第22話:最新スマホと能力の無駄遣い。ポンコツたちの末路
「サオリちゃあああぁぁぁん!!」
「ふふっ、捕まえてごらんなさい、ルパン!」
休日の昼下がり。淳志の新居のリビングで、信じられないほどIQの低い遊びが繰り広げられていた。
わざわざ海外に転移して買ってきた、ボディラインが露わになるタイトな全身レザーのライダースーツ。
それに身を包んだ沙織が、ソファの上で妖艶なポーズを決めている。
そこへ向かって、淳志が某大泥棒さながらの跳躍力でダイブを敢行する。
その一部始終を、三脚に固定された真新しい『iPh〇ne 14 Pro』が、シネマティックモードの無駄に滑らかで美しい映像として記録していた。
「いやー、すげえな最新機種! 沙織のライダースーツの光沢感とか、俺のダイブの躍動感が映画みたいに撮れてるぞ!」
「本当ね! スローモーション編集も簡単だし、画質が良すぎて無駄にエロい動画になっちゃったわね(笑)」
ソファの上でじゃれ合いながら、録画した動画を見てケラケラと笑う二人。
すい臓がんの治療という極限の秘密を共有したことで、この二人の間には変な遠慮がなくなり、完全に「ノリの良い悪友兼パートナー」のような関係性が出来上がっていた。
「ははは! しかしこれ、もし香織さん……いや、ママにバレたら、俺たち絶対二人並んで正座だねw」
「間違いないわねw すぐにパスワードかけて厳重にロックしておかないと」
そんなアホなやり取りをして平和に過ごしていた矢先のことだった。
淳志の生活圏である、あのおでん屋がある商店街周辺で、タチの悪い半グレと詐欺グループが入り混じったような連中が、強引な立ち退きや嫌がらせを始めているという話を耳にしたのだ。
ミクや大将にまで被害が及ぶのは時間の問題だった。
「淳志さん。……あの三下ども、どうする? 警察は民事不介入とか言って、なかなか動いてくれないみたいだけど」
「直接手を下すのは簡単だが、それじゃ面白くない。……そうだ、沙織。このiPh〇neと、俺の能力を使って、あいつらで『極上のエンタメ』を作らないか?」
淳志の悪魔的な提案に、沙織の美しい顔に悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
二人の『悪ノリ実況中継プロジェクト』の開幕である。
淳志はまず、AI生成の架空の人物写真を使って偽造パスポートを作成。海外のサーバーを経由してダミー口座を開設し、足のつかない超小型カメラや配信機材を大量に購入した。
世界を飛び回ってる沙織の裏知識も大いに役立った。
そして深夜、淳志は一人で半グレの事務所へと『転移』した。
(さて、飾り付けといくか)
チート能力の『収納』と『座標指定』を使えば、金庫の暗証番号もセキュリティも一切関係ない。
淳志は事務所のあちこちに小型カメラを仕掛けた後、奴らが隠し持っていた違法薬物、拳銃、そして詐欺で騙し取った大量の現金の束を、ピンポイントで『収納』に放り込んだ。
そしてご丁寧に、それらの決定的な証拠品を、事務所の玄関のドアの「外側」に、綺麗にディスプレイして並べておいたのだ。
仕上げに、暴露系の有名YouTuberと警察の匿名通報窓口に、生配信のURLと「今からここで面白いものが見られますよ」というタレコミを送信した。
翌朝。
淳志と沙織は、リビングの巨大なテレビにiPh〇neの画面をミラーリングし、朝からポップコーンを片手に高みの見物を決め込んでいた。
『な、なんだこれ!? おい、金庫が空だぞ!!』
『ヤバいヤバいヤバい! なんで玄関の前にブツが全部出てんだよ!!』
生配信の画面の中では、出勤してきた半グレたちが、玄関前に並べられた証拠品の山を見て大パニックに陥っていた。
さらにそこへ、サイレンを鳴らしたパトカーが何台もなだれ込んでくる。YouTuberの生配信も相まって、コメント欄は「草」「自首RTA」「証拠品並べて待ってるとか親切すぎるだろw」と大爆笑の嵐だった。
「あはははは! 淳志さん、あいつらの顔ウケる! 完全に終わったわね!」
「大傑作だな! いやー、文明の利器とチートの組み合わせ、最高!!」
イェーイ、とハイタッチを交わす二人。
圧倒的な無双能力を、社会のゴミをエンタメとして完全粉砕するために使う。まさに淳志らしい、最強で最悪のQOL爆上げ作戦は大成功を収めた。
――数日後。すっかり平和を取り戻したおでん屋にて。
「いやー、あの反社グループ、一網打尽だったみたいですね! ネットの生配信で全国の晒し者になって、最高にスカッとしましたよ!」
カウンターの中で、ミクが明るい声で笑っている。
淳志と沙織、そして仕事終わりに合流した香織の三人は、美味しいおでんをつつきながらその話題で盛り上がっていた。
「あの動画、私もニュースで見たわ。カメラの配置といい、画角の切り替えといい、素人の犯行とは思えないくらいプロの手口だったわね」
「そ、そうですねー。一体誰がやったんでしょうね、あははは……」
淳志と沙織は、わざとらしく目を泳がせながらディコン(大根)を口に運んだ。
しかし、香織の上司としての、そして母親としての恐るべき直感は、そのわずかな挙動不審を見逃さなかった。
じろり、と冷ややかな視線が二人を射抜く。
「……そういえば。あなたたち、最近妙に動画の撮影や編集の話に詳しいわよね? なんだか、やけに撮影慣れしているというか」
「「えっ?」」
「小林くん。ちょっと、その新しいスマホ、私に見せてごらんなさい」
ピシャリと言い放たれた言葉に、淳志の全身からブワッと嫌な汗が吹き出した。
マズい。あのiPh〇ne 14 Proの中には、『ライダースーツの沙織にルパンダイブする、無駄に高画質でエロいアホ動画』が、バッチリ保存されている。
「い、いや! これは、その、仕事の極秘データが……!」
「いいから、貸・し・な・さ・い」
香織の圧倒的な圧力に逆らえず、淳志は震える手でロックを解除したスマホを差し出した。
画面をスワイプする香織。
数秒後、彼女の顔からスッと表情が消え去った。
「…………サオリちゃあああぁぁぁん」
「「ひっ……!!」」
香織の口から、無機質な声で淳志のダイブのセリフが再生された。
おでん屋の賑やかな空気が、淳志たちの周りだけ絶対零度へと急降下する。
ミクが不思議そうに首を傾げる中、香織は美しくも恐ろしい夜叉の微笑みを浮かべた。
「小林くん。沙織。……フタリトモ、オハナシシマショウカ?」
「「……はい」」
圧倒的な力で悪党を抹殺し、完全犯罪を成し遂げた最強の共犯者たち。
しかし彼らを待っていたのは、「ママにバレたら正座」という、自分たちで打ち立てた完璧すぎるフラグの回収だった。
おでん屋の隅っこで、チートサラリーマンと生態系エンジニアは、今日も仲良く並んで正座させられるのだった。
――しかし、数日後に淳志のマンションでは、「カオリちゃあああぁぁぁん!」とダイブするバカップルがいたのだった。




