第2話:呪われたミイラの囁き
深夜の上野、国立博物館の薄暗い展示室に忍び込む男の姿があった。冷たい息が白く漏れ、足音は床の大理石に響いた。男の名は黒崎翔太。裏社会に通じる情報屋だ。
「これが最後の依頼だ」――そう呟きながら、彼は特別展示室の扉をこっそり開けた。
そこに収められているのは、密かに封印された“呪われたミイラ”。表向きは古代エジプトの女王のものとされているが、真実は誰も知らない。
翔太がミイラのガラスケースに手を伸ばした瞬間、不意に空気が変わった。室内の灯りが瞬き、冷気が走る。
「……助けて……」
かすかな声が、男の耳元で囁く。
振り返っても誰もいない。だが、その声は確かに聞こえたのだ。
一方、御影蓮司は自室で資料を整理していた。白石真琴の失踪事件と、渋谷109地下の異界現象の関連を探る中、古い文献に目を留める。
「呪いのミイラ……」
その文字列に、彼の背筋がぞっとした。文献はこう記していた。
『ミイラの怨霊は、封印が解かれた時、復讐の炎を燃やす。動く死者は、魂を奪い去る』
その時、部屋の電話が鳴った。蓮司は受話器を取る。
「御影か……お前の“過去”を知る者から、奇妙な情報が入った。上野の博物館に封印されたミイラに異変が起きているという」
声は、かつての仲間である女性探偵・佐伯からだった。
翌日、蓮司と佐伯は博物館へ潜入を試みる。管理は厳重だったが、二人の手際の良さで夜の展示室にたどり着いた。
ガラスケースに封じられたミイラは、まるで眠りから覚めたかのように、微かに胸が上下しているように見えた。
突然、館内の照明が全て消え、漆黒の闇が二人を包む。
「気をつけろ……これはただの怪異じゃない」
佐伯の声が震えた。
暗闇の中、男のすすり泣くような声が響き、壁に血のような手形が浮かび上がった。
「なぜ、私を閉じ込めた……なぜ、私を見捨てた……」
蓮司はオーパーツを手に取り、光を放つ。だが、ミイラの怨霊はなおも迫る。
その瞬間、蓮司の脳裏に断片的な映像が割り込んだ。幼い頃、何者かに見られ続け、声にならぬ悲鳴を聞いた記憶。
「俺は……また囚われるのか……?」
怨霊の声と、自身の過去のトラウマが重なり、意識が揺らぐ。
ついに蓮司は怨霊に対峙し、恐怖と狂気の淵から己を奮い立たせた。
「お前はここに囚われたままではいられない。俺が道を切り開く!」
オーパーツが放つ光が闇を引き裂き、怨霊は呻き声をあげて消え去った。
だが蓮司の胸には、深い闇が残った。怨霊の言葉も、自身の記憶も、まだ解き明かされていない。