大型イベント
「あ! そうだ! そういえば、あたし、すっかり忘れてた!」
テレサが、何か重大なことを思い出したかのように手を叩いた。
「どうしたんだよ、急に大声出して」
「大事なことよ! もうすぐこのGoFで大型イベントが始まるのよ!」
「大型イベント?」
突然の話題に、俺とサクラはきょとんとする。
「そう! その名も、『黄金蝶探し!』よ!」
テレサは、身を乗り出すと、興奮気味に説明を始めた。
「まだ詳しいことは分かってないんだけど、どうやら、期間限定でオープンする特別なフィールドで、『黄金蝶』っていう、キラキラ光る蝶々を捕まえるイベントらしいの! 告知によれば、パーティで参加するタイプで、1パーティ5人まで参加可能。しかも、参加するだけでも、記念のアイテムとかがもらえるらしいのよ!」
「へぇ、面白そうだな。参加するだけで報酬がもらえるってのは、太っ腹だ」
「でしょ!? でも、本当にヤバいのは、そこじゃないのよ!」
テレサは声を潜め、しかしその瞳は爛々と輝かせながら続ける。
「これはまだ公式発表じゃない、あくまで噂なんだけどね……。このイベントで、黄金蝶を一番多く捕獲した、総合1位のパーティには……なんと、報酬として、『エクストラスキルスクロール』が追加されるらしいのよ!」
「「なっ!?」」
俺とサクラはその言葉に思わず息を呑んだ。
エクストラスキルスクロール。俺たちが手に入れたばかりの、あの伝説級のアイテム。それが、イベントの報酬として手に入るかもしれない。
「あたしたちがもらったみたいな、とんでもないスキルが、また手に入るチャンスなのよ! すごくない!? やばくない!?」
テレサの興奮は、最高潮に達していた。
そして俺たちの両手を掴むと、その熱を伝えるかのように、力強く言った。
「ねえ! ガイっち、サクっち! このイベント、あたしたち三人で一緒に出ましょ! そして、絶対に1位を取るのよ!」
たしかにすごい。
魅力的なイベントなのは分かるが……
「……待て、テレサ。少し、落ち着け」
俺は興奮するテレサをなだめるように、ゆっくりと口を開いた。
「確かに、エクストラスキルスクロールは魅力的だ。喉から手が出るほど欲しい。だが、そんなに簡単な話じゃないはずだ」
「えー、なんでよ! 今のあたしたちなら、最強じゃない!」
「まず、パーティは5人まで、だろ? 俺たちは3人だ。あと2人、どうするんだ?
信頼できる、腕の立つ仲間が、そんなにすぐに見つかるとは思えない」
俺の指摘に、テレサは「うっ……」と、わずかに言葉を詰まらせた。
「それに、イベントで1位になるってことが、どれだけ大変なことか、分かってるのか? このゲームのプレイヤーがその報酬を目指して参加してくるんだぞ。βテスト時代からやってる猛者や、俺達以上にやり込んでいるプレイヤーも山ほどいる。そんな連中を相手に、たった3人+2人で、本当に勝てると思ってるのか?」
俺の現実的な言葉に、サクラも、不安そうな表情で俯いた。
「うん……。私もみんなと一緒なら、イベントに参加するのはすごく楽しいと思うけど……1位を目指すなんて、まだ、自信ないな……。それに、新しい人が入ってきても、私、うまく連携できるか分からないし……足を引っ張っちゃうかもしれない……」
サクラの言葉に、テレサは「そんなことないって!」と励ましながらも、先ほどまでの勢いは、少しだけ削がれてしまったようだった。
「でも、でもさ! やってみなきゃ、わかんないじゃない! 今のあたしたちなら、奇跡だって起こせるかもしれないでしょ!?」
テレサはまだ諦めきれないといった様子で、食い下がる。
確かにテレサの言うことにも一理ある。俺たちは、強敵のデビルトレントを撃破できたのだ。
だがあの勝利は、俺たちの力が、偶然にも完璧に噛み合った結果だ。
イベントとなれば、求められるのはもっと総合的な力と、そして、運だ。無策で突っ込んで、勝てるほど甘い世界ではない。
「……まあ、そうだな」
少し考えた後、一つの着地点を提案した。
「1位を目指すかどうかは、一旦置いておこう。だが、参加するだけで報酬がもらえるなら、参加しない手はない。だから、イベントには参加する。ただし、目的は、あくまで『記念参加』だ。1位は無理に狙わず、イベントの雰囲気を楽しんで参加報酬をゲットする。……それなら、いいだろ?」
俺の提案に、サクラは、ぱっと顔を上げた。
「うん! それなら、私も参加したいな! きっと、お祭りみたいで楽しいよね!」
サクラが賛成したことで、テレサも、しぶしぶといった様子で頷いた。
「えー……。あのエクストラスキル、もったいないなぁ……。でも、まあ、あんたたちがそう言うなら、今回はそれでいっか。その代わり!」
テレサはビシッと人差し指を俺たちに向けた。
「もし、イベントの途中で、『これ、イケるかも!』ってなったら、その時は、本気で1位を狙いに行くんだからね! 絶対よ!」
「ははっ、分かったよ。その時は、な」
こうして、俺たちの意見は、なんとか一つにまとまった。
残る問題は、あと2人のメンバーをどうするか、だが……
「まあその問題は……イベントが始まるまでに、ゆっくり考えればいいか」




