表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーパーツ探偵、東京の闇に消える  作者: 夜宵 シオン
5/6

第5話:闇に蠢く者たち

 雨音が断続的に響く東京の深夜。街灯は霧に溶け、遠くの車のライトがぼんやりと揺れていた。冷え切った石畳を踏みしめる御影蓮司の足音が、湿った空気に細く鳴り響く。


 「……何かがおかしい」


 肌を這うような違和感に、彼は眉をひそめた。背後から冷たい風が吹きつけ、まるで無数の視線が彼の背中を刺すかのようだ。


 闇は静かに動いていた。視界の端で、黒く塗れた影がひそやかに揺らぎ、まるで生き物のように蠢いている。


 蓮司の足元から、不気味な気配が立ち昇った。石畳の隙間から闇が這い出し、冷たく湿った触手のように彼の足首を絡めとる。


 その触手に触れた瞬間、全身を凍りつく冷気が駆け巡った。骨の髄まで凍るような恐怖が心臓を鷲掴みにし、呼吸が浅くなった。


 「返せ……返せ……奪われたものを……」


 耳元に囁くのは、もはや人の声ではない。怒りと怨嗟が交錯した、深淵からの呻き。


 心の奥で、蓮司の理性がじわりと崩れ始める。過去の断片、失われた記憶、消えた真琴の顔、祖母の警告――


 それらが渦となり、彼の内面を引き裂いた。


 必死にオーパーツを取り出し、震える手で光を放つ。


 蒼白い光が闇を切り裂き、触手は悲鳴を上げて裂け散った。


 だが闇は深く、容易に消え去らなかった。


 「お前も……闇に還るのだ……」


 無数の歪んだ顔が視界に浮かび上がり、空洞の瞳が彼を貪る。恐怖が彼の胸を締め上げる。


 「なぜ……なぜ俺の記憶を奪う……」


 怨嗟の声は迫り、蓮司の頭は割れそうに痛んだ。過去の悲鳴、祖母の祈り、真琴の涙が一気に押し寄せ、狂気が境界を侵食する。


 暗闇の中、雨に濡れた小さな金属片が煌めいた。


 オーパーツの欠片。


 「これは……俺の一部……?」


 呟く声は震え、視界がゆがんだ。


 東京の闇は、彼の心と体をゆっくりと蝕み始めている。


 逃げ場のない深淵が、静かにその口を開いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ