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奪われた神剣



「気が付いているか、リュウ?」

マザランの言葉にリュウは周囲を見渡す。

「ああ、どうやら囲まれているみたいだな」


いつの間にか鳥や虫達の声は収まり、2人の周囲は静けさを増していた。

辺りを伺う2人の前に現れたのは10匹程度の茶色い犬の群れだった。


「野犬か。腹を空かせているようだな」

「俺は餌じゃねえ!食べるならこいつにしろ!!!」


リュウがマザランを生贄にしようとするが、犬にそんな事が分かるはずもない。

むしろ、体格が小さなリュウの方に飛びかかる。


リュウは舌打ちをすると自分に向かってきた野犬の頭を手で軽く押して、咬みつきを交わす。

「駄犬が!人の言葉も分からないのか?!」

「お前という奴は……」


マザランはリュウに呆れながらも、腰の剣を抜き正眼に構えた。


「無駄な殺生はしたくないが、襲ってくるのなら仕方がない」

マザランは誰に語りかけるでもなく呟くと、一番近くにいた犬へと剣を振るう。

ぎゃんと声と血飛沫をあげて、その犬は動かなくなった。

それでも、他の犬の闘争心が消える事はない。


リュウは神剣ではなく、普段用いている剣を構えている。

「マザラン。背中合わせで円陣を組むんだ!」

「2人で円陣というのも可笑しな話だが……いいだろう」


背後さえ取られ無ければ、この程度の野犬の群れに2人が不覚を取ることも無い。

1匹、2匹、3匹と順調に数を減らしていく。


「アホーン」

すると、犬達の様子が可笑しい。遠吠えを始めた。


「おいおい。仲間を呼ぶ気じゃないのか?」

「だが、いくら数を集めた所で犬は犬。物の数ではないわ」


そこに現れたのは――大きな茶色い犬だった。

毛がふさふさしていてつい触りたくなる。

だが、その目は黄色い狂気の色を放っており、それを見た途端にそんな毛は毛根無くなった。


「マザラン、油断するな。こいつは大きいぞ」

「見ればわかる!だが、いくら大きくても犬は犬だ!」

「grrrrrrrrrrr」


その大茶犬は唸りを上げていた。

まるで自らの同胞達の死を悼む復讐者のように、猛り狂っている。

そして――


「来る!」


リュウが声をあげたと同時に大茶犬は大きく跳躍した。

2人は大地に転がるようにして避ける。


そこに小さな茶犬が襲いかかった。

「こんにゃろ」

リュウは飛びかかってきた犬を剣で刺して、そのまま足で頭の後ろへと放り投げた。

マザランを見ると、咬まれてはいないようだが大茶犬の体当たりを受けて吹っ飛んでいた。


「マザラン!」

「大丈夫だ……大きくても犬は犬だ!」

マザランは手にした剣を大茶犬へと突き出す。しかし、大茶犬はまるで読んでいたかのように横へ飛びのいて避けた。


それを見て、マザランの顔色が変わる。

「犬風情が……」

頭に血が上ったマザランは激情に駆られたまま何度も切りつけるが、大茶犬はそれをあざ笑うかのように回避する。


マザランは息を切らせて言う。

「リュウ……。こいつはただの犬ではないぞ。俺の剣を犬でここまで避けたのはこいつが初めてだ。」

「……いや、戦い慣れたただの犬だろ……って、余所見するな!」


マザランの大きな隙を突いて、大茶犬がその牙をむく。

「ぐう」

マザランがぐうの音をあげた。その腕からはポタポタと血が滴り落ちている。

「……油断した。俺の事は置いて行け、リュウ。今のお前には荷が重い」

「何言っているんだ?お前らしくないぞ」

「普段ならこうは言わぬ。だが、今のお前は神剣を持っている。それが理由だ」

「お前が怪我をしたのはお前が油断したからだ。俺なら勝てる!」

「今、優先すべきは確実に神剣を護る事だ。ここは俺がオトリになる。さあ、行け!」

「お前はごちゃごちゃうるせえんだよ。俺があいつを倒す。それから、村へ行ってお前の腕を治療する。それで終いだ!!!」


リュウは剣を上段にかかげて、雄たけびをあげながら大茶犬へと突撃する。

刹那――大茶犬が爆発した。

リュウも爆風に押されて後ろへと吹っ飛ぶ。


「ふふふ。もう少し、2人の友情ごっこを見ていたかったけど我慢出来なかったわ」

リュウが体中にくっついた土や落ち葉などを払いながら見ると、そこにはエロいお姉さんがいた。

「お前は……?」

「坊や、少し待ってね。すぐに奇麗にしてあ・げ・る」


――その女は……圧倒的だった。

何より、剣などの武器を用いずに女は燃え盛る火炎を武器にしていた。

女がやったのはただ野犬に拳大の火球をぶつけただけだ。

それだけで終わってしまった。


「ハイ、終わり」

女は呆気に取られたリュウに向けて片目を瞑ると、マザランの方へ歩き出した。

「ほら。腕を見せなさい」

「くっ」


マザランは衣服の切れはしが腕の傷に当たってすっごい痛いけれどちょっと気持ちいいのを我慢しながら、女に自分の身を任せていた。

マザランの腕に手際よく包帯が巻かれていく。


「これでいいわね。さて、自己紹介をしようかしら。あたしはリーリスよ。まあ、とりあえずこれを飲みなさい」


茶犬との戦闘で喉の渇いていた2人はリーリスに差し出された飲み物を手に取り、勢いよく飲みほした。

リーリスはそんな2人を見て悪戯っぽく笑った。


「見た事あるかもしれないけどあたしは現ボクデ家当主ツカハ・ボクデ・フォン・アバシリの部下よ」

「やべえ、隠せ。早く、隠せ」

「いまさら隠しても無駄な事。神妙にしろ」

「無駄ってなんだ。やる前からお前は諦めるのか?!」


リュウは後ろ手で神剣をマザランへと押しつけ、神剣を持ち出した責任から逃れようとする。

マザランはリュウに白い目を向けており、リュウに協力する気はない。

焦ったリュウにリーリスはほほ笑む。


「大丈夫よ。怒ったりしないわ。むしろ、あたしはあなた達には感謝しているの――」

「どういう……?!」

事だ、と続けようとしてリュウは自分の体に力が入らない事を知る。


そして、力の無い瞳でリーリスを睨みつけようとするが、そのままその場に横たわってしまった。

それはマザランも同じだった。


「――あたしに神剣をプレゼントしてくれるなんてね」

リュウはその言葉を最後に意識を失った。



――リュウの目が覚めたのは辺りが暗くなってからだった。


「ここは……?」

リュウははっきりとしない頭を振りながら目を擦る。

「そうだ!神剣は……」

腰に手をやるもリュウの意識が消える前にそこにあったものは消失していた。


「くそう!あいつめ!リーリスとか言ったな」

リュウと少し離れた場所からうめき声がする。


「あ、マザラン。大丈夫か?」

「ここは……?」

自分と同じ事を口走るマザランに誰でも言う事は同じだななどと思いながら、手を貸してその場に座らせる。


「マザラン。大変な事が起こった。神剣が無いんだ!」

「……直前の状況から考えると当たり前の事だな」

マザランは腕に感じる痛みを堪えながら、落ち着いた声でそう述べた。


「歩けるか?俺はリーリスを追うぜ?」

「……お前一人で行け。俺は里へ帰り状況を報告する」

「だが、また襲われたら……「心配無用!」わかった!」

「神剣は必ず俺が持ちかえる」

「俺も傷が治ったら後を追う」

そうして、リュウは村へ、マザランは隠れ里へと向かった。





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