第2話 後編
その日の夕方。
私とノルは木陰から屋敷を眺めていた。
森に囲まれたその屋敷は、粛然とした雰囲気を醸し出している。
不安げな面持ちのノルは小声で私に言う。
「なあ、旦那……やっぱりやめといた方が……」
「家族の仇が目の前にいる。進まない理由はないだろう」
「そ、そうだけども……クォーク家は下級とは言え貴族だぜ? 手を出すのは不味いだろ……」
クォーク家とは眼前の屋敷の所有者であり、ノルから私の居場所を聞き出そうとした貴族だ。
数年前まで没落寸前だったが、ここ最近は復権して莫大な資産を有しているのだという。
この屋敷も復権の過程で手に入れたのだそうだ。
弱気なノルに対し、私は目を見つめて問う。
「呪印を刻まれて悔しくないのか? 危うく死ぬところだったんだぞ。お前にも報復の権利がある」
「でもよぉ……さすがに貴族にゃ敵わねえよ」
「勝手に決めつけるな。知恵と工夫……それに執念があれば不可能などない」
私が断言すると、ノルは大げさにため息を吐いた。
続けて彼は諭すように述べる。
「出たよ根性論……旦那、言っとくがあんたは何十年も前に引退した暗殺者の化石だ。力を取り戻して若返っちゃいるが、昔の勘はそう簡単に――」
私はノルの話を聞かず、両手を地面に当てて影の魔術を発動した。
じわりと広がった影が瞬く間の屋敷の敷地を囲って壁を作り、そのまま半球状の結界を構築した。
完璧に結界が閉じたところで、私は地面から手を離して説明する。
「これで術者である私の許可なしでは自由に出入りできなくなった。逃亡を恐れずに追い詰めることができる」
「ああ……ははは、そうだな、うん……早く行こうぜ、旦那」
引き攣った笑みのノルを連れて、私は結界の中へと踏み込む。
屋敷の外では、私兵らしき者達が慌てふためいていた。
「な、なんだこれは!?」
「敵襲だ! 注意しろっ!」
「しかし誰がこれだけの規模の術を……」
彼らは大いに狼狽えている。
いきなり結界に閉じ込められたのだから当然だろう。
まだこちらの存在にも気づいていないようだ。
ノルが囁くように確認する。
「それで、どうやって進むんです? やっぱり暗殺者らしく影に隠れて……」
「正面突破だ」
私は黒い外套を羽織り、骸骨の面を被って歩き出した。
両手に影の刃を作って投擲する。
刃は数人の足を射抜いて動きを封じた。
そこに跳びかかり、生成した大鎌で首をまとめて刎ねる。
転がる生首と迸る血飛沫。
一瞬の出来事に、他の兵士達は驚愕していた。
腰を抜かして恐怖している者もいる。
私は一切の慈悲も見せず、大鎌を掲げて宣告した。
「皆殺しだ」




