第1話 前編
屋敷のそばの中庭。
青空の下、私は家族と共に様々なご馳走を囲んでいた。
満面の笑みを浮かべる三人の孫が、楽しそうに私を祝う。
「カイドお爺ちゃん、八十歳のお誕生日おめでとうーっ!」
切り分けられたアップルパイが配られる。
孫達はそれらを頬張りながら、しきりに私に話しかけてきた。
「お爺ちゃん、おいしい!?」
「うん、美味しいよ」
「こっちも食べて! あたし達が作ったの!」
「それは素晴らしいな。どれ、一口貰おう」
「お爺ちゃん、抱っこして!」
「ああ、来なさい」
これは食事どころではない。
子供の元気の良さに苦笑していると、一人息子のジャンが私に尋ねる。
「父さん、体調はどうだい」
「医者によれば、余命半年を切っているそうだ。何をするにも身体が痛む上、食事も喉を通らん……ようやく迎えが来るというわけだ」
「もう、縁起でもないことを言わないでくださいっ! お義父さんには長生きしてもらって、曾孫まで見てもらいますから!」
ジャンの妻であるアイナが割り込んできた。
彼女は眉間に皺を寄せて怒っている。
私の後ろ向きな発言が許せなかったらしい。
なので私は素直に謝った。
「すまないね。スージーに会えると思って、弱気になってしまったんだ」
「お義母さんとの再会はまだまだ先です! 分かりましたね!」
「……そうだね。肝に銘じるよ」
アイナは気が強く、太陽のように明るい女性だ。
とても敵う気がしなかった。
その後は家族団欒で食事会を楽しんだ。
皆の笑顔を眺めるうちに、私はふと考える。
(日陰者の私が、これほど幸せに暮らしていいのだろうか)
私はかつて暗殺者だった。
それも伝説的な強さで有名だった。
現在は引退し、力も封じて平凡な老人として生きている。
妻のスージーには先立たれたが、息子家族がいるので寂しいと感じたことはない。
私にはもったいないほど恵まれた環境である。
このまま穏やかに死ぬこと――それが私の望みだった。
◆
その日の深夜。
部屋で眠っていた私は、凄まじい爆発音に叩き起こされた。
ベッドから転がり落ちた私は腰を強打して呻く。
しかしそれどころではなかった。
「な、何だ!?」
なんとか立ち上がった私は、慌てて息子家族のいる一階へと向かう。
一階は部屋全体が炎に包まれていた。
その中央では、ジャンが黒づくめの男に胸を刺されて倒れるところだった。




