累積耐性
村を出てからしばらく走っていると、遠くにモンスターの巨体を発見した。
「あいつがゴブリンロードか……」
本当にデカかった。普通のゴブリンより何倍も大きい。
しかも2、3メートルはありそうな棍棒まで持っている。あんなの食らったら一撃であの世逝きだろうな。まぁここはゲームだから死に戻るだけなんだけど。
『ガァァァァァァァァァ!』
『ギャ! ギャッ!』
ゴブリンロードの咆哮によって、周りにいるゴブリン達も動き始めた。
「さてどうするかな……」
参ったな。飛び出してきたのはいいものの、実際に見てみると勝機が見えてこない。
俺は攻撃面はからっきしだしな。
「ま、やるだけやってみるか」
そうだ。何も倒す必要はない。
俺の役目は時間稼ぎだ。
「とりあえずは……周りの雑魚の足止めかな」
向こうも俺に気付いたようで、こっちに近づいてきた。
「まずは……《コンフューズ》!!」
『ギャ!?』
ゴブリン達を混乱状態にさせ、仲間同士で攻撃しあう。
これで雑魚共は放っておいても大丈夫だろう。
「あとは……お前だデカブツ! 《コンフューズ》!!」
『ガァァァァァ!』
「……あれ?」
おかしいな。ゴブリンロードに向かってスキルを発動させたのに効いてない……?
「くっ……ならもう一回!」
が、再びコンフューズを発動しても混乱状態にはならなかった。
「な、なんで効かないんだ!? ……いや待てよ?」
まさか、ゴブリンロードは混乱に耐性を持っているのか?
いや、もしかしたらボスクラスのモンスターは、全員混乱を無効化するのかもしれない。
よく考えれば当たり前か。ボスにも混乱が効いたら強すぎるもんな。
「んじゃあ……これでどうだ! 《アースバインド》!!」
『ガァァァ!?』
おっ。効いた。
こっちは効くのか。安心した。
これでしばらくは時間稼ぎが出来るな。
ついでにHPも削っておくか。
「そこの奴! ゴブリンロードを攻撃しろ!」
『ギャッ!』
近くにいた混乱状態のゴブリンを使って、ゴブリンロードに攻撃させる。
これで俺が攻撃しなくてもHPを減らせる。
そう思っていたが――
『フンッ!』
『グギャッ!?』
あっ。駄目だ。
ゴブリンロードのデカい棍棒で、ゴブリンが一撃で潰された。
つーか威力たけぇなおい。あんなのかすっただけで致命傷になりそうだ。
くそぉ。今の俺には倒すことすら出来ないのか。
まぁ仕方ない。時間さえ稼げればいいわけだし、今はこいつを足止めされ出来ればいい。
『ガァァァァ!』
「うおっ」
やばいやばい。アースバインドの効果が切れて動き出した。
とりあえず再びアースバインドをかけて移動を封じた。
「あとはこれの繰り返しだな」
なんだ。案外楽なクエストだったな。
でもアースバインドを覚えていたからこそのやり方だ。このスキルを取っておいて本当に良かった。
たぶん、普通に倒そうとしたらかなり手こずるんだろうな。
おっと。またバインドの効果が切れたか。
再度バインドで移動を封じるが……
「……? おかしいな」
さっきよりもアースバインドの効果時間が短くなってるような?
う~ん……?
……たぶん気のせいだな。
とりあえず気を抜かないようにアースバインドをかけ続けよう。
『ガァァァァ!』
「……!?」
いや、気のせいじゃない。明らかにバインドが切れるのが早くなってる!
どうなってるんだ……?
あっ!
まさか……〝累積耐性〟か?
これは一部のゲームで取り入れてるシステムで、同じスキルをかけ続けると、徐々にそのスキルの耐性が上昇するという仕様だ。
恐らくこのゲームでも採用されいるんだろう。それしか考えられない。
ちくしょう。道理でアースバインドが効くはずだよ。
何度もやり続けると、そのうち無効化されてしまうんだろうな。
さーてどうするどうする?
こうなった以上、アースバインドはもう頼りにならない。
何とかしてゴブリンロードの進軍を止めないと……
しかしどうやって止める?
もう他に足止め出来るスキルは無いぞ。
やはり自力で倒すしかないのか……?
『グォォォォォォォ!』
やっべ。一直線に村に向かって移動し始めた。
このままだと村のみんなが危ない……!
何か方法は無いのか?
いっそのこと俺が直接攻撃してみるか?
――無理だな。初期装備で太刀打ちできるほど甘くないだろう。
それに、攻撃を受けずに立ち回れる自信がない。一撃でも食らったらアウトだしな。
どうする……どうする……?
なんでもいい。倒す方法は無いのか……?
今の俺には無理なのか……?
せめて……せめて……
進行方向さえ変えることが出来れば……
…………
――――――――――――――
《ブラインド》を閃いた!
――――――――――――――
……えっ?
なんだこれ?
こんなタイミングで新しいスキルだと……?
と、とりあえず詳細を見てみよう。
――――――――――――――――――――――
【アクティブスキル】ブラインド(未収得)
対象1体を暗闇状態にする。
消費MP:10
クールタイム:5秒
――――――――――――――――――――――
ほうほう。暗闇か……
たぶんだけど、相手の視界をさえぎる効果があるんだろうな。
…………
……これはいけるかもしれん。
丁度SPも余ってるし、取るしかない。
――――――――――――――
《ブラインド》を習得した!
――――――――――――――
これは賭けだな。
もしゴブリンロードに暗闇が効かなかったら終わりだ。
「頼むぞ……《ブラインド》!!」
『!? グァァァァ!?』
や、やった! 成功した!
暗闇状態になったお蔭か、ゴブリンロードは顔をかきむしるようにもがいている。
だがこのままだとさっきの二の舞だ。いずれ効果も切れる。
……待てよ?
この辺りの地形に見覚えがあるな。
たしか……
…………
――いいこと思いついた。
小石を拾ってゴブリンロードに投げる。
「ほらどうした? こっちにこいよデカブツ!」
『グガガ……ガァァァァ!』
よし! 俺に向かって歩き出したぞ!
これで村への進軍は阻止できた!
「こっちだこっち! 早くこいよ!」
『ガァァァァァァァァ!』
よしよし。俺の声に反応して近づいてくる。
あとはあの場所に誘導するだけだ。
その後も走りつつ誘導し続けた。
「どうした? 遅いぞ! お前の実力はその程度か!」
『グガガガ……!』
うおっっと危ない危ない。
デカい棍棒を振り回しながら追いかけてくるせいで、変に緊張感がある。追いつかれたら一巻の終わりだな。
ブラインドが切れた時には即座にかけ直しつつ、とある場所へと向かう。
たしかこの辺りに……あった!
辿り着いたのは、マリーさんと初めて遭遇したあの場所――崖だ。
この高さならあのデカブツでもひとたまりもないはずだ。
俺の背後にはそんな底の見えない断崖があった。
「ほらほら! 早く追いついて来いよデカブツ!」
『ガァァァァァァァ!』
俺に向かって直進してくるゴブリンロードをかいくぐる。
暗闇状態でそんなことも知らないゴブリンロードは、断崖に向かって直進し続けた。
「ここだっ!」
寸前のところで横へと逃げる。
すると――
『!? グアァァァァァァァァ………………』
直進し続けたゴブリンロードは足を踏み外し、崖の底へに向かって落ちていった。
「ふぅ……」
とりあえず一安心だな。
一時はどうなるかと思ったが、なんとかなるもんだ。
このクエストはもっと高レベル向けかもしれんな。
どう考えても初期装備であんなデカブツと戦えるわけがない。この場所にくるのが早かったか?
まぁいいや。どうあれ、これでクエストもクリア出来ただろう。
……お?
レベルアップした。しかも2レベルも上がった。
さっきのゴブリンロードが死んだせいだろうな。それで一気に経験値が入ったんだろう。
―――――――――――――――――――――――
名前:ガイ
Lv:7
所持金:1000
HP:301
MP:141
STR:4
INT:5
VIT:4
MND:1
RES:44
【アクティブスキル】
《ポイズン》《アースバインド》《コンフューズ》《ブラインド》
【パッシブスキル】
《弱体化の心得》《悪魔の発想》《外道の戦術》
SP:2
―――――――――――――――――――――――
やっぱりRESの数値だけ上昇量がすごいな。10以上も上がっている。
出来ればHPを上げたいから、VITを伸ばしたいんだけどなぁ。
まぁいいか。そのうちなんとかなるだろう。
あっ。そうだ。
経験値は入ったけど、ドロップ品はまだじゃん。
けどゴブリンロードと共にドロップ品も崖の下だ。どう考えても取りに行くのは無理だ。
しまったなぁ。この方法だとドロップ品が手に入らないのか。
「まぁいいか……」
仕方ない。倒せただけでも運が良かったんだ。今回はドロップ品は諦めよう。
頭をかきつつ、村へと向かった。