第二話
リアはレイスを宿屋に連れ込み(決して性的な意味は無い)、説教を開始した。
「レイス! あなた記憶喪失なんでしょ? それなら危ない事はしないの! 最低でも、HPくらいは発動して! 見てるこっちがハラハラする!」
「……え、HP?」
顔を真っ赤にして怒るリアは子供っぽくって可愛いな、とか考えていたレイスは、ある種聞き慣れた、しかし現実には聞いた事の無い単語に狼狽する。
「そう、HP。ヒットポイントの略。それも覚えてない? ってことは、MPとかステータスも?」
「……えっと、マジックポイントに戦闘力を数値化したやつの事か?」
「思い出した?」
「いや。パッと頭に浮かんだんだ。でも、それがどう戦闘に役立つかは解らない」
深く読み取れば、一から説明してくださいお願いします、というレイスの発言に呆れながら、リアは説明を始めた。
「HPっていうのは、神様の加護よ。食事したり寝る時にお祈りするでしょ? それでHPを授けてもらってるの。HPは、戦闘中に身を包むように展開して、怪我から身を守ってくれるわ。だから、怪我をしたくなかったらHPを発動させなさい、って言ってるの」
「……どうやって?」
「闘気を出す感じ。やる気、とも言う」
「……感覚的なんだな。でも、HPについては解った」
じゃあ続けるわよ、と教師が指差し棒を振るみたいに杖を振りながらリアは言った。
「MPっていうのは、マジックポイント。自分の持つ魔力を数値化したものね。魔法は、MPを消費するわ。自分の魔力を空気中や地中に眠るマナに放って、目覚めたマナをその放った魔力で制御するの。だから大規模な魔法になればなるほど、MPの消費が激しくなる訳」
「MPが無くなったらどうなるんだ?」
「魔法が使えなくなるだけよ。肉体を構成するのに必要な魔力は、MPに含まれていないから」
「じゃあ、MPが0になっても魔法は使えるのか?」
「一応、ね。そんな事すれば、体が分解して死んじゃうけど。ご利用は計画的に、って言われてるわ」
どこの消費者金融だよ、とレイスは心の中で突っ込みを入れた。
「で、ステータスなんだけど、これは攻撃力、防御力、素早さ、精神力、運を数値化しているわ。でもこれは普通解らないからいいわね」
「ん? 気軽に見れる物じゃないのか?」
RPGのHPやMPと同じだと思っていたレイス。スタート画面を開けば簡単に見れるのではないのか、などと思っていた。
「まさか。そういうスキルを持った人じゃなければ、見る事は出来ないわ。戦闘力程度なら武術に秀でた人でも解るけど、運や精神は解らないでしょ。……ねえ、レイス」
リアは品定めでもするようにレイスを見た。レイスは俯きその視線から逃れ、そして——。
「……リア。実は、俺は記憶喪失じゃないんだ」
「それはなんとなく気付いた」
「えっ?」
レイスは驚いたようにリアを見つめるが、実際は知られている気がしていた。だからこそ、レイスは話す事にしたのだ。騙しているようで悪い、と。
自分にここまで親切にしてくれるリアが、自分を裏切る事は無いと、信じ込んで。
「そうか……。嘘付いて御免な。実は、俺……」
そしてレイスは語った。
屋上から飛び降り、気がつけばあの森に居た事。異世界だが地名が元の世界と酷似している事。魔法やコア、魔物は存在しない事。『RPG』という架空世界でHPやMPなどは知っている事。
レイスとしては、あまり語れる事は無かった。だが、リアは目を輝かせてその話を聞き、全てを聞き終えて少し呆然としていた。
「信じられないかもしれないが、本当の事なんだ」
レイスの自信なさげな台詞に、けれどリアは頭を振った。
「……大丈夫。信じるわ。それで、色々納得出来るから。うん」
リアは大きく頷き、そしてレイスを見て言った。
「待っていたわ、変革者。この星はあなたが来るのを待っていたのよ」
「え?」
突然のその発言には、レイスも驚きを隠しきれなかった。
これはまるで、勇者や魔王になるフラグではないか、と。
それでも、勇者や魔王になるのは、目的も無く生きていこうとしていたレイスに取って、有る意味目的を与えてくれたのだから、良い事ではあったのだが。
それで終わりはしなかった。
「ごめんね。私、用が出来たからここでお別れ。あんな事言ったけど、特に何もしなくていいのよ。好きに生きていいから。さよなら、……またね」
そう言ってリアは部屋を飛び出して行った。
取り残され、何もかもを失ったようなレイス。
あまりの急展開に、なにも反応出来ていなかった。
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