妖精の郷⑪
「ガイ君!?」
「ガイっち!?」
戸惑う二人に俺は不敵な笑みを向ける。
「妖精どもは俺が全て引き受ける。その間にお前たちは全力でデビルトレントを叩け。これが俺たちが勝つための唯一のプランだ」
「引き受けるって……あんな数の魔法全部食らう気!?」
テレサが信じられないといった表情で叫ぶ。
「ああそうだ。よく見てみろ。あいつらの魔法は眠りや鈍足暗闇といったデバフが中心だ。直接的なダメージはほとんどない。……そしてデバフなら俺が一番得意な分野だろう?」
俺は自分を指差す。
「それに、こいつらは無限沸きかもしれない。なら倒すだけ時間の無駄だ。俺のデバフ耐性ならあいつらの魔法の大半は無効化できるはずだ。たとえ食らったとしてもすぐに回復できる。俺以上にこの役目に適任な奴はいない」
俺の覚悟を悟ったのか二人の表情が引き締まる。
「……分かったわ。ガイっちのその無茶な作戦乗ってやろうじゃないの!」
「ガイ君……。絶対に無事でいてね……!」
「当たり前だ。お前たちが化け物を仕留めるまで俺は絶対に倒れない。……行けぇっ!」
俺の叫びを合図にテレサとサクラは弾かれたように駆け出した。二人は妖精たちの魔法弾を巧みにかわしながら、一直線にデビルトレントを目指す。
その背中を守るように、俺は空中に浮かぶ妖精たちの群れの前に立ちはだかった。
「さあ第二ラウンドと行こうぜ妖精さんたち。お前たちのつまらない魔法がこの俺にどこまで通用するか試してやる!」
俺はありったけのデバフスキルを妖精たちの群れに向かって乱射した。
「まずはご挨拶代わりだ! 《アースバインド》!」
数体の妖精の足元に魔法陣が浮かびその動きを封じる。
「くすくす……そんなもの効かないよ~?」
「なっ……そういうことか」
しまった。アースバインドは地上にいる相手じゃないと効果が無いのか。
飛行モンスターには効かないらしい。
「まだだ! 《ブラインド》!」
「きゃあ!」
動きを止めた妖精たちに続けざまに暗闇の魔法を叩き込む。視界を奪われた妖精たちは方向感覚を失い同士討ちを始めたり壁に激突したりして戦線から離脱していく。
「次は覚えたてのこれだ! 《スリープ》!」
俺が指差した先にいたピクシーがふわりと眠りの光に包まれ、そのまま地面へと落ちていく。ダメージを与えなければ起きないこのスキルは、敵の数を確実に減らすのに最適だった。
「おっと。サクラとテレサの元には行かせないぜ! 《コンフューズ》!」
「ッ!?」
「お前は近くにいる仲間を妨害してろ!」
混乱状態になった妖精は言われた通りに仲間を邪魔し始めた。
「な、なまいきな……! みんなあいつを集中攻撃して!」
妖精たちが一斉に俺めがけて魔法弾を放ってくる。俺はその場から一歩も動かずその全てを体で受け止めた。
パリンパリンとまるでガラスが割れるような音と共に、ほとんどのデバフ魔法が俺の体表で弾け効果を発揮せずに消えていく。これが俺の異常なまでのRESの力だ。
しかし中には防ぎきれずに、鈍足の状態異常にかかってしまうものもある。だがそれすらも俺の計算のうちだった。
「――かかったな」
俺に魔法を当て悦に入った表情を浮かべた妖精が次の瞬間驚愕に目を見開いた。
「《飛来の呪詛『暗闇』》!!」
「な、なに……!? 私は何もされていないのに……!」
「《飛来の呪詛『暗闇』》。ダメージを受けただけでお前たちに反撃するカウンタースキルだ」
自ら攻撃を受けることでMPを消費することなく広範囲にデバフをばら撒いていく。ダメージは蓄積していくが、ポーションで回復しながら俺はたった一人で複数の妖精たちの猛攻を食い止めそして逆に支配し始めていた。
その間、テレサとサクラはついにデビルトレント本体へと再びたどり着いていた。
「ガイっちが時間を作ってくれてる! 今度こそ一気に決めるわよ!」
「うん!」
二人は吹き飛ばし攻撃を警戒しつつもこれまで以上の苛烈さで攻撃を繰り出す。サクラが俺がかけていた《アーマーダウン》によって脆くなった樹皮をバターのように切り裂いていく。
『グ……オオオオオオッ! コノ……ムシケラドモガァァァッ!』
デビルトレントが苦悶の咆哮を上げ、再び衝撃波を放とうとその全身を赤黒く発光させた。
「させるかぁっ!」
だがその瞬間をテレサは見逃さなかった。吹き飛ばされるのを覚悟の上でデビルトレントの顔面その悪魔のような目の前まで一気に駆け上がっていた。
「あんたにはとっておきの一撃をプレゼントしてあげる! これであたしのかっこいい短剣ともお別れだけど……あんたを倒せるなら安いもんよ!」
テレサは右手に握った短剣を逆手で力強く握りしめる。その刃が不吉なほどの赤いオーラを纏い始めた。
「喰らいなさいっ! あたしの奥の手! 《デッドリークラッシュ》!!」
テレサの最後のスキル。それは装備している武器が砕け散り消滅するのと引き換えに相手に絶大なる一撃を叩き込むまさに捨て身の最終奥義だった。
彼女の絶叫と共に赤いオーラを纏った短剣がデビルトレントの赤く輝く巨大な眼球のまさにその中心へと深々と突き刺さった。
『ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
断末魔の叫び。
突き刺さった短剣がまばゆい光を放ちながら砕け散りその莫大なエネルギーがデビルトレントの内部で炸裂した。
巨体は内側から破壊されその表面に無数の亀裂が走る。そして数秒間の静寂の後まるで張り子の虎が崩れるよ
うにゆっくりと静かにその巨体は塵となって崩れ落ちていった。
デビルトレントが完全に消滅したのと同時に俺たちを攻撃していた妖精たちの動きがぴたりと止まった。
そして糸が切れた人形のように一体また一体と力なく地面へと落ちていく。
静寂が空洞を支配した。
俺は全身の痛みをこらえながらその場に膝をついた。
「終わった……のか……?」
テレサとサクラが満身創痍の俺の元へと駆け寄ってくる。
「ガイっち!」
「ガイ君!」
二人の顔は煤とそして安堵の涙でぐしゃぐしゃだった。
俺たちは勝ったのだ。
この絶望的な状況で三人で力を合わせ巨大な悪意に打ち勝ったのだ。
俺は仲間たちの顔を見上げ力の限り笑ってみせた。
奈落の底に俺たちの勝利を告げる力ないしかし確かな笑い声が小さく響いた。




