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第三話

 リアが出て行った宿屋で、レイスは一人寂しく食事を摂っていた。

 思えば半日ともにした程度の関係でしかなかったな、とレイスは苦笑を浮かべた。

 昨日(?)の夜にこの世界で目覚め、それからはずっと二人で行動して来た。たった半日だと言うのに、レイスはリアを信じて異世界から来た事を話し、結果は……。


「辛気くさい回想はやめだ。生きていれば、また会えるさ」


 そう小さく呟き、レイスは食事の手を進めた。

 食事を終えて、思った異常に寝心地の良いダブルベッドに寝転びながら(ダブルベッドと言うのが孤独感に拍車をかけていたりいなかったり)、レイスは集中し、HPを発動させようとしていた。

 リアの話によれば、食事前にお祈りをすればHPが得られるという話だったのだが……。

 HPらしきものは全く身に付かなかった。


「……やっぱり無理か。信仰心が無いからかな、その神様って奴の。まあ、今までだって怪我しないように戦ってたんだ。武器が凶器に変わっただけで、戦い方自体に変化は無い。手加減せずにやれるようになった、というだけで十分だな」


 HPはさっそく諦めるレイス。諦めが肝心だ。


「さて……これからどうするかな。生きていく事が第一にしろ、それでどうする? 元の世界に戻る方法を探す……と言っても、戻れるのか? 戻ったら死体でした、みたいな展開も無きにし非ず。この世界で生きるって言っても、俺はコアって重要単語を聞きそびれてしまった。何故人を助けるのが当然じゃないのかも。……問題は山積みだな」


 とりあえず、宿に泊まるだけのお金を稼がなきゃならない、明日は山でモンスター退治でもするとしよう。

 レイスはそんな事を考えながら、二人用のベッドにも関わらず、貧乏生活故にリスのように丸まって就寝した。



   ☆ ○ ☆



「はっ!」


 突っ込んで来たボアーという名のイノシシもどきを一閃し、レイスは刀を鞘にしまった。もしもRPG補正(コアの影響で死体が消失する現象の事を勝手にそう呼んでいる)が無ければ、レイスの周りは血塗でイノシシの死体が大量に散乱していただろう。といっても、少しではあるがボアーの肉も残っていたが。HPがゼロになった後に切ると血が吹き出て、少し返り血を浴びていたが、レイスは全く無傷であった。

 リアは呪文一つで倒していたので解らなかったが、どうやらモンスターもHPを持っているようであった。切り掛かると触れた瞬間、刀に込めていた力が吸い取られるような感覚がある。それが神様の加護の力であろう、とレイスは思っていた。


「だいたいこれで1000マネーか。ボアー1体辺りが50マネーを落とすから、合計20体倒したのか。経験値なんてものがあれば、レベルアップ物だよな」


 アッシュの中から銅貨を思わせるお金を取っていき、村を出る時に昨日助けた子供にもらった道具袋に入れて行くレイス。

 そして。


「まあ、正直そんな事はどうでもいいんだ。俺が心配しているのは、ここが一体どこかという話なんだよな……」


 迷子のレイスは途方に暮れていた。


 リアと出会った山に入ったのは良かったが、ボアーとの戦闘に夢中になって道に迷っていた。辺りはなんの変哲も無い木。目印となるような物も一切無い。


「やばいな。遭難した……?」


 声や表情に動揺は見られないが、手が自然と震え出していた。朝食から何も食べておらず、空腹。体は疲れを見せないが、お腹が減ったのは感じていた。


「俺……このままこの森で死ぬのか?」


 ふらふらと当ても無く歩くレイス。遭難したら下手に動かず助けを待つ、という行動原則を知らない訳ではないが、そもそも助けが来る当ての無い場合は無意味であると判断していた。


「はははは、そっか。やっぱり俺は罪人か。贖罪のチャンスなんて、与えられないのか…… 」


 濁った目つきで若干ネガティヴモードに入って来ていたレイスだったが、ふと耳を澄ませれば、人の声が聞こえて来る。目に輝きを戻し、レイスは駆け出した。

 そして、人の姿を捉え、レイスは言った。



「すまない、ちょっと道を伺いたいんだ——が……」

「!?」「……………………」「……………………」



 最悪のタイミングだった。

 レイスを見てリアの顔が驚愕を表し、この状況を見てレイスの顔が露骨に引きつり、二人の表情を見たリアを囲んでいる三人の男達の顔は露骨にいやらしく歪んだ。

 男達、それは昨日村の子供に喧嘩をふっかけていた、山賊だった。

 そして、山賊達は完全装備で目には復讐の炎が宿っていた。

 リアとの再会を喜びたいレイスだったが、さすがにそんな素振りも見せられなかった。


「ははは、なんだ兄ちゃん、道教えてほしい? それなら——」


 山賊たちがレイスに歩み寄った。一瞬だが、山賊の視線がレイスに集中する。

 レイスが男に迫られる趣味は無い、と一歩引く。

 それを見て、リアは杖を振り上げた。


(ここしか無い!)


「サンダー!」


 リアの叫んだ魔法名に答えるように、杖の先に光瞬く粒子が集まるのを一瞬だが、レイスは感じた。そして、


「……えっ」

「なっ!?」「んな!?」「仲間じゃないのかよ!?」

「ごめんね?」


 躊躇無くレイスと山賊に向けてそれを放った。

 杖の先からジグザグに雷光が放たれ、山賊たちに直撃した。山賊たち、残念ながらレイスもそれに含まれていた。

 ぶすぶすと、何かが焦げる音と共に、どさっ、という音が三つ聞こえた。


「これからは相手を選ぶの——ね?」


 リアは多少乱れていた銀髪をかきあげ…… 驚いた。



 三人の山賊の奥に、レイスが呆然と立ち尽くしていた。



 無傷だった。

 他の三人の山賊は肉がほのかに焦げて倒れているが、レイスは無傷で立っていた。


「……………………(あれ? 俺、やられてないのか? 魔法には指向性があるのかな?)」

「……………………(HPは発動して……無いわよね。もしかして……)」


 内心では混乱していた二人だったが、先に話しかけたのはリアだった。


「よ、良かったわ、無事で何よりよ。怪我とかしてない? とりあえず、調整して放ったんだけど」


 まさか完璧に巻き込むつもりで放ちましたとは言えないリア。そんな事を言ったら何をされるか分かった物じゃない。レイスがそんな事をするわけない、などと知り合って一日のリアには断言出来るはずもないのだった。


「……ん、そうなのか。えっと、迷惑かけちゃったな。ごめん」


 よく分かっていないレイスは、直撃していないと言われ、そうなのかと頭の中の思考に一時停止をかけた。そして、恥ずかしそうに笑みを浮かべながらレイスは言った。


「リア。俺もその用事、付き合っても良いか?(せめてコアについては教えてくれ! 宗教を蔑ろにしてこの世界を生きるのは無理がある!)」


 リアはその台詞に少し驚きつつも、同じように微笑む。


「……うん。私からも、お願いするわ」


 打算塗れの内心を隠して、レイスはリアと握手した。 


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