出会いと肉
「だ、誰だ。アンタ」
割り込んで行ったところで前衛の拳士にそう言われた。息が上がり疲労困憊なところとPOT切れから察するに俺が思っていた先に来たプレイヤー達だろう。
そして驚くことにそのPTは全員女性プレイヤーだった。女性プレイヤーがこんな前線といってもいい場所で狩りをしているということにさらに驚きもした。
「お前ら、下がら」
「「「…………」」」」
噛んでしまった。
「お前ら、下がれ」
今度は噛まずに言えた。最初のミスのせいで若干、呆れられたような目をされたが気にしない。気にしたら負け。って言葉もあるしなっ!。
「じゃ、邪魔すんなっ!」
拳士の女性がまた吠える。しかしその声は先ほどより少し大きい程度だ。
「うっせ。お前ら、POT切れてんだろさっさと引け。この世界での死は現実でも死ぬ。分かってんだろ、今のお前らじゃこいつを倒せない」
「なら手伝い――」
もう一人いた前衛の剣士の女性がそう申し出た。正直その申し出は嬉しかった。今現在このボスを相手にしている状態はどう考えても防戦一方。相手の攻撃をそらしたり、受け止めるだけで精一杯だ。
しかし最悪を想定するとその申し出は受けられない。
「足でまといだ! だからさっさと引けッ!」
俺は相手に分からすために少々語気を荒げて言った。それに少し驚いた女性PT。しかしその中で拳士の女性は食ってかかる。
「足でまといかなんか、わかんねぇだろっ?!」
それに少しばかり、いやかなりカチーンときた俺は、とうとう、
「そうか。ちゃんと言わなかったら分かんねぇか。――お前らみたいな雑魚が俺と一緒の場にいるな。お前らは4人で相手して防戦状態、いやそれより悪い状態だ。しかし俺は一人でコイツの攻撃をいなしている。現にHPは1ドットも減ってない。俺が本気出せばこんな豚余裕なんだよ」
見下すようにそう言うと流石にたじろぎ何も言わなくなる。
「フ、フーちゃん。行こう。ここはこの人に任せて」
「で、でもッ」
「い・い・か・ら」
後ろにいた後衛の弓使いと吟遊詩人の女性も手伝いフーちゃんと呼ばれた拳士の女性を引きずりながらこの場を離れていく。
数メートル離れたところで剣士の女性がこちらに振り向き「ありがとうございます」と深々とお辞儀をした。一番落ち着いていたと言える女性だ。
「さて、あいつらもいなくなったしどうすっかな」
ああは言ったもの本当に防戦一方だ。今が本当に全力の精一杯。
ここで考えられることは逃げるか、攻めるかだ。
正直逃げたい。死ぬのは怖い。でもここで逃げたら男が廃る。いやゲーマーとして廃る。そう思うとやはり戦いたくなる。
とここでそう決めるとやはり準備が必要となる。
「ブルアァァ」
「ちっとは、……黙っとけぇ!!」
先程から攻撃の際うるさい声が響く。それに腹が立つのと準備のため全力で豚の攻撃を逸らし、地面に鉈が刺さり抜けなくなっている。それを好機と思いかなり下がる。
「まぁそこで待っとけや、豚」
地面に剣を刺し、左手を前にだす。
「『剣士の誓い』」
スキルを発動。といってもこれは『ライズブレイク』などのアクションスキルとは違いこのスキルに攻撃モーションは存在しない。このスキルはパッシブスキルと言われる自己強化型のスキル、いわゆるステータスUP系だ。パッシブスキルをゲームでは前衛職で取るプレイヤーはいない。なにせ魔法使いがいない代わりにバードや巫女などの戦闘補助職が多数存在するからだ。さっきのPTにいたバードがそうだ。しかも補助スキルの効果も大きく効果時間も長い。
発動して数秒。鉈がやっと抜けて俺を確認すると走りながら鉈を振り回して襲ってくる。
「おせーよ」
『剣士の誓い』は攻撃力と攻撃速度、移動速度を強化するスキルだ。
攻撃を躱しキングオークの脇腹を斬り抜ける。鉈をそのまま後ろに回して襲ってくるがそれも遅い。身を屈んで避けて心中を斬り上げ重力に逆らわずそのまま剣を下ろす。
「ドルバァァアアアッ!」
その攻撃が効いたのだろう。一際大きな雄叫びを上げる。
その隙にまた距離を置き、また剣士の誓いを使用しステータスを上げる。パッシブスキルのためSPの消費量はアクションスキルの5分の1程度。POTを使う必要はほとんどない。
「さぁ来いよ」
AI相手に挑発プレイをしてみる。わからないと思うが……。
「ブヴァァアアアアアアッッッ!!!」
何故か分かったように大きな声を上げる。まるで挑発が効いたようだ。
「うそんッ?!」
とやった本人の俺は意外といった感じの表情をしてしまった。
「まぁ怖くねぇけど」
襲ってくるスピードは少しばかり上がっているようだ。多分これはHPが3割以下になった時の火事場といった感じだろう。まさか本当に挑発に乗ってたとしたらこのAI凄すぎだ。
そのまま襲ってくる勢いを利用して懐に入り込む。
「ウガァ?!」
AIからすればいきなり消えた。見失ったといった感じだ。
「気づくのおせー」
そのまま連撃を繰り出す。気づかれたのと同時に鉈を躱し、また連撃を繰り出す。ボスの懐に張り付き常に攻撃と回避を繰り出す。
15分……ぐらいたっただろうか。
「ガ、ガヴァア」
ボスの吠えも弱まりもう少しといったところだ。
「もうそろそろ死ねやっ!」
最後の一撃となって欲しいと思いボスの顔めがけて斬撃を放つ。
「ウ、ウガァ……」
それが効いたのだろうボスはそのまま倒れて、立ち上がることはなかった。
「オッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
ゲットしたアイテムは『キングオークの肉』などの部位素材と持っていた『巨大な鉈』を含めた素材たちだ。
ボスとの戦闘を終えて消費したPOTの確認とクエストの確認ということで早速サクラタウンへと行った。
□ □ □
「ンーンッ! ……ハァ~」
サクラタウンへと入るなり背伸びをした。
サクラタウンは中世ヨーロッパを舞台にしたはずの世界観をガン無視した純和風といった感じだ。素朴な木の建物に道の端には桜の木が立ち並ぶ。NPCの服装は着物などの和装。その中でカジュアルな格好や鎧を着ているのはどう考えてもプレイヤーたちだ。
軽く歩き回り雑貨屋のようなNPCが経営している店を見つけ入る。
「やぁ旅人さん。何用か?」
NPCの定型文を流し聞き。メニューが出たので買取りを選択する。先程狩ったゴブリンやオークの素材とキングオークの肉をインベントリから出してレジ台(?)に置く。そしてYESを押そうとした時、
「ちょぉおおおっと待ったぁあああああああ」
と叫び声が聞こえた。何事かと思い叫び声のした方――店の入口を見ると男性3人が息を切らしてこっちを見ていた。
「ちょ……ちょっと待て下せぇ。ゼハァゼハァ。き、君その肉すんげぇうまそうなんだけど、どのMOBから取ったんだい?」
キングオークの肉を指差す先頭の男性。見た感じは俺とそう変わらない年齢だ。
「えっと……誰?」
最もな質問を俺はぶつけることにした。なにせ知らないのだから、会話するのに必要な情報だろう。
「あ、ごめごめ。俺はユートってんだ。んでこいつらが俺のPT兼ギルメンだ」
「エイタっす。よろしくっす」
「ケンジロウです。よろしく」
見た感じ悪い奴らでもないようなので、俺も無難に返すことにした。
「シズル。よろしく」
「おぅ、よろしくな。でよ、シズルが売ろうとしてるその肉売るのやめてくんねぇか?」
「なぜ?」
「だってそれ料理人に渡せば、ぜってーうめぇ料理に変えてくれんだぜ? 一緒に食おうぜ」
料理人とはこれまた生産職だ。ボスやMOBの部位素材と呼ばれるアイテムを渡すことでそれをステータスUPなどの恩恵が得られるのだ。しかも味覚エンジンが高性能なのか、ひとつの素材でも調理するプレイヤーによって変わっていく。そしてレア度の高い素材をLvの高い料理人が調理すればそれは絶品の料理が出てくるそうだ。
そしてユートたちは高Lvの料理人とフレンドなのだそうだ。そこで、一緒に食べないか? という提案らしい。
しかし俺は食に関してはあまり興味がない。それは本当の味とは言えない架空の味。ステータスUPなどすぐ切れるだろうと思っている点もあるが。
「頼むっ。一回だけいいからその肉をっ」
頭の上で手を合わせるユート。その勢いで土下座をせんばかりの様子だ。流石に俺もそこまで鬼ではない。
「わーった。その料理人てとこに連れてってくれ」
「OK。ありがとな。……よし、アルスタウンまで行こう」
「……まじで」
「まじで」
さっき来たばかりなのだが……。
しかし俺が思っていたのとはちょっと違っていた。移動はゲートと呼ばれる、各タウンの中心にある球体で、今まで行ったことのあるタウンまで一瞬で行ける装置だそうだ。今後もこれを使えば楽に移動が可能なのだ。
久々の……ってほどでもないがアルスタウンに帰ってきた。
「あ~、すまんが一人呼んでもいいか?」
「あぁ。いいぜ。俺からの願いだしな、何人でも」
アルスタウンということで最初の友人となったシエルを呼ぶことにした。さらに初めてのフレンドコールを使うという初めてだらけ。
『うっす。シエル、いま暇か?』
ユート達から少し距離をおきフレンドコールを使った。
『あ? なんだ? 今すごい眠いんだどうでもいいことなら後にしてくれ』
今は午後7時を回ったところだ。鍛冶屋としての仕事でこの時間まで頑張ったのだろう。疲れているためこの話は簡単に済ますこにしよう。
『いやな、今から料理でもどうかなと思ってだ。結構いい肉らしいんだからシエルもどうかなって思って。前のお礼も兼ねて』
『――――く』
『ん? なんて?』
聞き取れなかったためもう一度聞く。
『ああたしも行くっ。あ、あれだぞお前と一緒が良いとかじゃなくて、……肉、肉が食いたいから行くんだぞっ。勘違いすんなよっ!』
さてまずは感想を一言。これ音量調整できないのか? すごく響く。うるさい。脳が回される感じだ。
そして相変わらずのツンだ。これはもう慣れた。いつかデレるのを期待して暖かく見守るのが紳士というやつだ。
『な、なんか言えよ』
『あぁ悪い。店の前で待っていてくれ。迎えに行くよ』
『わ、わかった。待っとく』
『おう、んじゃ後で』
フレンドコールを切ってユートたちの方へと戻る
「悪いまたせたな」
「いんや。そこまで。ただ途中でビクッとなったのは気になったな」
「相手の声がいきなりでかくなったんだ。このフレンドコールに音量調節とかないのか?」
「無いんだわ、それが」
「そか。んじゃ友人迎えに行ってから案内頼むわ」
「あいよ」
今更だがあいつ眠そうだったのに一気に回復したな……。
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