肉と強面
シエルはロリじゃないですよ。ただ・・・・・・まな板なだけなんです。身長がちょっと低いだけなんです・・・・・・。かわいそうに(´・ω・)
シエルの露店前。
「誰だよ、このロリっ娘」
「誰だよ、このバカ面」
何故かシエルとユートが会うなり喧嘩腰だ。これは過去にどこかで会ったのか? と思うほどだ。
「お前ら、なんでいきなり喧嘩腰なんだよ……」
流石に呆れて、二人を止めるため訊いてみる。
「いやなんか俺の嫌いなやつの顔に似てるから」
「どっかの糞兄貴に似てるからだ」
ほぼ同時にそう答える二人。なんか息ピッタリだ。
そろそろ移動するべきだとエイタとケンジロウに目配せをする。そうすると二人はヤレヤレといった感じでユートを宥める。
「ユートそろそろ――」
「シエルいい加減に――」
「「少し黙って」」
いや、ホントに仲いいんじゃないか?
「あー、もうお前ら肉食わさないぞっ!」
ここでエイタが少しキレる。というか肉は俺のものなんだが……。しかしここでまとめてくれるのはありがたい。
「す、すいません」
「……悪い」
□ □ □
場所は変わりユートに案内された店。
「お~。ユートじゃねぇかっ。今日は何の肉持ってきたんだ?」
「おっす。カルディスのおっちゃん」
「おっちゃんという歳ではまだないぞ。まだ47だぞ。・・・・・・んでそこの坊主とお嬢ちゃんは?」
「さっき会ったシズルとロリだ」
ユートが横に避けカルディスと呼ばれる男性の全貌が分かった。服装は正しくコックといった感じなのだが、筋肉隆々に無精髭と白髪・・・・・・サングラス!?
となりのシエルを見てみると、俺の服の袖を掴みブルブルと震えていた。まるで子リスのようだ。ロリと言われたことにも気づいていない。
「大丈夫か?」
とシエルにだけ聞こえるように囁く。
シエルは涙目で「コワイ、アノヒトコワイ」と片言になっていた。
まぁ無理もないだろう。俺一人でこの人に会っていたら、新手のMOB、いやボスだと思ってしまう。
ここで固まるのも失礼なので自己紹介をすることにした。
「オレはシズル。こっちは鍛冶師のシエルだ」
「この子がシエルか。また有名なプレイヤー来たものだな」
「カルデイスさん知ってるんですか?」
「カルディスでいいぞ、シズル。シエルはな、ここらの職人街でトップクラスの鍛冶師だ。そのセンスと価格が良くてかなりのプレイヤーが贔屓にしてるほどだ。なぁ、今度俺の包丁
打ってくれないか」
ニコッと言うその顔はどこぞのヤクザより怖く、ある意味、説得力には十分すぎるものだった。それに溢れずシエルはブンブンと頭を縦に振る。
「というかすげぇなシズル。お前、シエルとフレンドってことはかなり通ったんじゃねぇか?」
「昨日会ったばかりだ」
「マジだ」
「そりゃすげぇ。ガハハハハ」
「もういいかー。おっさん飯作ってくれー」
ユートが早速テーブルに付き愚痴っていた。
「わーったよ。んで肉はどいつが持ってきてんだ?」
「あぁ。俺だ」
インベントリからキングオークの肉を取り出しカルディスに渡す。
「おおー、すげぇいい肉じゃねぇかッ! この肉・・・・・・『キングオークの肉』っていうのか。お前これどこで?!」
「フィールドボス倒したらドロップした」
「なるほど。そういうことか。ガハハハ。つえーなシズルは。ちょっと座って待ってな。うめーもん作ってやるからよ」
「うっす」
シエルを連れてユートたちの座っているテーブルへと腰を下ろす。ユートはフォークを持って満面の笑みを浮かべながら「肉、肉に~く」と歌い、エイタとケンジロウは本のようなものを見ていた。このPTはこの二人によって回っているのではないかと思えてきた。
シエルはカルディスから離れたため幾分かは落ち着きを取り戻していたものの服の袖は離してもらえなかった。
ほどなくしてカルディスが料理を持ってきた。
「さぁ、食え。キングオークのフルコースだ」
前菜としてまず生ハムのようなものとチーズのようなものをはさんだ料理が出てきた。生ハムのようなものがキングオークの肉なのだろう。香りもチーズの風味豊かな感じが食欲をそそる。
「おほー。フルコースか。おっちゃん今日は気前いいじゃんか!」
「ガハハハハ。こんないい肉そうそうお目にかかれねぇからな、全力で料理させてもらったんだ」
「お、美味しい」
話半分といった感じでシエルが先に食べていた。まぁ無理もないだろうなカルディスを生理的・・・・・とは違うがかなり苦手としているシエルは逃げ口として目の前の料理を食べる以外ない状態だった。
そして食べて、ぼそっと言ったのがこの一言だ。
「そうだろう? 俺の料理はここらで天下一品の自信があるからな」
「|ほほはほほへひへはふほはひへほは《その顔のせいで客あんま来ないけどな 》」
「おめー、今かなり失礼なこと言ったろ?」
「というか口の中の食べきってから喋ってください」
カルディスが若干怒りつつ、ケンジロウが普通に注意する。
「どうだ、シズル? 俺の料理は」
「あぁ。スゲェうまいよ。今度からも通わせてくれ」
「おぉ。待ってるぞ」
ニカッと豪快に笑う。かなり怖いが、人はいい人という悲しい感じだなと思う。
「シズルさ、今回のイベ参加するんだろ?」
「あ、あぁ」
唐突にユートが話を振ってくる。
「俺らと組もうぜ?」
「その申し出は嬉しいんだが、今回のイベントはシエルと組むんだ。悪いな」
「そうか。今度一緒にPT組もうぜ。約束な」
「善処するよ」
そう言ってユートがフレンドを飛ばしてくる。コイツとなら長く付き合えそうと思い快くYESを押した。
「にしてもこれだときついな・・・・・・」
「確かに」
エイタとケンジロウが話しているが聞こえた。気になったのかユートが話に割り込んだ。
「どいうこった?」
「あぁ。今回のイベで登場してくるPTなんだがトップの連中がほぼ全員出てくる。しかも3PT以上のレイドがほとんどだ」
「まじか~。・・・・・・こりゃラストアタック無理っぽいな」
ラストアタック。文字通り最後の攻撃。ボス戦などで複数のPTが相手している時に最後の止めを刺したPT、もしくはプレイヤーにそのボスのアイテムが高確率でゲットできるもので、わざと待ったり溜め攻撃などといったことをして自分たちが取ろうとすることが多々あるものだ。それもそのはずそこで手に入るアイテムは今後ドロップしないといってもいいレアアイテムなのだ。
「気になったんだけどトップの連中って誰なんだ?」
しかし俺が最も気になったのはトッププレイヤー達だ。俺は今までソロとしてやってきたためそこらへんの情報は薄い。今訊けるうちに訊いてしまおうと思った。
「君ほどならわかると思うんだが・・・・・・まぁ教えるよ。――最大人数を誇り最も最強と呼ばれるのが、ギルド『エーリュシオン』。人数は約2000人。戦闘職、戦闘補助職、生産職が全て揃っていてアルスタウンの商店街を牛耳ってると言っても過言じゃないところだ。しかもどの職もトップクラスがかなり揃っている。次に『円卓』。ここは戦闘職と戦闘補助職だけなのだが全員が全員、現最高レベルクラスのプレイヤー達だ。人数は100人も満たなかったと思う。その分仲間内の結束力は半端ない。PTを組めばその人数の何倍もの戦果を上げるといってもいいところだ。次に『悠久の風』。ここはゲームの中じゃかなりレアなギルドといってもいい、なんせプレイヤー全員女性だからね」
「マジで?」
「マジで。・・・・・・続けるよ。悠久の風には全職がまんべんなく揃ってるし実力も申し分ない。でもエーリュシオンには劣る。しかし注目されている。それはそこに在籍している4人が異常に強いからなんだよ。実力で言うならエーリュシオンのギルマス『グランツ』と同等といってもいいくらいだからね。最後にギルド『白の虚像』ここはやばいとしか言えない。たった3人のギルドなんだけどその3人が現最高レベル。誰も追いつけない程のレベリングの早さだよ。もう異常だね」
「ふむ。ありがとう」
かなりの情報を得ることができた。しかし名前などの個人情報は得られなかったのはプライバシーと考えていいのだろう。
その後、5人でカルディスの料理を食べ解散となった。
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