第1話 中編
「ジャン……ッ!?」
「父さん……」
血を吐いたジャンが崩れ落ちる。
その光景を目にした瞬間、私は黒づくめの男に跳びかかった。
「貴様あああああああぁぁぁッ!」
怒りのままに相手の顔面を殴って押し倒した。
そこから両手で首を絞めて力を込める。
「よくも! よくも息子をッ!」
男の突き出したナイフが腹に刺さった。
続けざまに胸を切り裂かれる。
しかし私は止まらない。
身を貫かれる激痛よりも、たった一人の息子を奪われた怒りが上回ったのだ。
「ぬおおおおおおああああぁぁっ!」
男の首を折った感触が指に伝わってくる。
私は息を切らして立ち上がり、ジャンの身体を確かめる。
ジャンは心臓を貫かれて死んでいた。
もはや蘇生処置も間に合わない。
途方もない悲しみに襲われるが、理性は既に次の行動を命じていた。
(アイナは……孫達は無事なのか!?)
私は燃え盛る室内を進んで家族を探す。
途中、ナイフの傷が痛み、思わず膝をついた。
それでも渾身の力で足腰を動かす。
己の命より大切なものがあるのだ。
倒れている場合ではなかった。
「私……が守らねば……」
「しぶとい爺さんだな」
背後で声がした瞬間、背中に鋭い痛みを感じた。
刺されたのだと理解した時には、私は転倒していた。
なんとか振り返ると、そこには三人の男が立っている。
いずれも黒づくめの上に仮面を着けており、容姿が分からない。
男達は私を見て会話している。
「さすがは伝説の暗殺者……錆び付いても十分な強さだ」
「簡単に殺されやがって、間抜けが」
「別に構わんだろ。数合わせで連れてきた雑魚だ」
男の一人が私の前で屈んだ。
そして下卑な声音で告げてくる。
「影の暗殺者カイド・モータル。あんたの宝を台無しにさせてもらったぜ。しっかり見てくれ」
別の男が近くの扉を開けた。
そこには血まみれで倒れて動かないアイナと、縄で縛られた孫達がいた。
孫達は涙を流してこちらを見ている。
「お、お爺ちゃん……」
「たすけて……」
「痛いよ……」
刹那、私は跳ね起きようとした。
しかしそれを察知した男に膝裏を切り裂かれる。
激痛にも構わず、私は床に額を押し付けて懇願した。
「頼む……孫だけは、どうか……」
「おいおい! あんたは冷徹な暗殺者だったんだろう! 情けない姿を晒すなよ!」
「老いぼれが……興覚めだな」
「所詮は過去の遺物だ。仕方あるまい」
男達が壺を運んでくる。
臭いから察するにそれらは油が入っているようだ。
炎に包まれた部屋と、拘束された孫達。
彼らの意図を理解した私は凍り付く。
「や、やめろ……」
「最期のひと時を楽しんでくれ」
壺の油が孫達にぶちまけられた。




