廃坑ダンジョン⑩
「何でよ……どうしてミスリルゴーレムが居るのよ……!?」
4層へ出入り口付近には、ミスリルゴーレムが立ち塞がっていた。
あれはサクラと戦っていたのとは別個体だろう。俺達を追いかけてくるミスリルゴーレムの姿もあるしな。
「よく考えたら、ミスリルゴーレムが1体だけなはずないか。複数居ても不思議じゃない。どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろうな……」
「で、でも近くに採掘ポイントは無いよ!? あいつって採掘ポイントの近くに出現するんじゃないの!? 何であんな所にいるのさ!?」
「多分あれは徘徊型じゃないかな。採掘ポイントを護るタイプと、5層をうろついて徘徊するタイプがいるんだと思う」
「そ、そんなぁ……」
その証拠に、立ち塞がっているミスリルゴーレムは、ゆっくりと動き始めて移動しようとしている。ああやって5層を徘徊しているんだろう。
5層に入ったときに近くに居なかったのは運がよかっただけなんだろうな。
待っていればあのまま移動して別の場所へ行くはずだ。そうすれば安全に4層に戻ることができるだろう。
だけど今回はそんな待っている時間は無い。
「あう……まだ追いかけてくるよぉ……」
サクラを追いかけてくるミスリルゴーレムがどんどん近づいているからだ。
隠れる場所も無いし、このままだと2体のミスリルゴーレムと戦う羽目になってしまう。ただでさえ勝ち目のない相手なのに、2体も相手するとか絶望しかない。
「ど、どうしよう……」
「このままだと挟み撃ちか……」
「わ、私が囮なる! その間に2人は4層に戻って!」
「サ、サクっち!? でもサクっちはどうするのよ!?」
「な、なんとかするから! 私は平気だから!」
いやいや。いくらサクラでも2体同時に相手するのは無謀すぎる。どう考えても無理だ。
でも誰かが引き付けないと4層に戻れないのも確か。結局誰か犠牲になる必要があるのか……?
どうする……どうすればいい……?
何かいい方法は無いのか……?
………………
…………あれしかないか。
「待ってくれ。俺に考えがある」
「ガイっち!? 何かいい方法思いついたの!?」
「賭けになるけどな。たぶん行けるはずだ」
「ど、どうするの!?」
「全員で4層まで突っ込む」
「え、えええ!?」
もうこれしかない。
あまりにも不安要素が大きいから賭けになる。
けどもうこの手しかない。
「だ、だけどそれだとあのミスリルゴーレムに邪魔されちゃうよ!? だから困ってるわけだし」
「説明してる時間は無い! あと数秒で追いつかれるぞ! 全速力で4層に突撃するんだ!」
「なら私は先に行って囮になるから2人は後から――」
「必要ない! 全員まとまって行くんだ! 急ぐぞ!」
「え、あ、うん!」
「ああもう! こうなりゃヤケよ!」
そしてすぐに4層の出入り口に向かって全員が走り出した。
前方に居るミスリルゴーレムもこっちに気付いたようで、俺達を行かせまいとするかのように立ち塞がった。
「やっぱり気付かれてるよー!」
「いいから走れ!」
徐々に距離を詰めていくと、ミスリルゴーレムは振りかぶって攻撃モーションをとった。
このまま行けば俺達に向けて拳を振り下ろされて直撃するだろう。
どんどんと4層への道が近づいていく。
そしてミスリルゴーレムの間合いに入る直前――
「……! 《スロウ》!」
ミスリルゴーレムに向けてスキルを発動。
すると効いたようで、振り下ろされる拳が非常にゆっくりとした動きになった。
その間に4層に通じる道に突入し、5層から脱出することに成功した。




