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クロスハーツオンライン  作者: 天城 枢
ディダラボッチ攻略戦
8/11

『悠久の風』マスター

お久しぶりな気がしますorz

 攻略戦まで時間はかなりある。

 昨日ユート達と飯を食べ情報を交換したおかげで色々と得をした。

 ただ最後の最後までシエルとユートの仲は悪かった。と言っても殺し合いになるようなことは無かったからほっといても大丈夫だろう。

 そして今日はレベル上げの日として亜人族の森へと向かった。またあいつ等が来ていた場合ははっきり言ってやろう。邪魔だと。

 そこで戦いになれば迷いなく斬る。

「っとあぶね」

 考え事をしながら戦うのは危ない。この世界は現実と変わりない、小さな傷も後々大きな傷へと繋がるかもしれないからだ。

 まずは目の前の奴から――――斬る。

 集中することによってさきほどまで躱せていた攻撃が遅く、鮮明に視える。

 躱し、いなし、オークの弱点である心臓部へと一突き。オークのHPを削りきり、ポリゴンと化し消滅した。

 と同時に軽やかな音楽が流れた。

「レベルアップか」

 ステータスを確認。予定通り、器用値(DEX)が最高数振られていた。

「ふむ。このまま続けていれば――」

 ここで死角方向から矢が飛んでくる。ゴブリンアーチャーによる攻撃だ。

「ハァ……鬱陶しい」

 尚も飛んでくる矢を剣でさばき、叩き斬る。攻撃の間を突き一気に距離を詰める。弓を弾き飛ばす。身長差がかなりあるためコツを掴めば簡単に出来る。ゴブリンが驚いている隙を見逃さず上段切りで倒す。

 相変わらずモンスターたちのAIが高性能だ。

 周りに敵がいないことを再確認し、ステータスからスキルツリーへと移る。

 スキルツリーはレベルアップ時にポイントを1貰えそれを割り振っていく。ある一定のレベルまで上げると次のスキルが解放されていく。各スキルの最高レベルは10となっている。俺が取っているスキルは基本バフ系のスキルのためスキルツリーの醍醐味である迷う時間がほとんどないに等しい。

「まぁこれだよな」

 『剣士の誓い』の上位互換スキルが解放されていたのでそれを習得した。まだまだレベルは低いため使う時はいくらか先だろう。


「ふぅ……」

 3時間ぐらいぶっ通しで狩りをしたため、心身共に疲れが貯まっている。森の中でも比較的安全地帯で腰をおろしカルディスに作ってもらった料理アイテムを食す。見た目はキングオークの煮物のようなものでブロック状の肉が調味料を吸い綺麗な艶を出している。やはりうまい。

「隣り良いですか?」

 俺が食べて数分たった頃に正面に影が掛かる。その人物から声が掛けられた。

 顔を上げ見ると、肩甲骨ぐらいまで伸びているセミロングの髪、影が掛かっているが綺麗な顔立ち、服装は見たことのない装備を纏った同じくらいか年上の女性プレイヤーが立っていた。

「あの……?」

「あ、あぁ。悪い。いいぞ」

 シエルも可愛いのだが美幼女(ロリじゃない……ぞ)といった感じだがこの女性は美少女だ。そのため女性に適正の無い俺は少しの間見惚れていたようだ。

 腰に備えていた直剣がシャランと音を立てる。それにより本当に隣りに座ったと実感した。

「ここって良いですよね。森の中でかなり安全で少し移動するだけでMOBの湧きの多い所がありますし狩りするに持って来いですよね」

「そうなのか。昨日来たばかりだからあまり分からないんだ」

 それを聞いて隣りの女性はきょとんとした。

 というよりは俺の顔を見て固まった感じがする。

「あの、昨日会いませんでした?」

「ん?」

 あー、はいはい。運命の出会いとか何とか言って金せびるあれですね。と思ったが次の言葉で違うと分かった。

「キングオークの時です」

「あの時のパーティか……」

 思い出して少々嫌な感じがしたが表情に出さずにいた。

「はい。昨日はありがとうございます」

「ああ。……アンタはえーっとあん時の剣士で間違いないよな?」

 腰の剣から判断してそう言った。その言葉に嬉々とした、とまでは言いすぎだが明らかに表情が変わった。

「覚えててくれたんですね、嬉しいです」

 ニコリと微笑む。不覚にもドキッとしてしまったがそれにも耐えてみせる。

「あ、すいません。まだ自己紹介すらしてませんでしたね。私は『悠久の風』マスター、リノです」

 悠久の風か。昨日ケンジロウに教えてもらったトップギルドの、しかもそのマスター。雰囲気からは想像できないが、俺でも知らない装備品からして多分異常に強い4人の1人だろう。

 危険視してもいい相手だな、と思いいつでも戦える準備をしておこう。

「俺はシズル。所属ギルドは無い」

 簡単に自己紹介する。

「改めて、マスターとしてお礼を言わせてください。本当にありがとうございます」

 今度は頭を深々と下げお礼してきた。

「そういや、他のメンバーは?」

 先ほどから気になっていたことを訊く。

「レベル上げのために各自ソロプレイ中なんです」

 1人じゃかなりきついですけど。と苦笑いしながら言った。

「っそ」

 軽く相槌を打ち、料理アイテムをインベントリに仕舞う。もちろん全部食べて終わってでだ。

 リノはその動作すら気にしていない。普通に考えればかなり失礼な行為だが今後繋がりのあるプレイヤーかは定かではないので俺も気にせずにいた。

「あの不躾で悪いのと思っているのですが、……一時的で、一時的で構わないんで私とパーティ組んでくれませんか?」

 唐突な提案に驚きつつも、この提案は俺としても嬉しい。トッププレイヤーの戦いを間近で見れるチャンスなのだから。

 だから俺は承諾した。

「――ありがとう」

 

 時間は昼を少し越えたぐらいでリノも料理アイテムを食べて2人で森の中を進む。途中でいくらかのゴブリンパーティと当たったが流石マスターと言ったところだ、余裕で狩っていた。

 コンビネーションもそれなりにお互い取れている。

 オークが振り降ろした斧に合わせ下から切り上げを繰り出して動きを止める。

「スイッチッ!」

「はいっ」

 リノは隙の出来たオークにアクションスキルを叩きこむ。

「ウィンドスラッシュ」

 初期スキルの1つで、風属性が付与された一撃。オークの弱点である心臓部と属性弱点の風による効果的な攻撃。

 動きに少し無駄は感じるがそれは俺が特殊なため、目を瞑れば良い戦いである。

 オークのHPが尽きたのを確認してリノが振り向いた。

「流石だわ」

「そんなことないですよ。シズルの的確なアシストのおかげです」

 剣を仕舞い2人で並んで奥へと進んでいく。リノは今日、『亜人族の森』の踏破で全体の7割はマッピングが終わっている。そのため奥地の残り3割を終わらせたいということだ。

 奥に進めば必然的にMOBのレベルも上がってくる。が俺達にとってはそれほど苦でもなく、むしろレベル上げにはかなり良い。

「シズルはスキル使わないけど、どうしてですか?」

「ん? いや、取ってないからだが」

 リノの歩みが止まる。俺も少し遅れて止まる。

「…………嘘ですよね?」

 疑いの目が掛けられるが、この人ならあり得るんじゃないかといった感じの半信半疑の言い方だ。ただその可能性的な問題からその疑問が浮かんだのだろう。

 俺は若干呆れつつ、

「なんなら俺のステータス見るか?」

「あ、ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんです」

 一気にシュンとなった。いちいち気にすることでもないのでスルーして「なら行こうぜ」と言い、歩き出した。

「気にすんなよ。俺は少々特殊なタイプだからな」

 後ろを歩いているのが気になったので手を引き隣りまで寄せる。

「……あっ」

 少し顔が赤くなっているのには驚きだ。男慣れしてそうなのに。

「男慣れしてそうなのに」

「な、慣れてませんよ」

 あれ? まさか声に出てしまったのか。

「そ、そうか」

 今さら気にしても遅いので頷き、そっぽを向く。

 気まずい沈黙が流れるが自らの招いた事なので自分でどうにかするしかない。

「なぁ。ほんとに慣れてないのか?」

「は、はぃ」

 顔は俯いたままでギリギリ聞き取れる程度の声量。

「グルアァァァアアアアッ!」

 ここで嬉しいような、嬉しくないようなタイミングでオーガが現れた。

「わ、私が先行します」

 彼女が照れを隠すように剣を抜き跳躍する。

 すぐさまアクションスキルを放ち、のけ反りを発生させる。俺は気持ちを切り替えて、接近し抜刀からの一撃を放った。通常より激しいエフェクトが切断面を輝かせる。クリティカルヒットだ。

 基本的にどんなゲームにもあるクリティカルヒット。《Cross Hearts on-line》ではLucラック値|(まぁそんなステータス無いのだが)からクリティカル率を決めのではなく命中率――言えば器用値から計算される。そのため俺のステータス上普通のプレイヤーより発生率が高い。

 そしてクリティカル時のボーナスとして相手は少しの硬直時間が科せられる。その隙を見逃さず、後退していたリノが再度スキルを撃っていく。

「サイクロンスラッシュッ!」

 さらに他の属性値を含むスキルを連続で繋げていく。

 同系統のスキルを、終了と同時に放つことで本来スキル後に来る硬直時間が無効化され、さらに与ダメ値を増えていく。

 しかしこれはかなりセンスの必要な行動で失敗すれば当然のごとくペナルティが設けられる。そのペナルティが発動したスキルの合計硬直時間を一気に負うこと。よってあまりこれを習得しているプレイヤーはいない。

 流石だな……連携技スキルコネクト習得してるのか。

 リノによるスキルコネクトとクリティカルを含んだ異常なまでに速い通常攻撃がオーガに反撃の暇すら与えずHPを削り取った。

「ナイスプレイング」

「シズルも流石です」

 互いに称賛し合い、ハイタッチも決める。先ほどの微妙な空気が嘘のようだ。

 そのまま2人でさらに奥地へと進んでいく。すると背の低い草が地を生い茂っていた場所から一気に更地のような、土丸出しなところへと出た。

 俺はマップを開いて場所を確認するがまだ『亜人族の森』となっている。マッピングとしては残り1割程度となっているためここが最深部なのだろう。

「なんか一気に変わった感がするな」

「そう……ですね。なんか空気もピリピリしてる感じですし――――ッ!」

「あぶねっ」

 リノを押し倒し頭を下げさせる。少し離れた位置に矢が突き刺さっている。

 しかしその形状が今までに相手してきたゴブリンアーチャの物とは違うと一目で分かった。ゴブリンアーチャーの矢は木製の荒い物だったのだが、これは鉄でできている。

「大丈夫か」

 周りを警戒して起き上がらせる。

「な、なんとか。ありがとう」

「「グルゥウウウウッ」」

 けたたましい獣の声が響き渡った。その声には聞き覚えがある。ゴブリンだ。その奇声は周囲から聞こえどんどんと大きくなってくる。

 近づいて来てるか。

 そう判断して臨戦態勢を取るようにリノにも言い、直剣を抜く。

「さっきのピリピリした空気ってこれですね……」

「……だな」

 お互いに背を合わせ、来る敵を待つ。ここで逃亡しようとすればさっきの矢に撃たれてハリネズミと化し――死ぬ。と本能で悟る。

 そしてあの矢はボウガンかクロスボウの矢だと判断した。威力やスピードから考えてだ。

 数秒なのか数十分経ったのか分からないが大量のMOBが現れた。もちろんアクティブ状態。見える肌の色からしてゴブリンやオーク、オーガの亜人種系と分かるがその纏っている物が違っていた。普通の森内部に生息している奴らは布や藁の腰みの程度なのだがここに居る奴らは鉄製の防具を纏っている。

「なんだよあれ」

「レベルも格段に上ですよ、あのゴブリン達」

 リノによるスキルなのかMOBたちの情報プロパティが視界端に半透明のウィンドウで表示された。

 そこにはゴブリンナイト、ゴブリンクロスボウ、オーガファイターなどの名前とレベルが書かれている。

 確かに先ほどまで相手していたのとは違うと情報でも空気でも分かった。

「リノ逃げろ」

 危険と判断してリノを逃がそうとするも彼女は首を縦には振らなかった。

「仲間を、友人をここで置いて逃げたら、寝覚めが悪くなります。だから死ぬなら一緒に、です」

「お前はマスターだろ。守るべき仲間や場所があんだろ。そっちを優先しろ」

 譲り合わない言い合いがされる中でも刻一刻と亜人種達は近づいてくる。

「あぁ。もういい。分かった」

 半ば投げやりな台詞を吐き、諦める。

「その代りぜって死ぬなよッ」

「シズルこそ」

 剣を地面に刺し、『剣士の誓い』を発動させる。このスキルは一定以上までレベルを上げることで対象を個人からパーティに切り変えることができる。もちろん消費するSPも比例して増えてしまうが。

 そんなことを気にせずスキルを掛けて互いに一気に眼前の目標へと襲いかかる。

「ハァアアアアアアッ!」

 リノの気合の咆哮が亜人種達の奇声をかき消す。

 俺も気合を入れてゴブリン達をなぎ倒していく。体重が軽いゴブリンは受けた一撃だけで宙を舞う。それを利用してオークやオーガ達を近づかせない。

「ッ!」

 反射的に身を屈める。元あった頭の位置を鉄矢が過ぎていく。

「これは先にあれを潰さないとな」

 そう考えてすぐさま行動に移した。最初の一撃とさっき放たれた一撃から同一の奴だと判断、そこから場所を割り出しそこに奇襲をかける。

「ギュッ!?」

 矢の装填準備をしていたゴブリンクロスボウは驚いたような表情をしていた。

「もうおせぇよ」

 クロスボウを叩き折り、軽装備の隙間――首を狙い、突きを繰り出す。これもクリティカルが出てHPを空にする。

 全体の7割はゴブリンが占めていたため今の所致命傷の一撃は受けていない…………が、残っているのはオーク、オーガの上位種達。100mほど先に見えるリノの方も残りは俺と同じと言ったところだ。

 『剣士の誓い』によるバフが切れているのを確認してかけなおす。

 そして近づいてくるオーク達を一度無視してリノの方へと向かう。体重の重いあの種類は必然的に走るスピードも遅い。故に時間稼ぎになる。

「大丈夫かッ!」

 リノの後ろから迫っていた斧の持ち手部分を切り上げで壊し、その反動を使い体を転身し胴に一閃を放つ。流石に鉄の鎧だけあって肉には届かなかった。その代り衝撃により一歩半ほどオーガは後ろにのけ反った。

「な、なんとか」

「SPポーションはどうだ?」

「残り少ないです」

 それを聞き、腰にある袋から黄色のポーションをいくつか取り出す。

 この袋はあるクエストをクリアすることで手に入るアイテムで一部のアイテムをインベントリからではなく直接取り出すことができる。その分重量が加算されて移動時に不可が掛かるのだが、俺の入れているのは基本ポーション系の物ばかりなのであまり負担にはならない。

「使え」

「でも……」

「いいから」

 目で訴えかける。とはこのことなのだろうか? 俺は真剣に相手の目を見て言ったので伝わったのか頷き、受け取る。

 栓は取ってあったのでそのまま飲み干した。リノのHPゲージの下にあるSPゲージが一気に7割まで回復した。

「これSP大回復じゃないですかっ! 高かったんじゃ……」

「そういうのは後でいいから。さっさと終わらすぞ」

「はいっ」

 とうとうオーク、オーガに囲まれた。がお互い気持ちは弱っていない。むしろ高ぶるばかり。

「ハァアアアアアア」

「オオオオオオ゛オ゛ーーッ!」

 もっとも近いオーガに近づき咆哮と同時に攻撃を放つ。リノはスキルコネクト。俺は連撃。シンプルにそして確実に一体一体を倒していく。

 そんな中俺の視界はクリアになって行くと同時に相手の攻撃が遅くなっていく。――いや正確には俺の攻撃が俺の体が速くなっている気がする。

「――あっ」

 緊張なのか高揚からなのか焦り、リノがスキルコネクトをミスする。多分今までに使ったスキル数は10近い。よってペナルティが発生。その硬直時間はスキル1つに科せられるクールタイムが最低2秒。最低20秒の硬直時間がリノを襲う。

 それをチャンスと見たオーク達が一斉に襲い、リノの眼前に斧や鉈等の切断武器が迫る。

「やれせっかよ」

 直剣を回転させて武器を弾く。

 すべてのアイテムには耐久率が設定されている。そのためAIによる荒い攻撃をプレイヤーによる狙いに寸分の狂いない攻撃により武器に設定されていた耐久率が0となり破壊される。

 それに驚きオーク達はたじろぐ。その隙を見逃さず、

「『剣士の精神』」 

 を使い硬直時間を解く。

「また……助けられました」

 ボソッと何か言ったがすぐさま反撃に転じていた俺は聞き取れず、聞き返すこともできなかった。


 1時間にも亘る交戦が終わり日は落ち込んでいた。

 2人して地面に転がり呼吸は荒く身はボロボロだった。装備品の耐久度もかなり下がり、ポーション系も底を着いている。

 ステータスを見ればレベルも2つほど上がっている。

「……ハァハァ…………お疲れ様」

「あ、あぁ」

 

 

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