第4話:呪われた声の囁き
東京の夜は、見えない何かが潜み、街灯の明かりすら翳らせる。
御影蓮司は、荒れ果てた廃屋の前に立っていた。ここは数週間前から奇妙な音が聞こえると噂され、近隣住民が怯えている場所だ。
「呪われた声が、夜な夜な響く」
地元の警察も手を出せないというこの廃屋は、長く放置されていた。
蓮司はゆっくりと廃屋に足を踏み入れた。空気は重く、腐敗臭が鼻を突いた。
壁には不気味な文字が赤く塗りつけられている。
「帰れ……帰れ……戻るな……」
その文字の先には、ひび割れた鏡の破片が散らばっていた。
奥の部屋で、不意にかすかな囁きが聞こえた。
「……ここから出して……助けて……」
声は掠れ、かすかに震えている。蓮司は身を固くし、声のする方へと歩み寄る。
部屋の隅に倒れ伏す女性の影。彼女は全身に傷を負い、口元には血の跡があった。
「誰だ……お前は……?」
蓮司の問いに、彼女は薄く笑みながら言った。
「私は……ここに囚われた者。鏡の中の声に縛られた……助けて……」
その瞳は虚ろで、まるで魂が抜けているようだった。
蓮司はオーパーツを取り出し、囁きを遮断する光を放った。
だが、その瞬間、彼の脳裏に激しい頭痛が走った。
記憶の奥底から、かすかな囁きが響き渡る。
「帰れ……戻るな……」
それは蓮司自身の深層心理の声だった。
彼は気づく。
この街の呪いは、単なる外部の怪異ではない。
己の内なる闇もまた、異界とつながっているのだと。
廃屋を後にしながら、蓮司は決意を新たにした。
「真実を暴くためには、己の過去とも向き合わねばならない」