仲間探し
「というわけで、あと二人、あたしたちの仲間になってくれる、イカしたメンバーを大募集よ!」
テレサはそう高らかに宣言したものの、俺たちの仲間探しは、早々に暗礁に乗り上げることになった。
まずテレサが自身のフレンドリストを片っ端から当たり、「超絶イケてるあたしたちのパーティに入らない?」と声をかけて回った。
しかし、返ってくる答えは、どれも芳しいものではなかった。
「ごめん、テレサ。もう他のパーティと約束しちゃってるんだ」
「黄金蝶探し? ああ、俺も出るけど、ギルドの固定メンバーで出るから、今回はパスかな」
「えー、でも、そのパーティ、三人しかいないんでしょ? ちょっと不安かも……」
大型イベントというだけあって、ほとんどのプレイヤーは、すでに所属しているギルドの仲間や、普段から一緒に遊んでいるフレンドとパーティを組む約束を取り付けてしまっているようだった。
俺たちのように、イベント直前になってからメンバーを募集しているパーティは、少数派なのだろうな。
「むー! みんな、見る目がないんだから! このあたしと、伝説級の装備を持つあんたたちがいる、黄金のパーティだってのに!」
テレサは次々と断りのメッセージが返ってくる自分のウィンドウを睨みつけながら、悔しそうに地団駄を踏んだ。
俺もダメ元で、防具を作ってくれたエレノアに連絡を取ってみた。あの人なら俺たちの実力を知っているし、その快活な性格は、パーティのムードメーカーとしても最適だと思ったからだ。
しかし……
『イベントかい? あはは、面白そうだね! でもごめんよ。その日は、リアルの方でどうしても外せない用事があってね。ログインできそうにないんだ。君たちの武勇伝、楽しみにしてるよ!』
返ってきたのは、そんな明るくも残念な返事だった。
数時間が経過した頃には、俺たちはルンベルクの広場の噴水の縁に腰掛け、三人そろって、どんよりとした空気を漂わせていた。
「だめだ……。こんなことなら、もっと早くから声をかけておくべきだったわ……」
あれだけ意気込んでいたテレサも、すっかり意気消沈してしまっている。
「どうしよう……。このままだと、三人で参加することになっちゃうのかな……」
サクラも不安そうに俯いている。
三人でも参加はできるだろうが、五人パーティが主流となるイベントで、人数的な不利はあまりにも大きい。1位を目指すなど、夢のまた夢だ。
このままでは士気が下がる一方だ。俺はこの重苦しい雰囲気を断ち切るように、わざと明るい声で言った。
「まあ、待て。そう落ち込むな」
「でも、ガイっち……」
「闇雲に探したって仕方がない。それに、無理やり知らない奴をパーティに入れて、連携がうまくいかずにギスギスするよりは、俺たち三人だけで戦う方が、よっぽどマシだ」
俺の言葉に、二人がはっとしたように顔を上げる。
「今は仲間探しは一旦、保留だ。それよりも、俺たちにできることがあるだろう?」
「できること……?」
「ああ。イベントの日まで、少しでも強くなる。レベルを1でも多く上げて、スキルを磨き、連携を完璧にする。そうすれば、たとえ三人でも、他の五人パーティを圧倒できるかもしれない。それに、強くなれば俺たちに興味を持って、向こうから声をかけてくる奴だっているかもしれないぞ」
俺の提案は、ある意味、開き直りに近かった。だが、今の俺たちに必要なのは、見つからない仲間を嘆くことではなく、自分たちの足元を固めることだと思ったのだ。
「……そうね。そうよ! ガイっちの言う通りだわ!」
最初に立ち直ったのは、やはりテレサだった。
ばっと顔を上げると、力強く拳を握りしめた。
「うじうじしてたって、始まらない! 強くなればいいんでしょ、強くなれば! よーし、見てなさいよ! イベント当日までに、あたし、とんでもないレベルになって、みんなをアッと言わせてやるんだから!」
「うん! 私も、もっともっと練習して、新しい武器と防具を完璧に使いこなせるようになってみせる!」
サクラの瞳にも、再び闘志の光が宿る。
そうだ、それでこそ、俺の仲間だ。
「よし、決まりだな。じゃあ、早速レベリングに行くぞ」
「待ってました! レベル上げなら、あたしにいい考えがあるのよ!」
テレサは、待ってましたとばかりに、ニヤリと笑った。
「この時間は人気の狩場はどこも人でいっぱいだからね。あたしだけが知ってる、美味しくて、空いてる、とっておきの穴場に案内してあげる!」
俺たちは、テレサのその言葉に乗り後をついていくことにした。
テレサが向かったのは町の西門だった。平原を抜け、森を抜け、俺たちは徐々に、人気のないエリアへと足を踏み入れていく。
「ねえ、テレサちゃん……。なんだか、だんだん暗くなってきたね……」
サクラが不安そうな声を上げる。
進むにつれて、周囲の景色は、生気を失ったかのように、色褪せていった。木々は枯れ、地面には枯れ葉が積もり、不気味な静寂が辺りを支配している。時折、カラスの鳴き声が、やけに大きく響き渡った。
サクラはその不気味な雰囲気にすっかり怖気づいてしまったのか、俺のローブの裾を、ぎゅっと掴んで離さない。その小さな震えが、俺にも伝わってくる。
「大丈夫だ、サクラ。俺がついてる」
俺は安心させるように、その手を軽く握ってやった。
「へーきへーき! 見た目はちょっと不気味だけど、出てくるモンスターは、経験値が美味しいんだから! それに、アンデッド系だから大して強くないわよ!」
テレサは全く怖がる様子もなく、むしろ楽しそうに、ずんずんと先へ進んでいく。
そしてしばらく歩いた後、ついにその「穴場」へとたどり着いた。
「……ここが、そうなのか?」
口から思わず、疑問の声が漏れた。
目の前に広がっていたのは、狩場というよりも、むしろ、二度と足を踏み入れたくないような場所だったからだ。
古びた鉄格子で囲まれた、広大な土地。
その中には、苔むした墓石が、無数に、そして無秩序に立ち並んでいる。傾いた十字架、崩れかけた天使の石像、そして誰のものとも知れない、風化した墓標。
地面からは、時折、青白い人魂のような光が、ゆらり、と立ち上っては消えていく。
そこは紛れもなく、巨大な墓場だった。
「ひっ……!」
サクラが、小さな悲鳴を上げて、俺の背中にぴたりと隠れる。その体は、小刻みに震えていた。
「テ、テレサ……。いくらなんでも、ここは……」
俺もさすがに、この陰鬱で、不気味な雰囲気に、少しだけ気圧されていた。
しかし、テレサは、そんな俺たちの様子を気にも留めず、墓場の入り口で、にっこりと、満面の笑みを浮かべて言った。
「ここがあたしのおすすめレベリングスポット、『嘆きの霊園』よ! さあ、パーティーの始まりよ!」
その元気すぎる声が、この静まり返った墓地に、やけに空々しく響き渡った。




