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クロスハーツオンライン  作者: 天城 枢
ディダラボッチ攻略戦
10/11

ダンジョン

 長い長い通路を道なりに進んでいく。道中、何組かのMOBパーティとも接触した。簡単とはいかないものの苦戦することもなく倒せている。

「湧きもなかなか、経験値もいい感じに貰える」

「うん。これはかなり良い場所だと思う」

「「グルァアアアア」」

 狼とライオンを掛け合わせたような獣型のMOBが現れた。

 叫び声と同時に飛びかかってくる。数にして3体、俺に2体、リノ1体。

 左右からの攻撃をまず下がり避ける。相手の着地と同時に横薙ぎの一閃。怯んだところで一体を連撃で切り刻む。残りHPが少なくなったところで剣の腹で隣りのMOBへとぶつける。時間にして一瞬。

 リノは屈み、スキルを放つ。

「フレイムスラッシュ」

 獣型のMOBにもっとも有効な属性炎を弱点部位である腹に決め一発で仕留めた。

 それを見て俺も残りの一匹を倒しにかかった。

 

 やはりこういう場所にはトラップと言うものは付き物のようで、俺達はマッピングが4割ほど完了していることからダンジョンの半ばまで来たところで振り子になっている斧が何重もある廊下へと来た。

「ハハ、やっぱこういうの有るんだな」

「この先に見たところ中継地点みたいなのがあるね」

 俺ははっきりとは見えていないためやはりリノは何かしらのパッシヴスキルがありそれを使用しているようだ。

 この手の罠は前転などの回避行動を行うのが一般的。がこれは現実といっても良いもの。行動に移せるかは別問題。

 だからこそ乾いた笑いを浮かべてしまう。

「どうする。引き返す?」

「いんや。このまま行く」

 『剣士の誓い』を使いステータスを上げる。

 さっきより振り子の速度が遅く感じられる。

 振り子がもっとも上がった地点を見計らい走りこむ。丁度右を通過したところでライン上にて前転。余裕を持って通り抜けた。

「流石」

「お前なら余裕だろ」

 リノも通り抜ける。しかも回避行動などを全くとらずにただ歩くだけで。

 同じように通り抜けて行き広間に出た。

 ここはMOBが現れることもなく湧くこともない。いわゆるセーフティエリアだ。

「お疲れ」

「お疲れ様」

 俺は袋から飲料系のアイテムを取り出し、飲む。喉を通る炭酸の刺激と柑橘系の酸味が気分をスカッとさせる。気分的なモノもあり思っていた以上に気持ちが良い。

 リノがPOTを見つめている。興味深々と言った感じだ。 

「ん? 飲むか?」

「良いの?」

 POTを目の前まで出し、それが回答であるかのように示した。

「で、では遠慮なく、頂きます」

 一口含み、美味しかったのかそのまま飲んでいく。首に流れ落ちる水がまた艶めかしさを強くする。

「美味しかった……」

 POTを受け取り袋にしまう。中身は六割ほど残っていた。

「これはどこで買ったの?」

「カルディスの所で売ってる。一〇〇~一五〇ぐらいだったかな」

「やっぱり価格安定はまだ先なのね」

 デスゲームが始まってまだひと月も経っていないため物の値段は様々だ。それは価格設定がプレイヤー側にあるため需要がある物は安く、無い物は高くなってしまう。だから時価となってしまう。

「まあそうだな。ってかカルディス知ってるんだな」

「名前だけね」

 苦笑いしながら答える当たりだ大体予想はつく。

 俺は再度カルディスに心の中で手を合わせた。

「それじゃあ、休憩も終わったし行こうか」

「ああ」

 腰を上げて横に置いた剣を握る。


 進んでいくとエリアの雰囲気は変わっていないが出てくる敵のレベルが少し上がった。

 それも蹴散らしていく。

 そうして大きな扉の前へと出た。

「これボス部屋だよな」

「……だと思う」

 正直ここまで着くのが早いと思ったのと、道中あまりMOBと遭遇しなかった。(その分罠はあったが)それでも早く着いたため訝しげな表情をとる。

 同じようにリノも表情を変える。

「とりあえず開けてみる?」

「だな」

 リノの提案を受け扉を押すとすんなりと開いた。

 中はセーフティエリアが比較にならないほど広く、豪勢な造りとなっていた。

 外壁を青い焔が灯し、中心には謎の紋様その奥に祭壇のようなものがある。

 最大限の集中力を使い周りを警戒しながら奥へと進んでいく。

 そこには遠目では確認できなかったが奥の祭壇に人が居ることに気付いた。

 一瞬NPCかと思いもしたがその行動が明らかに違いさらに気を引き締めた。

「宝箱を開けている……?」

 向こうもこちらに気付き振り返る。

「ほう? 俺らの他にこのダンジョンを知る者がいたとはな。これは驚きだ」

「アンタは?」

 見た目は初老の金髪の爺さんと言ったところなのだがその体つきは違っていた。筋肉の鎧を執事服で覆っている感じだ。さらに覇気とでもいうべきものだろうか。圧力が尋常ではない。

 口ひげをさすりながら、体を下から上へと見ている。まるで調べられている感覚だ。

「そういうのはいいんですよ。ハァゲンティさんッ」

 横からバンッという銃声が二つ聞こえた。目の前の爺さんに集中していた――だけではなく周りにも気を留めていた。

 しかし気付かなかった。

 俺の頭部に迫る弾丸。

 爺さんを横目で見ると壊れた遊び道具を見るかのような無関心の瞳をしている。

 死んだ。と思った。

 だがいつまでたっても弾丸は俺の頭を撃ちぬかなかった。

「大丈夫?」

 後ろに居たリノが剣を突出し弾丸を防いでいた。

「助かった」

「この人達……話し合えそうな気がしない」

 リノが睨むように銃弾の飛んできた方向を見る。暗がりのせいか俺の目には何も見えない。ただリノの目には映っているのだろう相手の姿が。

「だろうな。おっさんの方もなんかやる気あるみたいだし」

 手をゴキゴキと鳴らし気かづいてくる。

「俺があのおっさん相手する。だから――」

「分かってる。狙撃主を狙うわ」

 まずは『剣士の誓い』――が発動できなかった。瞬きをした刹那の時間にハァゲンティが眼前にまで迫っていたからだ。

 舌打ちをして横に飛ぶ。

「ほう、今のを躱すか。だが遅い」

「なっ?!」

 その声は後ろから聞こえた。振り返るまもなく吹っ飛ばされる。

「モンクかよ……」

 口の中を斬り、出た血を吐きだす。

「モンク? 悪いが違うな」

 武器らしい武器がその拳以外見られる物が無かった。

「俺は執事だ。……間違えたからお仕置きが必要だな」


「貴方……レベル30超えてるよね」

 リノは虚空に向かって投げかける。十数メートル後ろではシズルとハァゲンティが戦っている。

「当然だ。……だが、なぜわかった――と訊くのは無粋だな」

 リノはここで気付いた。相手は女性であることを。しかしそのことは今関係ないと頭の隅に避けた。

「銃が解放されるジョブは30からのガンナーしかないから」

「正解、だっ!」

 横と後ろから銃声が聞こえ咄嗟に前に飛び振り返り様に後ろに剣を切り上げる。

「なかなかやるな」

「サスプレッサー、でしたっけ? あれが無い分、やり易いんです」

「それだけじゃないだろう?」

 会話の際も銃声は止むことが無い。

「そういうのは乙女の秘密ですよ」

 わざとらしく微笑む。

「……ッチ。もういい『Spread Bullet』」

 ネイティブと思える自然な英語。しかしそれはスキルであり、油断ならない物。

(範囲系のアクションスキル……ネーミングセンスに感謝しないと)

 後ろから襲い掛かるであろうスキルに振り返らず横へと走って行く。


「向こうの女はなかなかやるな」

「だと思うわ」

 俺は息を切らしていた。ステータス上あまりスタミナは多くないよう設定されているはずだからしょうがないことだ。

 だがあのおっさんは未だ息を切らせず。服に汚れ1つついていない。

「正直、このままじゃアンタに勝てる気がしない」

「だろうな。貴様程度では俺に触れる事すら不可能だ」

 口ひげに手を置きながら上から見下ろしている。身長差があるのは確かだがそれ以上にも感じる。

「ってことで俺も本気出す」

 右手に持っていた直剣を左手に持ち替える。

「ほう。これは楽しみだな」

「……バトルマニアがッ」

 

(やったか?)

「やったか。とか思ってませんよね?」

 女性の後ろに立っていた。

「どうやった?」

 手段を聞いている。しかしリノは無言で剣を振るう。

「答える気は――無いかッ」

 銃を後ろに向けガードする。

「双銃……」

 リノが呟く。それを見て動揺していることに気付いた女性は、

「『 Guided Missile』ッ!」

(しまった!?)

 誘導弾が左右から襲う。狙っているのは頭部。リノの剣は銃によって噛まれ動かない。

「死ねっ!」

 女性は勝ちを確信した。ヘッドショットボーナスで確実に倒せる、殺せる、と。 

 リノの取った行動はシンプルなものだ。空いた手でメニューを出し高速操作でインベントリから違う武器を取り出す。

「……テリトリー内、問題無い。――エクストラスキル『ストーム』」

「んなっ?! 糞がッ。いくつ持ってんだよっ!」

 リノを中心に風が吹き荒れる。徐々に強まって行きリノを包むように小型の台風が発生した。

 弾丸は風の壁を超えることは出来ず風に飲まれ上へ上へと運ばれ無力化され、カンッと音を立てて地面に落下した。

 さらに女性は剣と銃が噛み合い動かせない状態だった。落ち着いていれば問題無いかったが焦りにより解くことができない。段々と女性の防具に傷をつけていく。

(ダメージ自体は低いが……耐久値がやばい)

 ここに来てやっと冷静さを取り戻し、かみ合わせを解いた。

「『Acceleration』」

 スキルにより元から高かった移動速度をさらに上げて距離を取る。その際牽制も同時に行う。

 だがどんな銃弾も全て風に飲み込まれリノに届かない。

(銃を変えるか……いやもう時機解ける、問題無いな)

 彼女の銃は一度もリロードせず撃ち続けていた。


「貴様。左手に変えただけでそこまで強くなるのか――エクストラスキルか?」

「なんだよ、それっ!」

 高速戦闘。ただそれは全て一瞬の出来事。ハァゲンティは縦横無尽にフィールドを駆使してあらゆる方向から攻撃を仕掛けていた。シズルはその場にとどまり常に相手が来るのを待つ。決して自分から動かない。

 すれ違いざまにハァゲンティが話を投げかけてくる。

 それを捌きカウンターと同時に聞くが、かする程度。致命傷となる一撃はまだ互いにない。

「あの女が今しているやつだ」

 俺はチラッとリノ方を見る。風が彼女を飲み込んでいるように見えたが、中はいつも通り。周りだけああなっているようだ。

「魔法……? 無いはずだこのゲームには」

「ああ。その通りだ。なら分かるよな?」

「……限定系のスキルか」

「その通りだ」

 知っているということはこいつも使える……持っている。細心の注意を払っていないとやばいな。

 左手を強く握りしめた。

「貴様は俺も使えると思っているな。それは合っている。何せ今使っているからな」

 そうか。ゲームであっても天井などを普通行き来なんてできない。さらにあの速さだ。制御なんて普通じゃ無理だ。

「しかしこの情報が何故流れていないか、分かるか?」

 確かにそうだ。始まって1か月ほど。小さな情報が流れていてもおかしくないはずだ。なのにその情報の何一つも知らない。シエルすらそんなことに触れなかった。

「秘匿だ。これはクローズドβに抽選した者その中でも一部しか知らないからだ。あの女も俺達と同じクローズドβ出身ということだな」

 驚きを隠せなかった。戦闘中に動揺するのは死につながる。だがハァゲンティは襲って来ない。明らかに自分が優位だということを分かっているからだ。

 舌打ちをしてしまう。

「どうだ? 明らかにやばかった展開が何回かあったんじゃないか? その際もあの女は使わなかったんじゃないのか?」

 ここまでも道のりや、あの時のイベントクエストなど思い当たる節は確かにあった。

「呆れるだろう? 自分だけ助かればそれでいい。他者はどうなってもいい。軽蔑するだろう? 今もそうだ。こちらには目も向けずキラと戦っている。余裕でな」

「そうかもしれないな。正直呆れたよ」

「そうだろう。なら――」

「自分にな。だからなんだよ。ゲーマーとしては隠したくなるのは当然だ。つか俺はそういうの自分で見つける方が楽しいんだよ。もっと言うとな、俺としてはこのくらいのハンデが丁度いい」

 右手を前にだし挑発する。

「後悔するぞ、小僧っ!」

「アンタがなッ」

 相手は止まらず常に動いてくれていた。そのおかげで目は慣れた。異常な速さ、動きも少し速い程度にしか写らなくなった。対処する問題無い。

 真上から降下して拳を叩きつけてくる。半回転してギリギリで躱し直剣を突き出す。絶妙なタイミングで繰り出たため相手は回避することは出来ず脇腹に刺さる。そのまま切り下げようとしたが拳が見えたため下がる。

「ツェ」

 血を吐き捨て、口を拭う。その仕草すら様になっているのが恐い。

「俺に一撃を与えるとは、な」

「目が慣れたんだよ」

「ほう? そうか、そうか。グハハハ、小僧、貴様には素質があるようだな。だからこそここで死ねッッ!!」

 切れ長の目が開き、血管が浮き上がる。纏うオーラも異質なものに変わる。身の危険を感じ少しずつ後ずさってしまう。

「エクストラスキル『天地雷動』ッッ!!」


「クソジジイがッ!」

 キラが愚痴を零し牽制をやめ出口に一気に向かう。2人のやり取りを聴いていたためすぐさま行動に移せた。

 

「これは無理だわ……」

 視界を覆う光と鼓膜を強く揺さぶり響く雷鳴。あまりに強力すぎて見惚れて動けなくなった。

「――させない。『サンクチュアリー』」

 俺の横を誰かが通った。前に出てようやく気付く、リノだ。何時もとは違う凛とした声に驚き、何かしらのスキルを唱えたことを周りを見てようやく気付いた。

 俺達の周りを囲う様、幾重もの魔法陣が展開されている。『天地雷動』の荒々しい光と対をなすように静かな光。だが過剰光ともいえる輝きは同じもの。

 その2つが衝突する。体を揺すぶる振動に耐えられなくなり直剣を地面に刺し耐えしのぐ。

 爆音がどのくらい続いたのだろうかようやく目が開けれるようになり周囲を見ると俺達を中心としてその外周部は全て破壊されていた。

「詰めが甘いな。そいつを守らず直接俺を叩いていれば勝ったものの」

「そうだぜ。ガキども。……つか爺後で覚えとけ」

 俺の前にハァゲンティが立ち口ひげを弄っている。後ろでは女が銃口を頭につけている。圧倒的不利な状態。

 だが何故か俺は不思議と怖くない。次の攻撃を避けれると確信している。

「だが、今回はここで引こう。次に会うのが楽しみになったからな。良いなキラ」

「わーったよ。爺」

 攻撃はされなかった。

 俺はここで気になることがあった。ここまで強いプレイヤーが何者なのか。

「あんたらは何もんなんだよ」

「俺らか――『白の虚像』のメンバーだ」

 そう言い残して彼らはダンジョンから出て行った。





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