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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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新たな防具

 あれから二日が経過した。

 俺とサクラは、エレノアからの「ブツが、できたよ」という、短いながらも期待に満ちたメッセージを受け取り、急いでエレノアの元へと向かっていた。道中、サクラは「どんな防具かな」「似合うかな」と、期待と不安が入り混じった表情で、そわそわと落ち着かない様子だった。


 工房の扉を開けると、そこには、やりきったという満足感と、心地よい疲労感を全身に漂わせたエレノアが、二つのマネキンを前に仁王立ちしていた。そのマネキンには、明らかに俺たちのために作られたであろう、二揃いの防具が着せ付けられている。


「ようこそ、お二人さん。待ちくたびれたよ」


 エレノアは、俺たちに気づくと、ニヤリと笑った。その顔は、最高の仕事をした職人だけが浮かべることのできる、自信に満ち溢れたものだった。


「さあ、まずはガイ君、君のからだ。君のあの無茶苦茶なオーダーに応えるために、あたしの持てる技術の全てと、妖精の郷で手に入れた最高の素材を、惜しみなく注ぎ込んだ。あたしの職人人生の、最高傑作の一つだ。その目で、とくと見な」


 エレノアに促され、俺は一つのマネキンへと歩み寄った。

 そこに飾られていたのは、一見すると、魔法使いが着るような、深い森の緑色を基調とした、フード付きのローブだった。

 しかし、ただの布製のローブではない。生地には『妖精の糸』が緻密に編み込まれており、光の角度によって、まるで木漏れ日のように、淡い金色の光が明滅して見える。肩や胸元には、『守護樹の樹皮』が、装甲として、しかしデザインを損なわないように、流麗な曲線を描いて取り付けられていた。

 それは、防御力を追求しながらも、自然との調和を感じさせる、芸術品のような佇まいだった。


「見た目は、ただのローブのようだが……」



 俺がその詳細情報に視線を落とした瞬間、その常識外れの性能に、言葉を失った。


 ―――――――――――――――――――――――

【防具】守護樹の賢者ローブ

 DEF:350

 MDEF:480


  ・全属性耐性:+30%

  ・状態異常耐性:+30%


【固有アビリティ】攻性転化の理

 装備している武器のATKおよびMATKの数値を半減させ、その数値を自身のDEFおよびMDEFに加算する。


【固有アビリティ】魔力相殺の陣

 自身が発動するスキルのダメージおよび回復量が半減するが、自身が受ける全てのスキルによるダメージも半減させる。


【固有アビリティ】妖精の加護

 自身のHPが30%以下になった際、一度だけHPを全回復する。

(再発動クールタイム:10分)



 製作者:エレノア

 ―――――――――――――――――――――――


「な……なんだ、このアビリティは……!?」


 俺は自分の目を疑った。

 まず防具単体でのDEF350、MDEF480という数値。

 今持っている最安値で買ったウッドシールドのDEFは5。それに比べたら桁違いに高い。

 だが、本当に驚くべきは、そこに付与された三つの固有アビリティだった。


 一つ目、【攻性転化の理】。

 武器の攻撃力を防御力に変換する。普通のプレイヤーにとっては、攻撃力が半減するなど、致命的なデメリットでしかない。

 しかし攻撃を完全に捨て、デバフに特化している俺にとっては、このデメリットは存在しないに等しい。むしろ、武器を持てば持つほど、防御力が青天井に上がっていく、究極のメリットでしかなかった。

 例えば売っているATK100の剣を装備するだけで、DEFとMDEFが、さらに50ずつ上昇するのだ。


 二つ目、【魔力相殺の陣】。

 自身のスキルダメージと回復量が半減する代わりに、受けるスキルダメージも半減する。これもまた、攻撃スキルも回復スキルも持たない俺にとっては、デメリットが完全に無意味だった。

 敵が放つ強力な攻撃スキル。その威力を、問答無用で半分にしてしまう。これほど、デバッファーにとって心強い能力はない。


 そして三つ目、【妖精の加護】。

 HPが30%以下になった時の、一度きりの全回復。クールタイムは10分と長いが、これは事実上の「第二の命」だ。

 カウンタースキルを発動させるために、あえてダメージを受けるという戦術。その最後のセーフティネットとして、これ以上ないほど完璧なアビリティだった。


「……すごい。すごすぎる……」


 俺はただただ、感嘆の声を漏らすことしかできなかった。

 攻撃力を捨て、防御に特化する。俺の漠然とした、しかし無茶な要求に対して、エレノアは、俺の想像を遥かに超える完璧な答えを提示してくれた。これは、もはやただの防具ではない。俺というデバッファーの生き様そのものを、形にしたかのような装備だった。


「どうだい? 気に入ってくれたかい?」


 エレノアが満足げに笑う。


「気に入るも何も……。エレノア、あんたは最高の職人だ。本当に、ありがとう」


 俺が心からの感謝を伝えると、エレノアは「へへん、当然さ!」と、照れくさそうに鼻をこすった。


「さあ、お次はサクラちゃんの番だよ!」


 エレノアはもう一つのマネキンへとサクラを促した。

 そこに飾られていたのは、白銀を基調とし、青い差し色が美しい、軽やかな騎士鎧だった。胸当てや肩当ては、騎士としての威厳を保ちつつも、女性らしい丸みを帯びたデザインになっている。そして何より目を引くのは、その腰回りだった。


「か、可愛い……! まるで、お姫様が着る甲冑みたい……!」


 サクラは目をキラキラさせて、その防具に見惚れている。

 しかし、その視線は、すぐに腰のあたりで止まり、みるみるうちに顔が赤く染まっていった。


「で、でも……! エレノアさん、これ……スカートが、ちょっと、短すぎませんか……!?」


 サクラの言う通り、その防具の腰部分は、金属製のスカートアーマーになっているのだが、動きやすさを重視したためか、デザインはミニスカートのようにかなり丈が短い。

 下に履くスパッツが見え隠れする、非常に際どいデザインだった。


「あはは! いいじゃないか、可愛いよ! サクラちゃんはスタイルがいいから、絶対似合うって!」

「うう……。で、でも、こんな格好で戦うなんて、恥ずかしいよぉ……」


 顔を真っ赤にして、もじもじと恥ずかしがるサクラ。

 しかし、その可愛らしい見た目とは裏腹に、その防具の性能もまた、凄まじいものだった。



 ―――――――――――――――――――――――

【防具】蒼き流星の軽甲

 DEF:500 

 MDEF:300


  ・全属性耐性:+30%

  ・状態異常耐性:+30%


【固有アビリティ】不屈の闘志

 同一の相手からダメージを受け続けると、その相手から受けるダメージが徐々に軽減される。

 別の相手からダメージを受けるか、30秒以上ダメージを受けなかった場合に効果がリセットされる。

(ダメージを受ける度に10%軽減、最大5回まで累積)


【固有アビリティ】連撃の極み

 通常攻撃が命中した際、確率で追加ダメージが発生する。


【固有アビリティ】妖精の加護

 自身のHPが30%以下になった際、一度だけHPを全回復する。

(再発動クールタイム:10分)


 製作者:エレノア

 ―――――――――――――――――――――――


「……こっちも、とんでもないな」


 俺はその性能に再び驚愕した。

 まず一つ目の固有アビリティ、【不屈の闘志】。

 同じ相手から攻撃を受け続ければ、最大で50%ものダメージを軽減できるようになる。これは、長期戦になればなるほど真価を発揮するスキルだ。

 特にボスのような単体の強敵と対峙する際に、サクラの生存率を劇的に向上させるだろう。

 攻撃を受けながらも、粘り強く戦い続ける。まさにサクラの成長と、諦めない心を象徴するかのようなアビリティだった。


 そして、【連撃の極み】。

 追撃が発生するということは、実質的に、瞬間火力を爆発的に向上させることを意味する。

 俺のデバフと『黒曜の星屑』の【弱点看破】、そしてこの【連撃の極み】。全てが噛み合った時、サクラは、どんな強敵をも一瞬で葬り去る、まさに「蒼き流星」となるだろう。


 そして何より、俺のローブと同じ、【妖精の加護】まで付与されている。これにより大胆に、そしてアグレッシブに敵陣へ切り込んでいくことができる。


「エレノアさん……こんな、すごい防具を……」

「迷いのない心。そして、仲間を守ろうとする強い意志。自然とこういうデザインが浮かんできたのさ。君にしか着こなせない、特別な一着だよ」


 エレノアは優しく、そして誇らしげに言った。

 サクラは恥ずかしそうにしながらも、その防具を、愛おしそうに見つめている。


「……うん。私、着てみる。この防具に、負けないくらい、もっともっと、強くなってみせるから!」


 サクラは、覚悟を決めたように、力強く頷いた。

 こうして俺たちは、それぞれの究極とも言える防具を手に入れた。


 それぞれの個性が、最高の形で装備に反映され、俺たちのパーティは、また一つ、新たな次元へと進化を遂げただろう。

 俺は新しいローブを身に纏い、その圧倒的な防御力と、そこから伝わるエレノアの職人魂を感じながら、これから始まる新たな戦いに、胸を躍らせるのだった。


 隣では少し恥ずかしそうに、しかし、凛とした姿で新しい鎧を着こなすサクラが、はにかみながら、こちらを見て微笑んでいた。

 その姿は、どんな絶景にも勝るほど、俺の目に焼き付いて離れなかった。

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