていると、身長のせいか本当に少女にしか見えない。
もしかして、リアルでは中学生くらいなのだろうか?
「それで日程は?」
凛は、パフェを食べるのを止めると要件を切りだした。
・・・うん。せめて、座らせて下さい。
席に座り、NPCの店員にミルクティーを頼んでから、ざっとCBからのメールの内容を教えた。
「【桃源の里】にリアル時間で13時ね、OK。要件はそれだけ?」
話を聞き終えた凛は、再びパフェ食べ始めた。
「いや、もう1つ。凛が良ければメールアドレスを交換しないか?」
今後の事を考えて、メールアドレスの交換を提案してみる。
別に俺は何か下心があるわけでもないのだが、凛は微妙な顔でこちらを見ている。
確かに、リアルの情報の詮索や情報開示を求めるのは、どのゲームでもマナー違反だろう。
しかし、今回の様な場合にメールアドレスを知っていると何かと便利なのも事実である。
大概、こういう場合は両者が納得して交換を求める事はさほど少なくない。
まぁ凛が嫌であるならば、無理強いはできない。
凛は納得したのか、頷くとメニュー画面を開いてメールソフトを起動した。
「仕方ないか。いいよ、そっちにメールアドレスを送るからアドレス教えて。」
俺はメールソフトをから自分のメールアドレスコピーすると、念話で凛に教える。
教えて終わると、すぐにメールソフトに登録されて無いメールが受信された。
念の為、アドレスがあっているか空メールを送り返して、凛に確認する。
うん。あっているようだ。
こうして、俺は凛のアドレスをGETした。
ついでにメールを確認していた凛が、急遽用事ができたと慌てて落ちたので、運ばれてきたミルクティーを飲みほしてからNPCに清算をお願いする。
「季節のパフェ2つにミルクティーで1800cになります。」
・・・あいつ、二つも食べてたのか。
KAINの所持金が40700cになりました。
次回は、宴になるはず・・・?