第一章:第一話 神の宝くじ
この世界の人間はマペット・トリンフ・ウィズの3つに分類される。
マペットとは【無能力者】と呼ばれる分類で、生まれ持った才能を持たず、一般的な人間を指す。
トリンフとは【能力者】と呼ばれ、生まれながら、または成長の過程で能力が発現し、才能を持った人間を指す。
最後にウィズとは、【神童】と呼ばれ、トリンフの中でも特に秀でた能力を生まれながらにして持っている人間を指す。
もちろん俺はマペットだ。
マペットは搾取されるだけの人間、この世界の最下層の人間だ。
世界から隔離され、一生を奴隷のような生活を過ごして終える。
この世界では金が全て、金で買えない、代えないものは何もない。
金さえあれば、万病を治す薬、死者蘇生、不老不死さえ叶ってしまう。
未来や過去に行くことさえ可能だ。
ただし、そんな大金を得れる可能性があるのは、トリンフ以上の人間で、俺の様なマペットには一生叶わない夢物語……一生負け組の生活しか待っていない。
そんな世界に嫌気がさした俺は、今日もギャンブルをしていた。
唯一マペットが、少し夢を見ることができるのがギャンブルだ。
「ハクラ、お前今日もタコ負けしたんだってな……聞いたぜ」
「うるせーよ、俺はもうこんな惨めな生活嫌なんだよ、一生マペット、一生負け組……反吐が出る」
ギャンブル仲間のエドは面白そうに、ケタケタと笑いながら煙草を吹かした。
「まあそんなハクラにいい知らせだ。この町で【ドル市】にしか売られていないはずの、【神の宝くじ】が売られている場所があるらしいんだ」
「【神の宝くじ】?なんだよそれ、聞いたことねーな」
「お前ギャンブル好きなのに、【神の宝くじ】もしらねーのかよ……【神の宝くじ】っつーのは、あの有名な【ドル市】……トリンフ以上の人間しか出入りが禁じられている、通称:金の市場にしか売られていない、すげー宝くじだよ」
エドは二本目の煙草に火を付けながら淡々と話した。
「ハクラ、お前に特別にそのくじが売られてる場所を教えてやってもいいぞ。一万でどうだ?」
「なんだよ、金取るのかよ、そもそも景品はなんなんだよ、そう、一等だ、一等が当たれば何がもらえるんだ?」
さっきまでのエドの表情が真剣になる。エドとは小さい頃からの付き合いだが、いつもヘラヘラしているエドが真剣な顔になる時は、いつだってヤバい話をする時だ。
「ウィズになれる……それが神のくじの一等だ。」
「それ、ガセじゃねーだろーな」
「ああ、俺の兄貴が話してるのを聞いちまってな」
エドの兄貴はこの町では有名なトリンフで、今は【ドル市】でギルドにも所属している。
そのエドの兄貴からの情報となれば、少なくとも信じる価値はあるだろう。
「決まりだ!、その情報、俺に売ってくれ!1万でよかったな」
俺は財布からなけなしの万札を取り出し、エドに渡した。
決して安くは無い情報料だったが、ゴミみたいな日常から脱却する一筋の光が、俺を突き動かした。
「よし、確かに受け取った、早速場所だが、ここじゃ目立つ、こんな情報普通はマペットが知っていること自体違法だからな……俺の家の地下に来い、そこで教えてやるよ」
俺達はカジノを後にし、エドの地下へと急いだ。
エドの家は西の外れにある一般的な民家だが、兄貴がトリンフと言うこともあり、この町では少し有名だ。
昔、エドの兄貴セトは、この町を襲ったダークウルフの群れを、炎の魔法で追い払ったことがあり、一躍ヒーローとなった。そんなセトが一年に一度家族に会いに来るために利用するのがエドの家の地下だ。
何故家族に会うためだけにそんな地下室を利用するのかと言うと、一度【ドル市】に足を踏み入れた者は、家族以外のマペットと会うことを禁じられているからだ。情報漏洩を防ぐためだとマペットの間では伝えられている。
そんなこともあり、秘密話をするにはうってつけの場所と言えるだろう。
「よし、それじゃ、話すとするか」
地下室に付くなり、エドはその【神の宝くじ】の事を話したくてたまらないのか、休憩する間もなく話始めた。
「まず、ハクラも分かってると思うが、【神の宝くじ】なんて当たるもんじゃねェ、いいな、これだけは肝に銘じておけよ」
「分かってるよ、俺は夢を買いたいんだ、ああ、そうだ、夢だ、夢」
「よし、ならいい、外れたからって後で俺を恨まれるのは嫌だからな、ハハ……。」
違和感を感じたのはこの時だった。
ガキの頃からエドを知っているからなのか、自分の勘なのかは分からないが、エドは何かを隠している気がした。
「もったいぶらなくていい、早く場所を教えてくれよ!」
「分かった分かった、そう焦るな、いいか、【神の宝くじ】なんてねーんだよ、じゃあな」
グサッ
……………………………………………………………………………………?
ボタッ
「一体……な、、に、、が」
激痛が腹部を支配した、地面には大量の血に自分の顔が映っている。
そう、刺されたのだ、エドにナイフで腹を。
「悪いな、ハクラ、俺はお前の事嫌いじゃなかったぜ」
「う……な、何で、こんな」
怒りと激痛で立っていられなくなり、俺はその場に倒れた。
「これで俺はトリンフになれる!!!!!やったやった!!!!あはははははは」
そうか、騙されたのか。
聞いたことがある、マペットを殺し、悪魔と契約することで力を得ることができると。
意識が遠のく、血を流し過ぎた。
死ぬのか、俺はこんな、こんな訳も分からない状況で。
友達だと、思ってたのに。
ーー死ねねえよなあ?ーー
女の声が聞こえた、頭に直接、語り掛けるような声だ。
その声は、どこか恐怖を感じたが、今はその声だけが頼りだった。
死にたくない、こんなところで、うまい飯も、金も、地位も、名誉も、何も、何にも俺は、手に入れてないじゃないか。
俺は頭の中で問いかけるその声に縋りつくように答えた。
「死にたくない、俺は、死んでも死にきれねえ、こんな世界も、俺を刺し殺したエドも呪ってやる、呪って祟ってやるからな!!!!!!!!」
その瞬間、視界がクリアになり、俺は不自然にエドの前へ起き上がった。
「な、なんで、、なんでだよ、確かに、確かに殺したはずだぞ俺は!!!誰だ、誰だお前は!!!!」
「誰って、ハクラだよ、てめーが刺した男だ、よくも俺を騙しやがったな!!」
「違う、お前の後ろだ、後ろに居る女は誰だ!!!!!!」
俺はその声に呼応するように振り返った。
そこには金色の長い髪を持ち、真っ黒の目に、赤い瞳を持つ女が立っていた。
「我の名は呪いの神ゾーラ、この小僧は我を召喚したのだ。」
「な、なんだよ、何なんだよこれ、おい!ハクラ!!どうなってんだよこれ!説明しやがれ!!!」
「うるせー!!!分かんねーよ、俺も!」
ゾーラはそんな俺たちの会話を一切聞き入れず、エドの目の前に手のひらをかざした。
「く、くるな!!!お前!!!人間じゃないな!!!悪魔かなにかか?」
「朽ちろ、人間」
そう、ゾーラが言った途端、エドは灰になった。
さっきまでそこに人間が居たこと自体が嘘かのように、灰だけが地下室の地面を虚しく彩った。
静寂、さっきまでの出来事が夢かのように、きれいさっぱりエドの姿は消え去った。
「は?、、何だ、これ、エドはどこ行ったんだよ!!おい!女!!!エドに何しやがった!!!」
「その男は死んだ、我が呪い殺したのだよ、お前の望みを叶えたのだ。」
「死んだ、だと?俺が望んだ事なのか?」
ゾーラはめんどくさそうに話した。
「てかもうこの堅苦しい話し方やめていい??私、性に合わないんだよねェーこーゆーの」
「おいおいおい、もう何が何だか分かんねーよ、一体お前はなんなんだよ!!!」
「だからさっきも言ったでしょーが、私は呪いの神ゾーラ、次聞いたらあんたも殺すわよ。こんなんが主人なんて最悪だわ…。てかあんたが召喚したんでしょ?責任持ちなさいよ!」
俺とゾーラは一旦その場を後にし、エドの家から出た。
その後、お互いの知りえる情報を離れた廃墟に行き、共有しあった。
ゾーラが言うにはこうだ。
俺の中に存在する能力が死に際に発動し、ゾーラを呼び出したのだと。
俺は何故かすんなりとこの状況を受け入れてしまった。
昔、本で読んだことがある。
【一度死んでからしか発現しない能力】があると。
その能力は、【デスギフト】と呼ばれる能力で、死んだ後に一度蘇り、ランダムに能力を授かる、と言ったものだ。
「で、俺はその【デスギフト】で蘇って、その能力でお前を召喚した分けか、それなら合点が行くな。」
「そうなんじゃなーい、アンタがそれで納得するなら、めんどくさいし…」
欠伸をしながらゾーラは含みのある言い方で話した。
「なんだよ、違うってのか?」
「そんな低級の能力で私を召喚できるだけの能力を授かれるわけないじゃん…私、神よ?呪いの神、ゾーラ様よ?最強なんだから」
確かに、【デスギフト】はかなり低級の能力だ、死んだ後に授かれる能力もせいぜいトリンフの中でも下位の能力だろう。
「じゃあ一体、何の能力が発動したんだよ」
「仕方ないなァ、特別に教えといてあげる、召喚した主人の能力は、私たち召喚獣には召喚された時点で全て知る事になるからなァ。」
「お前召喚獣だったのかよ…てっきりギャル魔人かと思ってたが、」
「うるさい、殺すわよ… で、あんたの能力だけど、あんたは確かに【デスギフト】で死者蘇生し、能力を得た、で、その得た能力が【ギャンブラー】って能力ね、この能力が厄介で、奇跡的な確率を通しちゃったって分けよ。」
「【ギャンブラー】聞いたことがある、確か、この世で起こりうる確率が低い事象を一度だけ抽選することができるが、それがどんなもので、何を引き当てるのかは能力者本人でさえ分からないって言われてる能力だな」
「で、無事当選した訳だけど、なんか思い当たる節ない?その確率が低い事象っての、何を引いたかまでは私にも分かんないからァ。」
「そんなもん知ら………待てよ、ま、まさか」
俺の脳裏をよぎったのは、エドが言っていた、あの【神の宝くじ】だった。
ホラ話だと思い込んでいたからさっきまで気にも留めていなかったが、実際に存在していたのだ。
そう、神を抽選するくじが。
「【神の宝くじ】……なのか。」
こうして俺とゾーラは奇妙な主従関係を結ぶことになった。




