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蝉時雨を待っている

作者: 池畑瑠七

蝉しぐれを待っている

早々と明けてしまった今年の梅雨

夏の入り口から朝晩 隣の林から煩い程に響きわたる

ひぐらしの鳴き声


このあたりでは毎年 夏の訪れをヒグラシの合唱によって知る

明け方と夕刻 涼しい薄暮のころ

示し合わせたように一斉に鳴き出し

涼感いっぱいな声で 賑やかなコーラスを響かせる

そしてある瞬間突然に「シン!」となる

せーの!で一斉に鳴き止むのだ

見事に息の合った大合唱

私はそれが不思議で でも小気味良くて

とても好きだった


しかし今年はまだ 朝のカナカナが鳴き出さない


連日むっとした熱風と早朝から照り付ける厳しい日差し

いきなり盛夏を迎えたような 暑い暑い日々が襲来した

隣の林は朝も昼も夕も しんと静まり返っている

蝉の声が してこない

時折 クマゼミのような鳴き声が聞こえてきて「あっ!蝉!?」

窓を大きく開けてみる

すると「じじっ じじっ」似ているけど残念 鳥の声だとわかる

少しがっかりする


蝉たち、大丈夫かな‥‥‥

余りに早かった夏の訪れと猛暑に

土中から出てくるタイミングを計りかねているのか

羽化する前に 息絶えてしまったのか

そもそも個体数自体が減り続けてしまっている故なのか


何だか無性に 蝉が心配で

蝉しぐれが恋しくて

毎日林からの物音に耳を澄ませている


そんな日が続いて 久しぶりに大分涼しかった昨夕

仕事から戻り 車から降りると

向かいの林からとうとう それは聴こえてきた!


「カナカナカナカナカナカナカナ・・・・」


ヒグラシだ!!

君たち、無事だったんだね!!

今年も生まれてきてくれたんだね!!

嬉しさがこみ上げて ホッとして

なんだか踊り出したいような気分になった


こんなにヒグラシの声が恋しくなったことも

それを聴いて嬉しいと思ったことも かつてなかった


冷凍食品が入ったショッピングバッグを抱えながら

暫くの間 車の傍で棒立ちのまま カナカナカナの合唱に

惚れ惚れと浸り続けた


明日の朝も鳴いてくれるかな


今朝は 久しぶりに随分と涼しく

北東から吹き寄せる風爽やかな 初秋のような朝を迎えた

けれども 明け方のカナカナはまだ 聴こえてこない


夏の夜明け前 めざましよりも日の出よりも早く 

わたしを叩き起こしてくれる あのヒグラシの蝉しぐれ

彼らの無事を祈りながら

首を長くし じっと待っている


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