宝玉
大変遅くなりましたOTZ
「黙っていてごめんなさい。……軽蔑、しますよ、ね」
こいつちゃんと人の話聞いてないんじゃないか。
そう思うとなんとなくイラッとくる。
「てい」
頭にチョップを決める。HPの1ドット分が減る。
「お前なぁ。もっとしゃっきとしろよ。さっきから言ってるだろ。軽蔑しないって」
今だ尚シュンとして下を向いている、体育座りで。
「ほんとに?」
「ほんとに」
「ほんとのほんとに?」
「ほんとのほんとに。――次言うなよ」
俺は先回りしてくぎを刺した。
ついでに言うなれば俺はリノの正面にいるため目線を下げれば下着を見ることができる……って何を考えてるんだっ。
ただそろそろこのダンジョンを抜けたい。なぜなら疲れたからだ。
だから本題に入ることにした。
「エクストラスキルってなんだ?」
「……条件を満たせばで習得することの出来るスキルです」
淡々と呟く。その声はもう震えていない。そのため俺は少しながら安心することができた。
「条件は?」
「スキルによって様々です。――私のエクストラスキルは全属性のスキルを2つずつ覚えていること」
ということは複数存在するってことか。いやもしかしたら既存の基本スキルより多いんじゃないかと思えてきた。
「ありがとう。んじゃ出るぞ」
情報はゲット出来た。深く考えるのはここを出てからだな。
手を取り立ち上がらせる。目線が高くなったためか、祭壇の所にポータルが出現していたことに気付く。ポータルはクエストをクリア時に現れるものだ。そして絶対破壊不可オブジェクトでもある。それが倒壊しかけのダンジョンに出現している。
ならば、このダンジョンは攻略されたということになる。それは先に来ていた彼らがクリアしたことになるはずだ。しかし、彼らは俺達が来た道を引き返すように出ていった。すなわち、その時にはポータルが無かったということになる。ということはその間に何かしらのクリア条件を満たしたということだ。それなら、このダンジョンのクリア条件は何だ? ボス討伐? ダンジョン踏破? 指定数のMOB討伐か? 一体なにが攻略のカギになったんだ。考えれば考えるほど深みにはまりそうだ。
取りあえず訝しげな目を向けるリノの手を引きポータルへと歩いていく。すると近づくことでようやく気付いた。祭壇の上で何かが光っている。
「……ん?」
「なんでしょうか、これ」
光る何かをリノは躊躇いながらも手に取る。
『宝玉・黒の欠片』とパーティメンバーがアイテム獲得時に出るポップ画面が出た。アイテムとしては消費アイテム枠にカテゴリーされているようだ。
「――あげます」
「え?」
突然差し出される。
おっかなびっくりとまではいかないが普通に驚いてしまう。
「いいのか?」
「はい。お礼とお詫びです」
「そ、そうか」
お礼を言って受け取る。不思議な温かみとその大きさからは想像できない重みがそれにはあった。
「結局これなんなんだ?」
あれからポータルからダンジョンを出るとサクラタウンに飛ばされた。やはりあれは攻略後に出るクリアポータルだった。『光の虚像』の二人はそう言えば……何か手に取っていたな。祭壇から同じように――。じゃあ、あれはクリアではなくむしろ始まり。クエストだったんじゃないのか? 時間制限のタイムクエスト。それならば可能性がある。あの時、俺たちを殺さず出たのはそのためのはず。そして、これ。『宝玉・黒の欠片』はもしかしたら彼らがクリアした時に出現する報酬。パーティー二つが揃って初めてクリアできるクエストではないだろうか。
「もし、そうなら」
あの時の声の主。GMではなくプログラマーやシステム考案者と言ったもっと上の奴だったのではないだろうか。なんだよ、あの野郎。
「本当に第二の人生。馴れ合いと信頼信用が必要な世界じゃないか……」
たった一つのクエストでそう考えるのも可笑しいが、あれだけのクエストをあんな早期エリアに、いやそこまで早いわけではないが見つけたのだ。難度もそれなりに高い。ということは今後もああいうクエストが多くなるのは必然。そう考えると、次の俺が向かう大規模クエスト『ディダラボッチ攻略戦』でも同じような仕様があるはずだ。
「俺、ボッチ」
フレンド欄にはいくつか名前はあるがそこまで親しいと思ってないし向こうには向こうのパーティー、ギルドがある。俺の入る余地などない。
改めて『ディダラボッチ攻略戦』の難しさを思い知った、ってところか……。
「シエルに頼むにしてもほんと、生産職だしなぁ」
と、ここで左手に握っていた物に気付く。
「ってか、これまじで何なんだよ」
ベットで仰向けになり天井に向かって投げる、取るを繰り返す。消費アイテムなのだが『使用』するを押しても反応が起きない。
「今日は疲れたし寝よう」




