表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/88

妖精の郷⑨

「よーっし! いっちょ、あのキモい木っ端を叩き折ってやろーじゃないの!」


 テレサがいつもの元気な口調で叫んだ。その声は、この絶望的な状況を吹き飛ばすかのように、明るく、力強い。

 左手に小ぶりなラウンドシールド、右手には鋭い短剣を握りしめていた。


「うん! 私も負けない!」


 サクラも力強く頷き剣を構え直す。その黒い刀身が、デビルトレントの放つ禍々しい赤い光を吸い込んで、静かに闘志を燃やしているようだった。


「よし、行くわよ! まずはあたしが切り込む!」


 テレサが盾を構え、デビルトレントに向かって駆け出そうとした、その瞬間だった。


 ザシュッ! ザシュシュシュッ!


「きゃっ!?」


 俺たちの目の前の地面から、何の前触れもなく、無数の鋭く尖った木の根が、槍のように突き出してきたのだ。その速さは尋常ではなく、もし一歩でも踏み出していたら、串刺しになっていただろう。


「な、なによ今の! 危ないじゃない!」


 テレサが悪態をつく。突き出した木の根は、すぐにまた地面へと引っ込んでいったが、その場には生々しい穴がいくつも残されていた。


「どうやらあのデビルトレント本体は、自分では動けないらしい。その代わり、この空間全体に根を張り巡らせて、こうやって攻撃してくるってわけか」


 俺は冷静に状況を分析する。


「ってことは、あの本体に近づかない限り、延々とこのモグラ叩きみたいな攻撃が続くってこと!? これじゃ、本体を叩けないじゃない!」


 テレサが悔しそうに叫ぶ。

 その通りだ。この無差別な根の攻撃を避けながら、あの巨体までたどり着くのは至難の業だ。

 しかし、俺は先ほどの攻撃の瞬間、あることに気づいていた。


「……いや、完全に無差別じゃない」

「え?」

「よく見てろ。根が突き出す瞬間、地面にわずかな予兆があるはずだ」


 デビルトレントが次の攻撃を仕掛けてくるのを、神経を研ぎ澄ませて待った。

 すると、俺たちの少し右手の地面が、ほんの一瞬、もこり、と僅かに隆起したのが見えた。


「そこだ!」


 俺が叫んだ1、2秒後。まさにその場所から、再び無数の木の根が突き出してきた。


「……なるほどね! 地面が動いた場所から、根っこが出てくるってわけね!」


 テレサがニヤリと笑う。


「そういうことだ。突き出す1~3秒前には、必ず地面に動きがある。それを見極めれば、回避は可能だ!」

「分かった! ガイ君、指示をお願い! 私とテレサちゃんで、攻撃を避けながら本体に向かう!」


 サクラが鋭い眼光でデビルトレントを睨みつける。


「よし、任せろ! サクラ、 テレサ! 行くぞ!」

「うん!」

「任せて!」


 俺の合図で、三人の連携による決死の突撃が始まった。


「右、3歩先!」

「とおっ!」


 俺の指示に、テレサが俊敏に反応し、突き出す根を軽やかなステップで回避する。


「サクラ、左! すぐに前へ!」

「はあっ!」


 サクラもまた、地面の微かな動きを捉え、舞うようにして根の槍をかいくぐっていく。

 俺は最後尾から二人の動きと、地面全体の動きを把握し、的確な指示を飛ばし続ける。

 俺の「目」と、二人の「脚」が一体となり徐々に、しかし着実にデビルトレントとの距離を詰めていった。


「いいぞ! その調子だ!」

「へへーん! あたしにかかれば、こんなの朝飯前よ!」

「ガイ君の指示、すごく分かりやすい……!」


 だがデビルトレントも、俺たちがただの餌ではないことに気づいたようだった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 突如、空洞全体が激しく揺れる。

 そして俺たちの行く手を阻むように、地面から巨大な木の根が、壁となってせり上がってきたのだ。それは、先ほどまでいたトンネルと同じ、おぞましい木の根が複雑に絡み合ってできた、分厚い壁だった。


「うわっ!? なによこれ!」

「行く手を塞がれちゃった……! これを壊さないと先に進めないよぉ……」


 サクラが焦りの声を上げる。

 しかも厄介なことに、足元からの根の攻撃は止んでいない。俺たちは、絶えず突き出してくる槍を避けながら、この巨大な壁を破壊しなければならなくなった。


「くっ、面倒なことしてくれるじゃないの!」


 テレサが短剣で壁を切りつけるが、硬い音を立てるだけで、ほとんど傷一つ付かない。


「意外と堅い! もう! 面倒だわ!」

「いや、テレサは回避に専念してくれ! 壁は俺とサクラでなんとかする!」


 俺は叫びながら、壁に向かってスキルを放った。


「《アーマーダウン》!」


 壁にデバフがかかり、その表面がわずかに脆くなったのが分かった。


「サクラ、今だ! あの剣の力を見せてやれ!」

「うん! 《パワースラッシュ》!」


 サクラがスキルを使い、力強く振り抜く。黒い刀身が壁に叩きつけられると、デバフで弱体化していた部分が大きく砕け散った。


「よし、効いてる!」

「すごい……! この剣と、ガイ君のデバフがあれば……!」


 サクラの瞳に、確かな手応えと自信の光が宿る。


「もう一回行くぞ! テレサ、俺たちを守ってくれ!」

「任せなさい! 根っこ一本、通さないんだから!」


 テレサが盾を構え、俺とサクラの前に立つ。彼女は地面の動きを完璧に読み切り、突き出してくる根を盾で弾き、あるいはステップで回避し、俺たちに攻撃が届かないよう、完璧な護衛を見せた。

 その間に、俺は再び《アーマーダウン》を壁にかけ、サクラが渾身の《パワースラッシュ》を叩き込む。


 ドゴォン!


 数度の連携攻撃の末、俺たちの目の前にそびえ立っていた根の壁は、ついに大きな音を立てて崩れ落ちた。


「やった!」

「道ができたわよ!」


 壁の向こう側には、忌々しいデビルトレントの巨体が、もう目と鼻の先に迫っていた。


『オオオオオオオオオオオオッ!』


 行く手を阻む最後の壁を破られたことに怒ったのか、デビルトレントが、これまでで一番大きな咆哮を上げた。その声は、空洞全体をビリビリと震わせる。


「うるさいわね、このキモ木! その汚い顔、あたしたちが綺麗に掃除してやるんだから!」


 テレサが啖呵を切り、短剣を構え直す。

 サクラも崩れた壁の向こう側で待ち構える巨悪を、静かに、しかし強く睨みつけていた。


「さあ、第二ラウンドだ」


 俺はいよいよ始まる本体との直接対決を前に、不敵な笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ