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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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興奮気味のテレサ

 北の森からの帰り道。

 俺とサクラの足取りは、来た時とは比べ物にならないほど軽やかだった。

 先ほどのビッグホーンとの戦闘で得た、圧倒的な成長の実感に、興奮を隠しきれないでいた。


「ねえ、ガイ君! 見た!? さっきの私の一撃!」

「ああ見たさ。とんでもない威力だったな。まるで、最終兵器みたいだったぞ」

「もう……大げさだよ! でも本当にびっくりしちゃった。今まであんなに苦戦してたのが嘘みたいで……。これが、新しい武器と防具の力なんだね……!」


 サクラは愛おしそうに『黒曜の星屑』の柄を撫でながら、何度も、何度も、その感触を確かめている。その横顔は、自信に満ち溢れ、以前の、おどおどしていた面影はどこにもなかった。


「武器と防具だけじゃない。サクラ自身の腕が、格段に上がってるんだ。あの突進の速さ、踏み込みの鋭さ、どれも完璧だった」

「えへへ……。ガイ君にそう言ってもらえると、すごく嬉しいな。でも、それも、ガイ君が、あのビッグホーンの突進を平気な顔で受け止めてくれたからだよ。あの時、ガイ君の背中が、すごく、すごく大きく見えたんだ」


 サクラが少し頬を赤らめながら、はにかんで言う。

 俺もまた、あの時の感覚を思い出していた。全身を駆け巡った衝撃、そして、HPゲージに表示された、信じられないほど小さな数字。

 あの瞬間、俺は自分が追い求めてきたデバッファーとしての理想形に、確かに一歩、近づけた気がした。


「ははっ、だろ? 俺自身、驚いて笑っちまったくらいだ。このローブは、本物の化け物だぜ。エレノアには、いくら感謝してもしきれないな」


 俺たちは、互いの成長を褒め合い、分かち合いながら、ルンベルクの北門をくぐった。


「エレノアさんと、テレサちゃんには、本当に感謝しないとね」

「ああ。あの二人がいなければ、今の俺たちはいない。今度あたらめてお礼しにないとな」


 俺たちがそんな話をしていると、ルンベルクの町の門が、ようやく見えてきた。

 その時だった。門の近くの露店エリアで、見覚えのあるプレイヤーが見えた。

 見慣れたポニーテールの後ろ姿。


「あれは……」

「テレサちゃんだ!」


 俺たちが駆け寄るとちょうどこちらに気づいたようだ。

 その顔は、これまで俺が見た中で間違いなく、一番の上機嫌だった。

 まるで、宝くじで一等を当てたかのような、あるいは、人生の全てが思い通りになったかのような、幸福感に満ち溢れた最高の笑顔だ。


「ガイっち! サクっち! おかえりー! あんたたちも、新しい装備の試運転に行ってたんでしょ? どうだった!?」


 テレサは俺たちの顔を見るなり、自分のことのように目を輝かせて尋ねてきた。


「ああ。見てくれ。この通り、ピンピンしてる」

「うん! すごかったんだよ、テレサちゃん! ガイ君、ビッグホーンの突進を、仁王立ちで受け止めちゃったんだから!」

「へぇー! あの突進を!? やるじゃないの、ガイっち! エレノアっちのやつ、相当頑張ったみたいね!」


 テレサは俺のローブを興味深そうに眺めながら、満足げに頷く。


「そっちこそ、どうだったんだ? 何か、いいことでもあったのか?」

「いいこと? いいことなんてレベルじゃないわよ! 人生が変わるレベルの、超絶スーパーミラクルラッキーなことがあったのよ!」


 テレサはそう言うと、もったいぶるように、ふっふっふ、と笑った。


「まあ、見なさいよ」


 そして自分のインベントリ画面をこれ見よがしに表示させた。


 その画面に表示された内容を見て、俺とサクラは再び、絶句することになった。


「な……なんだ、これ……」


 そこには様々な種類のモンスターの素材が、ずらりと並んでいた。狼の毛皮、コウモリの羽、スライムの粘液、ゴーレムの欠片……

 だが、驚くべきは、その種類ではない。その、数だった。

 どの素材も、例外なく、80個以上のスタック数で表示されている。


「テ、テレサちゃん……これ、どうしたの……? もしかして誰から買ったの……?」


 サクラが恐る恐る尋ねる。


「違うわよ! これは全部、あたしが、この数時間で、一人で狩りをして集めたものよ!」

「一人で!? たった数時間で、こんな数を……!?」


 こんな数になるまで集めるなんて……かなり時間が掛かったはず。


「ふっふっふ……。これが、エクストラスキル、『幸運の祝福』の力よ!」


 テレサは得意満面で胸を張った。

 曰く、俺たちと別れた後、早速『幸運の祝福』の効果を試しに、近場の狩場を巡っていたのだという。そしてその効果はテレサの想像を、いや、俺たちの想像を、遥かに超えるものだった。


「予想通り……いや、予想以上に、ドロップ数が増えまくったわ! 体感だけど、モンスターを倒せば、ほぼ100%の確率で、追加ドロップが発生する感じ! まさに、ドロップ率が常に2倍になってるようなもんよ!」


 テレサの興奮は止まらない。


「でもね! すごいのは、それだけじゃないのよ! あたし、あることを思いついて、試してみたの!」


 そう言うと、テレサは自分の装備を切り替えた。


「それはまさか……」

「そう……『ラッキーダガー』よ。これも、確率で追加ドロップが増える効果がある武器」


 そしてテレサは、俺たちに衝撃の事実を告げた。


「検証した結果、『幸運の祝福』と、この『ラッキーダガー』の効果は、なんと、重複することが分かったのよ!」

「……重複、する?」

「そう! つまり、このラッキーダガーを装備した状態でモンスターを倒せば、『幸運の祝福』の追加ドロップ判定と、『ラッキーダガー』の追加ドロップ判定が両方、同時に行われるの! 単純に考えてドロップ率は驚異の3倍よ!」


 ドロップ率……3倍。

 その言葉が、俺の頭の中で、重く、そして鮮烈に響いた。

 生産職にとって素材は重要なはずだ。その素材の入手効率が、3倍になる。


 つまりだ。

 例えば他のプレイヤーが3日かかる作業を、たった1日で終えられることを意味する。

 目に見えて効率があがったわけか。


「……とんでもないな」


 俺は心の底から、そう呟いた。

 あの時、戦闘に直接役立たないと、少しだけ地味に感じてしまった自分を、殴ってやりたい気分だった。


「へへーん! すごいでしょ! これで、あたしはもう、素材に困ることはない! どんなレア装備だって作りたい放題! あたしは、この世界の全てを手に入れたのよ!」


 テレサは両手を空に突き上げ、高らかに勝利宣言をした。その姿は、今まで見たどんな時よりも輝いていて、自信に満ち溢れていた。

 よほど嬉しかったんだろうなぁ……

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