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『ただの収納スキルですが、神様から「解釈」の変更してもらって現代に戻ったら、人生楽勝でした――』  作者: だい


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第2話:検証は、目立たぬよう、かつ慎重に

翌朝。淳志はアラームが鳴る十分前に、スッと意識が覚醒するのを感じた。

 

 いつもなら、枕元のスマホを探り、あと五分……と二度寝を決め込むところだ。だが、今の体にはそんな「微睡みの甘え」が入り込む余地がない。

 

「……あー、本当に『睡眠なし』でもいけるのか、これ」

 

 起き上がると、体が信じられないほど軽い。

 三十代になってから付き物だった朝の気怠さが、完全に消滅している。

 

 淳志はまず、洗面所の鏡の前に立った。

 そこに映っていたのは、昨日神様(と自称していた連中)との商談を終えた直後の、整いすぎた自分だ。

 

「……何度見ても、ちょっと不気味だな」

 

 骨格から補正された顔立ちは、確かに自分なのだが、まるで高性能なカメラで最高のライティングを施したかのような清潔感がある。

 別に改造手術を受けたわけでもないのに、肌はツヤツヤで、姿勢も驚くほど綺麗だ。

 

「ま、不健康よりはマシか」

 

 自分に言い聞かせるように呟くと、淳志は手早くスマホを取り出した。

 職場の上司へ、前日に打診していた有給の確認チャットを送る。

 

『おはようございます。昨日お話しした通り、本日から三日間、有給をいただきます。急ぎの案件はすべて片付けてありますが、何かあればチャットで。よろしくお願いします』

 

 送信ボタンを押し、よし、と小さく頷く。

 これが現代社会における「自由」への第一歩だ。

 

 淳志は適当なTシャツとジーンズに着替えると、『転移ゲート』を意識した。

 頭に浮かべるのは、以前、営業の出張中に車で通りかかった人里離れた山あいの廃村。

 あそこなら、今の自分の「異常」を確認しても誰にも見られないはずだ。

 

(――ええい、ままよ!)

 

 一瞬、鼓膜を圧迫するような感覚があった。

 

 次の瞬間、淳志の視界を埋めていた六畳一間の壁は消え、目の前にはひび割れたアスファルトと、鬱蒼と茂る緑が広がっていた。

 

「…………本当に行けるんだな、これ」

 

 一瞬で数百キロの移動。交通費も時間もかからない。

 淳志はその利便性に感動するより先に、あまりの非現実感に少しだけめまいを覚えた。

 

 気を取り直し、まずは『収納』のテストを始める。

 足元に落ちていた、拳ほどの大きさの石ころ。

 

「……収納」

 

 言葉にすると同時に、石が消えた。

 意識を向ければ、亜空間のなかに石が浮かんでいるのがわかる。

 

「よし。次は……さっき神様と言ったやつだ」

 

 『座標』と『速度』の指定。

 淳志は十メートルほど先にある、朽ち果てた標識の柱を見据えた。

 排出座標を、その柱のわずか数センチ横に。

 排出速度を、とりあえずプロ野球のピッチャーくらいの――時速百五十キロに設定してみる。

 

「排出」

 

 パシィィィィン!!

 

 乾いた音が響き、石が標識を掠めて背後の茂みへと消えた。

 標識の鉄板には、石が掠めた跡が鋭く刻まれている。

 

「…………うわ。危な」

 

 淳志は思わず一歩引いた。

 今のは、ほんの軽いテストのつもりだった。だが、もし速度を新幹線並み、あるいはマッハに設定して、大きな岩でも出そうものなら――。

 

「……これ、下手に派手なことやったら山ごと吹き飛ばしかねないぞ。ニュースになっても困るし、検証は控えめにしような、うん」

 

 独り言で自分を戒める。

 淳志の目的はあくまで「バレずに、快適に生きる」ことだ。

 

 次に試したのは『健康体』による『肉体復元』。

 淳志はリュックから、さっきコンビニで買ってきた十徳ナイフを取り出した。

 

 自分の体を傷つけるなんて、まともな神経なら躊躇する。

 だが、今の淳志には「絶対に大丈夫だ」という、魂に刻まれた確信があった。

 

 チッ、とカッターの刃で左の指先を浅く切る。

 一瞬だけ、走るような痛み。

 

 だが、血が滲み出すよりも早く――。

 

「…………。マジか」

 

 そこには、傷一つない指先があった。

 切った瞬間に、スキルが《今の肉体に戻す》を完遂したのだ。

 

「痛みは一瞬あるけど、すぐに消える。……疲れも残らない、老化もしない。本当に、三十四歳のまま固定されてるのか」

 

 淳志は深く息を吐き、自分の手を見つめた。

 

 昨日まで、上司の顔色を伺い、クライアントの無理難題に頭を下げ、電車の吊革に揺られていた男が。

 今や、世界の物理法則を指先一つで書き換え、死すらも克服した存在になっている。

 

 普通なら、ここで「俺は神だ!」と叫びたくなるのかもしれない。

 だが、淳志は違った。

 

「……よし。デバッグ完了。とりあえず、この力は『便利ツール』としてだけ使おう。あとは……そうだな」

 

 お腹が、少しだけ空いていた。

 

「せっかく『転移』があるんだし。……神戸まで、本場の牛でも食べに行ってみるか。三ノ宮あたりなら、すぐだろ」

 

 淳志はスマホで評判の店を検索すると、人目がないことを確認してから、再び空間の座標を繋いだ。

 

 最強の力を手にしたごく普通の青年が、最初に向かったのは、贅沢な「昼飯」だった。

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