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『ただの収納スキルですが、神様から「解釈」の変更してもらって現代に戻ったら、人生楽勝でした――』  作者: だい


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第28話:病室の兄弟と、嘘から出たデスマーチ

広州市内の総合病院。

 ギャングからの激しい暴行から香織を身を挺して守り抜いた広志は、右足を骨折し、ベッドの上でギプス姿になっていた。


「……それにしても、驚いたぞ。まさかあのバケモノみたいに強い商社マンが、お前だったなんてな」


 見舞いに来た淳志を見上げ、広志は苦笑いしながら頭を掻いた。

 十人の完全武装したギャングを、文字通り素手で「半殺し」にしてのけた実の弟。

 あまりの惨劇に、広志だけでなく中国の公安警察すらも戦慄していたが、当の淳志は涼しい顔でリンゴの皮を剥いていた。


「ああ、あれはね。大学に入ってから空手サークルで体を鍛えて、あとは近所の古武術の道場に通ってたんだよ。火事場の馬鹿力ってやつさ」


 世界を滅ぼせるチート能力を「サークル活動と近所の道場」という強引すぎる理由で誤魔化す淳志の図太さに、広志は「……日本の古武術ってすげえんだな」と、半ば呆れたように溜め息をついた。


「……なあ、兄ちゃん」


 淳志は剥き終わったリンゴを皿に置き、少しだけ真面目な顔をして広志に向き直った。

 ずっと、言えなかったことがある。


「高校の時……俺が親父たちに見放されて荒れてた時、兄ちゃんはずっと俺を庇ってくれてたよな。それなのに俺、親父たちの無関心も全部兄ちゃんのせいみたいに八つ当たりして、実家から逃げるように……ずっと意地張ってて、素直になれなくて……」

「よせ、淳志」


 謝罪の言葉を続けようとした淳志を、広志の静かな声が遮った。


「謝るのは俺の方だ。……あの時、親父たちの態度はどう考えても異常だった。いくら俺に期待していたとはいえ、お前に対するあの冷遇は酷すぎたんだ。俺がちゃんと、親父たちに『間違っている』と言うべきだった。……すまなかった、淳志」


 深々と頭を下げる広志。

 その誠実な兄の姿に、淳志の胸の奥でずっと燻っていた硬いしこりが、音を立てて溶けていくのを感じた。


「……兄ちゃん。俺の方こそ、本当にごめん。……そして、香織さんを守ってくれて、本当にありがとう」


 二人は照れくさそうに笑い合い、十数年ぶりの空白を埋めるように、固く握手を交わした。


「実は俺も、親父たちとはほとんど縁を切ってるんだ。春香との間に娘の桜子が生まれた時、あいつら『男が出来るまでの跡継ぎ代わりだな』なんて最低なことを言い出しやがってね。それ以来、盆暮れに顔を見せる程度の付き合いさ」


 そう言って肩をすくめる広志の顔は、親への失望よりも、自分の家族を守り抜くという父親としての強い意志に満ちていた。



 さて、兄弟の感動の和解の裏で、一つ大きな問題が残っていた。

 今回の誘拐事件で、中国の公安警察が「日本の商社同士が、裏で何かとてつもない儲け話の交渉をしていたのではないか」と嗅ぎ回り始めたのだ。

 レアアースの密輸スキームがバレれば、国際問題に発展しかねない。


 そこで淳志は、広志の商社と口裏を合わせ、公安を煙に巻くための「ダミーのプロジェクト」をでっち上げることにした。


「いいですか。俺たちが極秘で交渉していたのは、広志さんの会社が権利を持っている『世界的アニメキャラクター』のIPを使った、全く新しい携帯端末の共同開発です。単なるスマホカバーではなく、端末自体をキャラクターの形にし、液晶画面もそれに合わせて特殊な形状にする。これなら、他社に絶対バレたくない極秘交渉だったという言い訳が立ちます」

「なるほど。公安も、まさかただの『オタク向けのキャラクター携帯』の権利争いだったとは夢にも思わないだろうな」


 広志も頷き、見事な言い訳が完成した――はずだった。


「……ちょっと待って、小林くん」


 病室の隅で話を聞いていた香織が、突然目を輝かせて二人の間に割って入った。


「その携帯……本当に売れるんじゃないかしら? 例えば、キャラクターの形に合わせた専用のアプリを組み込んで、ゲームのバトル時に特別なアクションやキャラクター本人の録音ボイスが出るようにしたら……世界中のコアなゲーマーやファンが、絶対に欲しがるわよ!」


 商社の第一線で活躍する女狐バリキャリの直感。

 その言葉に、広志も「……いけるかもしれない。うちのIPと、君たちの製造ラインを合わせれば」と完全にビジネスマンの顔になってしまった。


「えっ……ちょ、ちょっと待って香織さん? これはあくまで公安を騙すための嘘の……」

「善は急げよ小林くん! 早速、両社で極秘のジョイントベンチャーを立ち上げるわ! 広志さん、仕様書は彼が明日までに書き上げますから!」

「任せたよ、淳志!」

「イヤァァァァァァ!?」


 嘘から出た実。

 かくして、世界を揺るがすチート能力を持ちながら、淳志は中国のホテルに缶詰めになり、栄養ドリンクを片手に仕様書を書き続けるという、地獄の『デスマーチ』へと突入することになったのだった。



 数日後。日本の羽田空港。

 連日の徹夜で目の下にクマを作った淳志は、日本の病院へ転院するために帰国した広志の車椅子を押し、到着ロビーへと出てきた。


「パパぁ!!」

「あなた……! 無事で本当によかった……!」


 ロビーで待っていた広志の妻・春香と、幼い娘の桜子が、泣きながら広志に飛びついた。

 「心配かけてごめんな」と家族を抱きしめる広志の姿を、淳志は目を細めて温かく見守っていた。


「じゃあな、淳志。色々と本当に世話になった。また今度、ゆっくり飲もう」

「ああ。足が治ったらな、兄ちゃん」


 去っていく広志一家の温かい背中を見送りながら、淳志がふうっと息を吐いた時だった。


「お疲れ様、淳志さん! ……それにしても、あんな可愛い家族の姿を見ちゃったら……淳志さんも『自分の娘』が欲しくなったりしない?」


 迎えに来ていた沙織が、淳志の腕に胸を押し当てながら、小悪魔のような笑みを浮かべて耳元で囁いた。

 その横では、同じく迎えに来ていたミクが、顔を真っ赤にしながらも対抗心を燃やして身を乗り出してくる。


「わ、私も……! 若いお母さんってのも、全然悪くないと思いますっ! 私、家事も料理も得意だし……!」

「お、おいおい二人とも、空港のど真ん中で何を……」


 タジタジになる淳志。

 すると、二人の背後から、完璧な身だしなみでスーツを着こなした香織が、底知れぬ余裕の笑みを浮かべて現れた。


「あらあら。若い子たちは気が早いわね。小林くんの隣が誰の指定席か、まだ分かっていないみたい」


 美魔女の圧倒的なプレッシャーと、火花を散らすヒロインたち。

 周囲の乗客たちが羨望の眼差しを向ける中、淳志はやれやれと苦笑しながらも、心の底から安堵していた。


(ああ……俺の、平和で騒がしい日常が帰ってきたな)


 神のような力を持っても、世界など征服しない。

 愛すべき賑やかな彼女たちに囲まれてる。


うん今日も良い日だなと、淳志は小さく笑ったのだった。

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