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『ただの収納スキルですが、神様から「解釈」の変更してもらって現代に戻ったら、人生楽勝でした――』  作者: だい


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第12話:マズいメシはお断り! 口の悪い愛猫と、太陽の似合う少女

淳志の新居での生活にすっかり馴染んだ愛猫のサラだったが、一つだけ、どうしても譲れない不満があった。


『おい、オッサン』

「ん? どうしたサラ」


 休日の朝。

 キャットタワーから飛び降りたサラは、自分のエサ皿の前でピタッと止まり、不機嫌そうに尻尾を床にバタンバタンと打ち付けた。


『なんだこの茶色くてパサパサした石ころは。アタシに毎日こんな味気ないモン食えってのか?』

「石ころって……一応それ、ペットショップで一番高かった総合栄養食なんだけどな。体にいいんだぞ」

『うるせえ! 栄養がどうとか知らねえよ! アタシはもっとこう、血肉湧き踊るような美味いモンが食いてえの!』


 シャーッ!と牙を剥いてカリカリ(高級品)を全力で拒否するサラに、淳志は苦笑いした。

 言葉がわかるからこそ、彼女の「食への執着」も痛いほど伝わってくる。五億の資産を持ち、自分は毎晩のように美味いものを食べているのだ。同居人にも少しは贅沢をさせてやってもバチは当たらないだろう。


(美味いもの、ねえ。……よし、いっちょチートの無駄遣いでもするか)


 淳志は立ち上がり、軽く伸びをした。


「サラ、ちょっと待ってろ。とびきり美味い飯、用意してやるから」

『お? ホントか!? 期待して待ってるぞオッサン!』


 淳志は部屋の鍵を閉めると、誰にも見られないことを確認して『転移』のスキルを発動させた。


 視界が一瞬で歪み、次に足をついた場所は、潮の香りが漂う全国有数の巨大な漁港の市場だった。

 朝市で賑わう活気の中、淳志は水揚げされたばかりの新鮮な魚介類を次々と買い込んでいく。

 サラ用には、小骨を丁寧に処理してもらった脂の乗った極上の白身魚と、新鮮なホタテ。自分用には、晩酌のつまみになる最高級のウニや大トロだ。


 買ったそばから、人目に付かないように異空間の『収納』スキルへと放り込んでいく。

 この『収納』の中は、時間も温度も完全に停止する。つまり、市場で捌きたての「最高の鮮度」のまま、いつでも家で楽しめるというわけだ。


(我ながら、とんでもない能力の平和利用だな)


 再び『転移』で自宅のへと戻った淳志は、早速サラのために調理を始めた。

 猫の体に負担がかからないよう、味付けは一切せず、新鮮な白身魚とホタテを軽く湯通しして香りを引き立たせる。


「ほら、サラ。特製シーフードプレートだ」

『なっ……!? なんだこの芳醇な匂いは……!!』


 皿を置いた瞬間、サラの目の色が露骨に変わった。

 フンフンと匂いを嗅いだ後、猛然と魚にかぶりつく。


『う、うんめえええええ!! なにこれ! パサパサしてねえ! プリプリだ! オッサン、アンタ最高の下僕だな!!』

「下僕は余計だけど、まあ喜んでくれて何よりだよ」


 ガツガツと無我夢中で食べるサラを撫でながら、淳志も『収納』から取り出した極上の刺身をアテに、昼間からビールを開けた。

 億の資産とチート能力で手に入れた、愛猫との至高のグルメタイム。これぞまさに、彼が求めていた最高の休日だった。



 ――その日の午後。

 極上のメシを食って機嫌よく昼寝をしていたサラが、ピクッと耳を動かした。

 直後、マンションのインターホンが軽快に鳴る。


「はーい」

「あ、淳志さん! こんにちはー!」


 モニターに映っていたのは、私服姿のミクだった。

 先日、焼き鳥屋で「猫を飼い始めた」と話したところ、「絶対に会いに行きます!」と宣言していたのだ。


「いらっしゃい。わざわざ休みの日にごめんな」

「全然! はいこれ、大将からおでんの差し入れです!……あっ! 猫ちゃん!!」


 リビングに入ったミクの視線の先には、警戒度マックスでソファの上に立ち上がっているサラの姿があった。

 淳志は、先日香織が訪ねてきた時の「女同士のバチバチ」と「えげつない暴言」を思い出し、サッと血の気を引かせた。


(や、やばい……! またサラがブチギレるんじゃ……!)


 ミクは目をキラキラさせながら、そっとサラに近づいていく。


「わぁ……すっごく可愛い。サラちゃん、だよね? はじめまして」

『……』


 サラは毛を逆立てることもなく、ジッとミクの顔を見つめていた。

 淳志の耳には、サラの低い呟きが聞こえてくる。


『……なんだこのガキ。この前のフェロモン女とは全然違う匂いがするな』


 サラは動物特有の鋭い嗅覚と直感で、目の前の少女から発せられる「裏表のない純粋さ」を感じ取っていた。

 だが、それだけではない。

 そのひだまりのような明るさの奥底に、まだ塞がりきっていない、小さな失恋の傷跡があることにも気づいていた。


『……ふん。しょうがねえガキだな。いい撫で方すんじゃねえか』


 サラは短く鼻を鳴らすと、ミクの差し出した手に自ら頭を擦り付けた。

 そして、驚くミクの膝の上へとひょいと飛び乗り、ゴロゴロと喉を鳴らして丸くなったのだ。


「わあ……! 淳志さん、サラちゃんすっごく人懐っこいですね!」

「えっ……あ、ああ。そう、だな……」

『おいガキ、もっと顎の下を撫でろ。アタシが慰めてやるから、とっとと元気出せよな』


 淳志の脳内に響く、サラの妙にお姉さんぶった(そして偉そうな)優しい声。


(おいおい……香織課長の時と態度が違いすぎないか!?)


 心の中で激しくツッコミを入れつつも、淳志の口元は自然と綻んでいた。

 膝の上のサラを嬉しそうに撫でるミクの笑顔は、休日の午後の陽射しによく似合っていた。

 チート能力で手に入れた億の資産よりも、このささやかな日常の風景こそが、今の彼にとって一番の宝物なのかもしれない。

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