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『ただの収納スキルですが、神様から「解釈」の変更してもらって現代に戻ったら、人生楽勝でした――』  作者: だい


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第27話:消えた恋人と、最愛を守った「恩人」

 中国、広州市。発展を続ける巨大なビジネス街の一角にある高級ホテルで、淳志はノートパソコンを前に伸びをした。

 今回の出張の目的は、淳志たちの商社の子会社が中国の工場で製造させた『新型携帯端末』の輸入交渉である。


 表向きは、子供や老人が直感的な操作で使えるように設計された、低コストでシンプルな見守り用携帯電話。

 だが、このプロジェクトの真の狙いは別にあった。

 本体の製造コストは極限まで抑えられているが、内部の基盤には通常のスマートフォンと変わらない、いや、むしろ多めの『レアアース(希土類元素)』が使用されている。つまり、これを完成品として輸入することで、関税の厳しい「鉱石」として輸入するよりも、はるかに安価かつ大量にレアアースを日本へ持ち込み、抽出して莫大な利益を生み出すことができるという、商社マンならではの強烈なスキームなのだ。


 しかし、中国当局よりも早くそのカラクリに気づいた日本のライバル商社がいた。

「自社でもぜひ、この端末を輸入させていただきたい」と、強引に交渉のテーブルに割り込んできたのである。


「ふう……やっと終わったわ」


 ホテルの部屋のドアが開き、ひどく疲れた様子の香織が帰ってきた。

 情報漏洩を完璧に防ぐため、今日の第一回交渉には、淳志たちの商社からは支店長と香織の二名、相手の商社からも二名だけという極秘体制で臨んでいたのだ。


「香織さん、お疲れ様。かなりハードだったみたいだね」

「ええ。相手の担当者がタフでね。一筋縄じゃいかない相手だったけど……でも、大変な分だけやりがいがあるわ」


 香織はハイヒールを脱ぎ捨てると、淳志の隣にどさりと腰を下ろし、ふふっと楽しそうに笑った。


「それにしても、相手のメイン担当者、すごくいい男だったわよ。苗字も同じで、どこか、あなたに似てるの」

「……へえ。それは妬けますねぇ」


 淳志はわざとらしく口を尖らせると、背後から香織の華奢な体を抱きしめ、その首筋に顔を埋めた。

 疲れ切っていた香織の表情が、愛する恋人の温もりに触れて、ふわりと柔らかく解ける。

 明日の交渉も厳しいものになるだろうが、二人の夜は穏やかに過ぎていった。



 翌日。

 淳志が中国支店のオフィスで契約書の最終チェックをしていると、血相を変えた現地スタッフが部屋に飛び込んできた。


「こ、小林さん! 大変です! 支店長と桜井課長が……昨日の相手商社の人たちと一緒に、何者かに誘拐されました!!」

「……なんだと!?」


 淳志はガタッと椅子を蹴立てて立ち上がった。

 中国の裏社会がレアアースの利権に気づき、強硬手段に出たのか。


「警察には!? 位置情報は追えているのか!」

「はい! 会社支給のスマートフォンのGPSは、現在高速道路を西に向かって猛スピードで移動しています! すでに現地警察がパトカーで追跡を……!」


 スタッフの言葉を聞きながら、淳志は舌打ちをして自分のスマートフォンを取り出した。


(会社用のスマホなんて、プロの誘拐犯なら真っ先に捨てるか、別の車に乗せてダミーにするに決まってる。……だが!)


 淳志は、ある特定のアプリを起動した。

 画面には、広州市内の詳細なマップと、赤く点滅する『光点』が表示されている。


 ――前回のオーストラリア出張でのサメ討伐&世界的バズり事件。

 あの後、激怒した香織から「お仕置き」ならびに「浮気防止」として、淳志と沙織は強制的に超小型の『GPSタグ』を身につけさせられていたのだ。そして、管理する側の香織自身も、当然ながら同じタグを身につけている。

 会社のスマホとは違い、アクセサリーに偽装されたそのタグの存在に、誘拐犯は気づいていない。


「……ビンゴだ」


 警察が追っている高速道路とは全くの逆方向。

 香織のGPSタグは、広州市内の外れにある、寂れた倉庫街の一角から一歩も動いていなかった。


「スマホの追跡は警察に任せてください。俺はちょっと、心当たりを当たってきます」


 淳志はスタッフにそう言い残すと、誰もいない非常階段へと駆け込み、頭の中に座標を描いて『転移』を発動した。



 広州市外れの、薄暗い廃工場。

 その入り口には、明らかに堅気ではない、武装した裏社会の男たちが数人で見張りに立っていた。


(……見つけた。香織さんは、あの奥だ)


 物陰から様子を窺う淳志の瞳に、一切の感情はない。

 愛する者を理不尽に奪おうとする悪党に対する、絶対的な『凪』の怒り。


 淳志は足音一つ立てずに、見張りの男たちの背後へと歩み寄った。

 男たちが異変に気づいて振り返ろうとした、その瞬間。淳志はチート能力『収納』の対象を、男たちの「肺と口の周りの空間」に限定して発動した。


「――っ!? ぁ、ガ……ッ!?」


 突然、自分たちの吸い込むべき酸素が異空間へと隔離され、男たちは声を発することすらできず、首を掻きむしりながら次々と白目を剥いてアスファルトに転がった。

 淳志はその上を無造作に跨ぎ、廃工場の奥へと進んでいく。


 やがて、重い鉄扉の向こうから、下劣な笑い声と打撃音が聞こえてきた。


「チッ、往生際の悪いジャップだぜ! さっさとどけやがれ!」

「この女は後で俺たちがたっぷり使ってやるんだからよォ! ギャハハハッ!!」


 ドゴォッ! バキィッ!


 誰かが、一方的に暴行を受けている音。

 淳志が鉄扉を蹴り飛ばして室内に飛び込むと、そこには十人近いギャングたちに囲まれた、凄惨な光景があった。


 コンクリートの床。

 両手を後ろで縛られた日本人らしきスーツの男性が、血まみれになりながらも、その身を挺して香織の上に覆いかぶさり、ギャングたちの蹴りや鉄パイプの打撃から彼女を必死に守り抜いていたのだ。


「あ……小林、くん……!」


 男性の下敷きになりながら、香織が涙ぐんだ目で淳志を見た。

 その瞬間、淳志の中で『何かのタガ』が完全に弾け飛んだ。


「……よくも、俺の女に手を出したな」


 地獄の底から響くような声と共に、淳志の姿がかき消えた。


「あ? なんだテメェ――ガべェッ!?」


 先頭にいたギャングの顎に、手加減を一切放棄した淳志の蹴りがクリーンヒットする。

 男の体は独楽のように空中で回転し、壁に激突して動かなくなった。それを皮切りに、一方的な『蹂躙』が始まった。


 淳志は『収納パンチ』などの高度な技すら使わなかった。ただ純粋に、神のミスで得たチート級の身体能力と、怒りに任せた暴力の嵐。

 腕を掴んでへし折り、膝関節を逆方向に蹴り砕き、顔面を容赦なくコンクリートに沈める。


「ヒィィッ! バケモノ――アギィッ!!」

「撃て! 銃を撃――グァアアアッ!!」


 ものの数十秒。

 十人いた完全武装のギャングたちは、文字通り全員が『半殺し』にされていた。

 手足が正常な方向に曲がっている者は一人もおらず、床は血の海と化し、ピクピクと痙攣する音と苦痛の呻き声だけが室内に響き渡っている。一生後遺症が残るであろうヤバい状態の奴も数人いたが、淳志に一切の容赦や後悔はなかった。


 淳志は血糊をハンカチで拭うと、静かに香織の元へと歩み寄った。


「遅くなってごめん。……迎えに来たよ、香織さん」

「……っ! 淳志くん……!」


 香織は縛られていたロープを解かれるなり、ボロボロと涙をこぼして淳志の首に抱きつき、その唇に深く、熱くキスをした。

 普段は完璧で隙のない美魔女が、心の底から安堵して見せた、か弱い女の顔だった。


「怖かったよな。もう大丈夫だ」


 香織の背中を優しく撫でて落ち着かせると、淳志はふと、隣で荒い息を吐きながら倒れている血まみれの男性に向き直った。

 自分と香織の顔見知りではないようだが、間違いなくライバル商社の人間であり、彼が身を挺して香織をかばってくれなければ、取り返しのつかないことになっていた。


「いやあ、本当にありがとうございます。うちの香織が、あなたのおかげで――」


 淳志が男性を助け起こし、その血や泥で汚れた顔を覗き込んだ、その時だった。


「……んん? ……えっ?」


 男性もまた、薄く目を開けて、目の前にいる規格外の暴力で自分たちを救った『バケモノのように強い商社マン』の顔を見つめ返した。


「……おまえ、淳志か?」


 どこか面影のある、しかしずっと昔に記憶の底へ封じ込めていたはずの、聞き慣れた声。

 淳志は目を丸くして、素っ頓狂な声を上げた。


「――兄ちゃん!?」


 最愛の恋人を命懸けで守ってくれた恩人。

 それは、高校時代から縁を切り、もう二度と会って言葉を交わす機会などないと思っていた、血の繋がった実の兄だった。

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