第1話 後編
翌朝。
私は瓦礫の下から這い出した。
全身に火傷を負っており、あちこちの骨が折れている。
生きているのが奇跡だった。
しかし、そんなことはどうでもいい。
息子が死んだ。
その妻も死んだ。
孫達も目の前で焼き殺された。
焼け落ちた屋敷を一望し、私は途方もない絶望に苛まれる。
黒づくめの男達の姿はない。
屋敷全体に火が広がる前にどこかへ去ったのだ。
きっと誰かの依頼や命令で襲撃してきたのだろう。
「過去の因縁が巡ってきたわけか……」
怒りと憎悪――さらにそれ以上の罪悪感が胸の内で燻ぶる。
私のせいで、皆が死んでしまった。
どれだけ謝っても決して許されることではない。
もはや涙すら出てこない。
否、涙を流す資格などないだろう。
「……世界は、私を穏やかに死なせたくないようだ」
私は時間をかけて瓦礫をどけていく。
焼け焦げた絨毯を剥ぐと、地下室への扉が現れた。
私は懐に入れてあった鍵で扉を開き、階段を下りていく。
階段の先にあったのは薄暗い空間だった。
そこには現役時代の武器やアイテムが保管されている。
いずれも二度と使わないと誓ったものである。
処分も困難なものが多いため、こうして封印していたのだ。
私はその中からガラス瓶を手に取った。
瓶の中では漆黒の液体が揺れている。
これは私の魔術そのものだ。
普通の人間として年老いて死ぬため、引退時に封印した力が込められている。
時が経過しようと些かも衰えず、ただそこに存在していた。
「…………」
ガラス瓶を開封し、中身を一気に呷る。
冷たい感覚が喉を抜けて、体内に浸透していった。
その瞬間、何十年も失っていた魔力の感覚が蘇ってくる。
全身の火傷が瞬く間に消えて、折れた骨も元通りに繋がった。
刺された傷も当然のように塞がる。
そして、皺だけで非力な肉体が急速に若返った。
姿見に映る容姿からして二十代――肉体の最盛期ともいえる状態だった。
漲る力を感じつつ、私の心は冷え切っていた。
若返りに対する喜びなどない。
むしろ積み重ねてきた余生が崩れていく気がして、不快感さえ込み上げてくる。
一方で感覚だけは現役時代のように冴え渡っていた。
思考も冷静で、次に何をすべきかはっきりと理解している。
それに対する躊躇いも皆無だった。
私は静かに嘆息する。
「結局、私には血塗られた道しかないのか……」
私は現役時代の道具に手を伸ばし、復讐のための支度を始めた。




