街中
「まぁまぁだった」
俺はそう言って愛刀の直剣を腰の鞘へとしまう。
「ッチ……」
「アンタの武器は折れた。もう戦えない……分かるよな?」
デュエルに置いて決着がつくのはHPが1だけではない。使用している武器が折れても起きるのだ。
「あぁ」
その目は復讐を誓ったような炎が宿っているが武器がなく実行することができない。
俺はそんなことより周囲の目が気になるためそそくさと去った。
□ □ □
「疲れた~」
さきほどのデュエルで軽く消費したHPと個人的な精神の疲れを癒すため近くのレストランで食事をすることにした。
のだが道中で声を掛けられた。
「おーい、そこの直剣使い」
「……」
しかしあえて無視をする。実は俺に声を掛けたのではなく後ろの奴、とかって言うオチかもしれないしな。
「てめぇ、無視してんじゃねぇぞ! こらぁーーッ!!」
「ウゴフッ」
横からの飛び蹴りを喰らい吹っ飛んだ。
派手に転び向かいのNPCの露店にぶつかるまで止まらなかった。
「……いつつ」
本来安全圏といわれるタウン内での物理的攻撃は止まるはずなのだが止まらない。それは単に攻撃してきた者に攻撃の意思がないのと、足というのは『モンク』という職以外武器扱いされないからだ。
それにより足は俺の脇腹にクリーンヒットし飛んだということだ。
「お前、アタシを無視するとは何様だ」
あんたが何様だよ。……と言いたいのだがまた蹴られるのは勘弁なのでそれは思うだけに留めておく。
「悪い悪い。話しかけたの俺じゃないと思ってしまったんだ」
「そか。なら良い。許す」
と言い。手をつかみ起き上がれせてくれる。
見てみると小柄な女性だと分かった。
女性Pが軽く男性Pをこう軽く上げることができるのは単にゲームアシスト――ステータスによるものだとわかった。筋力値をある程度上げていればこのくらい簡単に可能なのだ。
軽く尻を払い、礼を言うために蹴った本人を見る。よくよく見ると俺と約20cmほど差がある。さらにその身長にあった可愛いらしい顔をしている(しかめっ面だが)。
とその愛らしい顔が膨らみだした。
「何ジロジロ見てんだ」
「ん? あぁ悪い。改めて見ると可愛らしいなと思ってな」
「………――ハ、ハッアァあああ?!!! お前い、いきなりな、何言ってんだ!!?」
正直な感想を言っただけで顔を真っ赤にしてキレだしてくる。訳が分からない。
大きな声を出したせいで周りからかなり不審な目で見られる。それにこの少女(?)も気づき、真っ赤な顔が更に真っ赤になる頭から湯気でも出ていいぐらいだ。
「ちょっとお前来い!」
「ちょっ!」
手を勝手に握りスタスタと俺のぶつかった露店の向かい側の店へと入る。
□ □ □
「で、何? お前はあたしの怒った顔が、可愛いと?」
「ハァ~。だからそう言ってるだろ。なんでまだそんなに機嫌悪いんだよ。謝っただろ」
悪くねーよ。と言ってそっぽを向く。また言うと怒られるのだろうが可愛らしい顔の持ち主だ。
「なんだよ、お前、ニヤニヤしやがって。あれか? ロリコンか?」
「ちげーよ。ただ、あんた見てると面白いんだよ」
「あんたあんたって! あたしの名前はシエルっていう名前があるんだ!」
怒るとこそこかよ。そして今更かよ……。
「で、お前は?」
「シズル」
どうして名前などと思えるがそれはこのゲームにある。大体のMMOにはネームタグと呼ばれる頭の上に名前が表示されたりするのだがこの《cross hearts on-line》にはそれがない。名前を確認する方法は本人から直接聞き出すか、パーティ、ギルドに入るもしくはフレンド登録をしてメニュバーに存在するパーティメンバー、ギルドメンバー、フレンドの欄を見る、の方法だけだ。
前者は嘘など偽の情報を得る可能性もあるがすぐに聞けるために便利である。後者は絶対的に正しい情報を得られるが仲が良くないと無理なのと色々縛られるため苦手な人もいる。
俺は断然後者だ。
「っそ」
「っそって……そういや、あ……シエルは俺を呼び止めたんだよな。なんでだ?」
「軽々しくシエルなんて呼ぶなっ」
えぇ~。
「いや、あん、シエ……君が」
「フンッ。まぁいいわ。特別にシ、シエルって呼ばせてあげるわッ」
お前はツンデレかッ! と心の中で全力で突っ込んでしまった。しかも言った当の本人は顔をまた真っ赤にしている。ここで俺は仕返しとばかりに、
「それじゃ、お言葉に甘えてシエルちゃんと呼ばせてもらう」
「ッハ……てめぇー! な、撫でるなぁ」
まさか撫でるだけで――ここまで。
さっきまで威勢がよかったのに撫でるだけで可愛らしい声を出す。
ここで忘れかけていた本題を思いだし、撫でていた手を下げると質問した。
「でシエルは俺に何用なんだ?」
「あ……。――シズルの使っているその剣が気になって」
少し余韻に浸っていた顔が締まるとそう言ってきた。
シエルの顔ばかり気にして服装を見ていなかったから分からなかったが、服装から察するに生産職といった感じだ。
職業は大きく分けて二つある。戦闘職と生産職だ。
戦闘職はフィールドマップに出てモンスターを狩る。いわゆる花形的なものでこのゲームのメイン職業といってもいい。といってもこのゲームがデスゲーム化して以来戦闘職はいてもフィールドに出るプレイヤーは7割程度。
生産職は戦闘職のプレイヤーが集めたモンスター素材、フィールドマップでの採取素材を使い戦闘に使われる武具やアイテムさらには服や食事などを作る縁の下の力持ちというやつだ。
故にシエルは俺の剣をみて真剣な顔となったのだろう。いわゆる職人気質といいうやつだ。
「そか。ほい。見ていいぜ」
腰に吊るした剣を外しシエルに渡す。
「お、おま、自分の剣を他人にそう渡すな」
「シエルが盗むはずないだろう?」
《cross hearts on-line》において一度手放した武器やアイテムの扱いはフリーとなる。それは所有権がないということだ。
所有権がないということはその武器、アイテムは次に手にしたプレイヤーに渡されるということになる。
「そ、それでも」
「信用してるからな」
「ハ、ハハ……」
顔をまた真っ赤にしてるよ。そして変な声を出す。
「んで、どうなんだ。俺の武器視て」
「なかなかいい武器。ちゃんと手入れされてるし使い込まれてる」
「そかそか」
自分の武器を褒められればやはり嬉しくなる。
「顔赤いな」
「……ニヤニヤしながら言うな」
仕返しとばかりにこちらに向いて言ってくる。楽しんでるあたり腹が立つ。ただ悪い気はしない。
暫く剣を視たあとにシエルは、
「ちょっとこの武器預けてくれないか?」
「ん、いいぜ」
と武器を預けることに了承する。
多分何らかの強化をしてくれるのだと思う。
「今更だがシエルって職何なんだ?」
「ん? これ見て分からないのか?」
じーっと全身を見るがつなぎ(?)的なものを着ている。という事しかわからない。
「悪い。分からない」
「ハァ……普通わかると思うんだけどな。鍛冶師だよ」
「つなぎだけで分かった奴いたらそいつすげぇよ」
「シズルがバカなだけだろ」
……俺が悪いのか。
「あ~、そういや。シズル、お前来月のディダラボッチ攻略戦出るんだよな?」
「……ん?」
俺が何を言ってるんだ。という顔してるのに対してシエルは呆れ顔だった。
「お前は……掲示板とか見てないのか?」
「見て……ないな」
掲示板というのはタウンの中心街の役所というような場所にあるもので、プレイヤーが自由に投稿して情報を共有している場所だ。
そこで得られる情報というのはかなり信ぴょう性の高いものが集められる。情報と一緒にソースも掲載するようになっているからだ。
そこに挙げられたのが今さっき話題となったディダラボッチ攻略戦だ。これは大規模クエストと言われるもので、普通のクエストならば受けられるのは1PT単位なのだが大規模クエストは連合単位で受けることができる。
レイドとは1PT5人×5のチームのことで最大25人最低1人で作れるチームだ。
「ってな感じだ」
簡単に説明してくれたのはいいもののその規模のクエストってことはかなり難しいということだ。
「てな感じと言われても」
「シズルほどの実力なら引く手数多だろうに?」
「俺の実力って……」
俺がなぜ分かるんだ、という顔をしていると少し悪そうな顔をして「この剣視たら分かんだよ」と言ってきた。
「んで?」
「……悪いが俺は自分で言うのもなんだがコミュ障気味なんだ。だからソロプレイしかしたことないんだ」
「確かに見た目はそんなんだしな……」
俺の全身を見てそう言ってくる。確かに俺の全身は黒を基調とした服だ。しかしそれでもちゃんとした服装のため俺自身は服装とは関係ないと思っている。
「いや、普通だろ」
「シズル……ここはゲームの中だぞ。その格好はどう考えても地味だ」
そうだった。ここはゲーム内。現実世界ならば普通だ。しかしゲームとなれば、しかも舞台がファンタジーこれはどう考えても地味だ。
「そう……だった」
「そう落ち込むなよ……」
膝からガクッと倒れる。かなりショックだ。
「一人なら無理あるしな。ドーセ元から……」
「そこまで……わ、分かった。あ、あたしが一緒にPT組んでやるッ」
「シエル……おまえ」
俺は立ち上がりシエルの手を取る。シエルは簡単に顔を真っ赤にする。可愛らしい。
「お、お前のためとか――」
「生産職じゃんっ!!」