最終話/人の話を聞かない奴だ。
「のあっ!いてて。」
吹っ飛ばされた反動で、思いっきり地面に転がったわけだが・・・。
正直、よく生きてたな俺。
あ、HPバーが少し減ってる。
さて、玉藻は入れないようだけど、ここは二人を待つべき・・・あれ?
え~っと、何で扉が閉まってるんでしょうか?
ちょっ!一人でラスボス戦とか、マジか?
ステータス的無理だろ、これ!
・・・まぁ愚痴ってても仕方ないな。
とりあえず、先に進むか。
薄暗い部屋の中をひたすら歩き続けたら、階段を発見した。
「ふむ。地下への階段とか・・・RPGのお決まりコースですね、わかります。」
とりあえず、ポーションで回復を・・・あ、ポーション買ってないや。
まぁこの程度なら死なないだろうし、行くか。
もう、どのくらい歩いたのだろうか?
俺は今、地下へと続く階段をひたすら降り続けてる。
まぁ正直、敵が出てこないのはありがたいんだけど・・・これ、ちゃんと終わりがあるの?
お?なんか光を発見!これは出口か!?
とりあえず、全力ダッシュ!
「ゴール。」
「KAIN、やっぱり来たのね・・・って、あれ?」
何て言うか、うん。ごめん。
何だろう、普通なら正面から来た相手に、ラスボスがゆっくりと顔を上げて対峙する場面なのだが。
生憎、俺が飛び出したのは、マリアの真後ろだった。
よって、意味深げに顔を上げたマリアが、しばし呆然としてるのを後ろか目撃してたり。
はっ!これって、倒すチャンスじゃね?
これ、もうバトル入ってるよね?
「あ、そっちから来たんだ。」
「ばれたし!」
まぁこの部屋入る時に、ゴールとか叫んでるしな。
さて、本格的にどうしたものか?
一プレイヤーの俺が管理者権限持ちに勝てるとは、正直思えないのだが・・・。
「さて、KAIN。話をしよう。」
「話?何の?」
おーい。何か、こっちの意見を無視して、ひたすらしゃべりだしたよ?
「そういうわけで、君が決めるんだよ。わかった?」
「いや、ごめん。もう一度、お願い。聞いてなかった。」
え?何で、睨まれるの?だって、仕方ないじゃん、こっちの準備も気にせず話し出したし。
マリアの説明によると、俺が迫られる選択は二つらしい。
一つ目は、マリアをこの場で倒す事。
二つ目は、このままマリアを見逃す事。
しかもどちらを選択しても、マリアは抵抗しないとか・・・。
なら、決まってるよね?
「よっしゃ、貰ったー!」
「正し、どちらの選択にもリスクがある。前者を選んだ場合は・・・え?」
あれ?なんか今、すげー重要な事を言って無かったか?
てっきり、話終わったと思って、刀を突き立てちゃったけど・・・。
「ぐふっ。・・・KAIN、君がその選択をするとは。」
「え?不味かったの?というか、何か言いかけて無かったか?」
何か、驚いた表情で胸に刀を刺したまま、倒れてるんだけど?
「・・・少しは、人の話を聞くと良いよ。」
「あ、ごめん。とりあえず、抜けばいいか。」
うわ・・・思いっきり、一個抜いたら返り血が凄い事に。
というか、噴水の様に血が出てるんだけど・・・これってまずった?
「ぐっ。容赦ない・・・わね。いいわ、あなたがそのリスクを負って万人の英雄を選ぶなら、救って見せなさい。」
<マザー00、プログラム起動準備に入ります。>
え~・・・俺、やらかした?
って、このままじゃマリア、消えるんじゃね?
というか、血!何で止まらないの?抜いたのに、つうか、そもそもこれゲーム!ん?ゲーム?
刀を見てみる・・・夜刀月華・白鞘。
「あ~!そうじゃん、これ流血効果が!うわ、どうしよう?とりあえず、落ちつけ俺・・・え~っと。」
「一体、何をしているの?さぁ、万人を救うのでしょ?オリジナルのプログラムを何とかしてみなさいよ。」
いや、それどころじゃないって!
そもそも万人を救うって、どういうことですか?
何か無いか、何か・・・ん?そうだ!
俺は刀をしまうと、右腕の振り上げる。
「イメージだ!イメージしろ・・・よし!我が右腕よ!その力を解放せよ!」
≪アクセス≫
マリアの傷口に、光り輝く右腕をそのまま振り下ろして突っ込む。
「ぐぶっ。止めのつもり?一体何を・・あわわわわわ。」
よし、イメージは核を捉えて宝石にするイメージで!
何かマリアが慌てだしたけど、それどころではない。
あれ?何か歪な・・・いいか、掴めれば!
「獲ったどー!」
マリアの傷口に突っ込んだ腕を引っこ抜く。
ちゃんと、手の中には狙った物が・・・痛っ!今度は左手?
「・・・何故、紋章が増えたし。」
気が付いたら左手にまで同じ紋章が・・・どういうこと?
<マザー00、初期システム起動まで、後120秒>
あれ?もしかして、マリア倒しちゃった?
「KAIN!無事?」
「殿、これはどういう事なの?」
お?二人もようやく合流か。
ともかく、俺にも何が何だかわからないので、現状を説明。
「それって、これを破壊すればいいんじゃないの?」
「え?マジ?」
凛が指差したのは、さっきからやたらと輝いたり、煙を出したりしてる筒。
ふむ。なるほど、味方によっては生体カプセルにも見えなくは・・・え?まさかこの中に?
「なら、簡単なの!秘奥義【幻凍打滅】・・・発動しないなの。」
あ~・・・そういえば、俺の刀スキルも発動しなかったな。
え?って事は、スキル無しで倒すしかないの?マジで?
「ねぇ、何かどんどんこのカプセル膨らんでるだけど、このままここに居たらまずいんじゃないの?」
「何処か、脱出先を探すなの!」
脱出って言われても、元来た階段は・・・だめだ、カプセルの膨張で塞がってる。
そういえば、最初にマリアが見ていた方向は?・・・お!発見。
「凛、シノ。あそこに扉がある、あそこから脱出しよう。」
俺はすぐさま二人に指差して告げる。
「わかったわ!」
「了解なの!」
返事を合図に、俺は二人に続いて扉へと走り出す・・・はずだったんだけど、すっこけた。
ちょっ!俺、何でこんな所でこけるんだよ!しかも、振り向けばカプセルが迫ってくるし・・・。
「KAIN!何してるなの!速くなの!」
「もう無理!シノ、行くわよ。」
ちょっ!凛、諦めるの早くないですか?
「くっそ!このままだとマジで巻き込まれるだろうが!この野郎!離れろ!」
俺は、思いっきり右腕を振り上げた・・・が、今右手の中にはコアが。
仕方ない、ここは左腕で!って、足が・・・床とカプセルに挟まって、イタタタタ!
「くっそ!放しやがれ、この野郎!」
もう、痛みでイメージ何て出来ない!
とりあえず、八つ当たり気味に、左腕を引き絞り、殴りつける!
≪ドロップ≫
イメージしていないのに、左手の紋章が輝きだすとそのまま、膨張するカプセルにぶつかりカプセルを爆発させた。
「イタタタタ・・・おわっ!」
爆発した反動で余計に足に負担がかかり、痛みが増したと思った次の瞬間、俺は吹き飛ばされた。
<マザー00、保護システムロスト。緊急処置・・・停止。機能修復・・・停止。最終プログラム起動・・・カウントダウン3・2・1>
え?何どういう事?一体・・・あ。
俺の思考はそこで途絶えた。
「はっ!・・・見知らぬ天井?ここは何処?」
はて、どういうことだろうか?
それにしても、口周りに違和感が・・・酸素マスク?
あれ?俺、確か自宅で・・・まさか、また運び込まれたのか?
「誡!良かった。目が覚めたんだね。」
「来夢?え?どういう事」
来夢が医者を呼び、一応検査されている内にどうやら凛や歩も来た様だ。
というか歩、いつの間に歩けるようになった。
そして、そこの少女とおっさん達は誰だ?
「それで?どういうことだ?」
「ふむ。お前さん、本当に覚えてないのだな。」
ん?この声と話し方、そしてその頭・・・まさか!
とりあえず、話によれば俺はマリアとの戦闘から1カ月もの間、寝ていたらしい。
何でも、俺が被っていたLINKSが爆発したとか。
「マジか・・・それで、事件はどうなったんだ?」
「ちゃんと解決したなの!」
お?少女、その話し方は・・・。
おっさんたちの説明によると、こうなるらしい。
事件の表向きは、NA社製基盤の脆弱性をついた眞田個人による、コンピューターウィルステロという事になったとか。
またその隠れ蓑に、EOWが使われた扱いになったそうだ。
ちなみに、マザー00を破壊した事で俺のLINKSは、爆発したそうだ・・・死んだらどうする!
仮に、もしマリアをそのままにしていた場合、最終的には世界中のNA社製基盤が爆発する予定だったとか・・・何それ、怖い。
だってNA社製基盤って、世界中で使われてるんだぜ?
それらが全て爆発したら、この世界が下手したら終わってたんじゃないか?
「まぁ眞田本人は、あの虫風呂で廃人同然になってるけどね。」
「僕も、あと一歩でそうなってたと思うと・・・。」
なるほど、やっぱりあれは精神的に来たか・・・ん?あと一歩って事は、来夢は無事だったのか。
「ふっ。生き残れた事に感謝するのだな。」
あれ?この口調・・・まさか?
「それで、結果的にマリアはどうなったんだ?」
「両方ともスクラップよ。メインサーバーにもデータは残っていないわ。でも、安心してEOWは復元済みだから。」
どうやらあのプログラムは、自爆も兼ねていたらしい。
そういえば、あの修正プログラムって、もしかして、世界を修正しようとしてたのか?
・・・まさかな。
それにしても、幸恵さん。その白衣・・・まさか?
「勿論、幸恵さんには家のゲーム部門に復活して貰ったわよ?」
「ああ、やっぱりか。」
幸恵さんが言うには、今はキュベレーをベースとした管理AIと管理者の双方で運営してるとか。
ん~、そうなると俺が最後に握っていたのは・・・無駄になったのかな?
復旧したって事は、元データは昔に戻ったわけだし・・・。
ちなみにGANTETUのおっさんは、事件時にリアルで警察と連携していたらしい。
一体、何者?
「失礼、ちょっといいかい?」
「あなたは?」
軽いノックと共に、何か知らないおっさんが一人増えた。
「私は、先導 大地。そこの幸恵の兄だ。今回の件で、君のLINKSを調査したものだよ。」
一応、今回の事件で俺も被害者という事で、調べられたらしい。
まぁついでに、LINKSも修理してくれたようだ。
「それで、メモリー内も無事な部分だけ、修復してみたのだが・・・これがリストだ。」
「そうそう、誡君。今回の件で迷惑かけたお詫びと言っては何だけど・・・何貸してほしい事あるかしら?」
リストを受け取って、確認してみる・・・あれ?このデータ、まさか!
「お兄さん?どうかしたんですか?」
「・・・幸恵さん、一つお願いが。こいつを復元して、EOWにロードしてくれないか?狐娘で!」
俺が指差して指定すると、幸恵さんは快く承諾してくれた。
さて、これで楽しみが増えたぞ。
「そういえば、誡。レポートの提出明日だけど・・・大丈夫?」
なん・・・だ・・と?
俺、全くやってないぞ?
提出しないと、確か単位が足りなかったはずだが・・・。
「ら、来夢?」
「ごめんね。僕はもう提出しちゃった。」
きっかけは友人からの誘いが・・・まさか、こんな事になるなんて。




