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『ただの収納スキルですが、神様から「解釈」の変更してもらって現代に戻ったら、人生楽勝でした――』  作者: だい


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第11話:新居に訪れた上司と愛猫のバチバチが全部聞こえて胃が痛い件

ペットショップから段ボール箱に入れられ、淳志の新居である2LDKのマンションへとやってきた仔猫。

 彼女は箱から出るなり、警戒した様子でぴょこぴょこと部屋の中を歩き回り、匂いを嗅いで点検を始めた。


「んー、名前どうしようかな……。まあ、女の子だしなあ」


 ソファに腰掛け、その様子を眺めながら淳志が何気なく呟いた瞬間。

 仔猫がピタッと足を止め、振り向いた。


『あ? なんでアタシが女だってわかんだよ』


 相変わらず見た目の可愛さに全く合っていない、ドスの効いたヤンキーのような声が淳志の脳内に響く。

 淳志は『言語理解』の翻訳機能をフル活用しつつ、悪びれずに答えた。


「いや、だって猫って後ろから見たらタマタマ見えるじゃん? 君、無いし」

『――ッ!?』


 仔猫の顔が、目に見えてカァーッと赤くなった(ように見えた)。

 全身の毛を逆立て、尻尾をタヌキのように太くして、淳志に向かって全力の威嚇のポーズをとる。


『デッ、デリカシー無えのかテメェは!! 乙女に向かってなんてこと言い草だ変態オッサン!!』

「おっ、元気だな。じゃあタマが無いから、せめて名前くらいは『タマ』って付けてやろうか?w」

『ふざけんな! 噛みちぎるぞ!! 絶対に嫌だかんなそんなダサい名前!!』


 シャーッ!と牙を剥いて抗議する仔猫の姿に、淳志は腹を抱えて笑った。

 動物の言葉がわかると、こんなにも感情豊かで面白いのか。


 ひとしきり仔猫をからかった後、淳志はふと、つけっぱなしになっていたテレビの画面に目をやった。

 休日の昼下がりに放送されていた古い洋画。『ターミネーター』でショットガンを構える、逞しいヒロインの姿が映っていた。


「じゃあ……『サラ』。サラ・コナーから取ってサラだ。これなら強そうでいいだろ?」

『……サラ』


 仔猫は少しだけ毛の逆立ちを収め、自分の新しい名前を咀嚼するように数回瞬きをした。


『……まあ、タマよりは百倍マシだな。今日からアタシはサラだ』

「おう、よろしくなサラ」


 こうして、三十四歳の独身男と、口の悪い仔猫の奇妙な同居生活が始まった。


 サラとの生活は、思いのほか快適だった。

 『言語理解』のおかげで「トイレが汚い」「ご飯が足りない」といった不満がダイレクトに聞こえるため、世話に迷うことがない。

 休日は犬のようにリードをつけて散歩に出かけ(『おいオッサン! もっとゆっくり歩け!』と文句を言われながらも、本人は外の空気を満更でもなく楽しんでいた)、夜は一緒にお風呂に入る。


『おいオッサン、今日の湯船ちょっとぬるいぞ。あと頭のお湯がアタシに跳ねた!』

「はいはい、ごめんなさいね。お嬢様」


 文句を言いながらも、最終的には淳志の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らして眠りにつくサラ。

 なんだかんだで、一人と一匹はすっかり仲良しになっていた。



 ――そんな平穏な日々が続いた、ある週末の午後。

 ピンポーン、とマンションのインターホンが鳴った。


「はーい」


 玄関のドアを開けると、そこには久しぶりに淳志の部屋を訪れた、直属の上司である桜井香織の姿があった。


「こんにちは、小林くん。急にごめんなさいね、近くまで用事があったから」


 ふわりと、高級な香水の香りが漂う。

 淳志との秘密の逢瀬によって『細胞レベルの最高コンディション』を維持している四十八歳の美魔女は、休日のカジュアルな装いでも、圧倒的な大人の色気と華やかさを放っていた。


「いえ、全然大丈夫です。どうぞ上がってください」


 淳志が香織をリビングに案内した、その時だった。


『……おいオッサン。なんだあの女』


 キャットタワーの上から、サラがものすごい眼光で香織を睨み下ろしていた。

 動物の本能なのか、あるいは同性としての直感なのか。サラは目の前に現れた美魔女から、ただならぬ「強敵メスのオーラ」をビンビンに感じ取っていた。


「あら、猫ちゃん飼い始めたの? すっごく可愛い……!」


 香織は目を輝かせ、荷物を置くとすぐにキャットタワーへと近づいた。

 大人の余裕たっぷりに、優しく微笑みながら手を伸ばす。


『――ッ! 気安く触んじゃねえよこのフェロモン女!』


 シャーッ!!

 サラは香織の手に強烈な猫パンチを(爪は隠して)お見舞いし、キャットタワーの最上段で完全に臨戦態勢に入った。


『ここはアタシの縄張りだ! オッサンはアタシの下僕だかんな! 泥棒猫はさっさと帰りやがれ!』

「あっ、いや、ええと……! 課長、ごめんなさい! こいつ『サラ』って言うんですけど、ちょっと人見知りで……!」


 淳志は顔から変な汗を吹き出しながら、必死に間に入った。

 香織から見れば「ただ威嚇している仔猫」だが、淳志の耳にはサラの吐き捨てるえげつない暴言が、一語一句違わず完璧な日本語として翻訳されて飛び込んでくるのだ。


「ふふっ、いいのよ。小林くんのことが大好きなのね」


 香織は全く怒る様子もなく、むしろ「飼い主を守ろうとする健気なペット」を見るような、慈愛に満ちた瞳でサラを見つめ返した。

 その圧倒的な「大人の余裕」が、さらにサラの神経を逆撫でする。


『チッ……! なんだその余裕ぶっこいた顔は! オッサン、こいつ今すぐ追い出せ! アタシとこの女、どっちが大事なんだよ!!』

(いや、どっちって……頼むから大人しくしててくれサラ……!)


「サラちゃん、これからよろしくね。……ふふ、ライバルがいっぱいで大変だわ」


 香織は悪戯っぽく微笑みながら、淳志の腕にそっと自分の腕を絡ませた。

 その瞬間、サラの全身の毛がボンッ!と二倍に膨れ上がる。


『ああああああ! くっつくな! オッサンから離れろおぉぉ!!』

(胃が……っ! 俺の胃に穴が空く……っ!)


 動物の言葉がわかる『言語理解』のチートスキル。

 それがもたらす最大の代償は、新居で勃発した「愛猫」と「上司」の、終わりの見えない仁義なき女の戦いを、一人だけフルボイスで聞かされ続けることだった。

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