廃坑ダンジョン⑨
「テレサちゃん!!!!」
猛スピードで走り出すサクラ。
そしてミスリルゴーレムを追い抜き振り向きざまに剣を構え――
「くっ……!」
振り下ろされたミスリルゴーレムの拳を剣で受けてそらした。
「なっ……す、すげぇ……」
そのまま受け止めたら耐えきれないと判断したのか、そらすことで反動を大きく軽減させたのか。一瞬でそこまで思いつく判断力も素晴らしいが、土壇場でやってのけるサクラもすごい。
恐らく剣で受けた時のそらすタイミングが完璧だったから上手くいったんだろう。
「テレサちゃん大丈夫!?」
「え、あ、う、うん。あたしは平気。ありがと。サクっちこそ平気なの!? 直撃してた気がするけど……」
「私は平気。うまくズラせたから……あっ!」
「?」
「……な、何でもない! それより離れて! またミスリルゴーレムを遠くに連れていくから!」
「そ、そうね。頼んだわ!」
サクラはミスリルゴーレムに斬りかかる。ある程度攻撃した後にテレサから離れるように走り出した。
「お願い……こっちにきて!」
振り返りながら様子を見つつサクラは走っていく。
ミスリルゴーレムは離れていくサクラを追うように顔を動かす。そしてサクラを追いかけるように動き歩き出していった。
「サクっちありがと! もう少しで掘り終えるからそれまでお願い!」
ふぅ。これでひとまずは安心か。
ミスリルゴーレムがテレサを攻撃しようとした時はもうダメかと思った。サクラが居なかったら全滅してたかもな。
まぁ無事でよかった。とりえあずサクラを追いかけよう。
サクラはある程度離れた場所でさっきのようにミスリルゴーレムの相手をしていた。
「で、でもどうして急に離れたんだろう……」
「多分だけどヘイトリセットされたんだ。そのせいで運悪くテレサが標的にされたんだと思う」
「そ、そうなんだ……」
これもMMOでは割とある仕様だ。
中にはどれだけヘイトを稼いでいても、不定期にヘイトがリセットされる敵も存在する。ヘイトがリセットされた敵はランダムで別のターゲットを狙うようになってしまう。
今回の場合はテレサが狙われてしまったというわけだ。
「またテレサちゃんが狙われたら……どうしよう……くっ……」
「そうだな……それなら、サクラが上手く位置取りしてみたらどうかな?」
ミスリルゴーレムの攻撃をかわしつつサクラは顔を向けてきた。
「どういうこと?」
「今はサクラよりもミスリルゴーレムのほうが距離的にテレサに少し近いしね。だからミスリルゴーレムがヘイトリセットした時に対応が遅れたんだと思う」
テレサから一番遠くにいるのがサクラであり、ミスリルゴーレムはテレサを背にするような向きになっている。これだとミスリルゴーレムが離れたらサクラがその後を追わなくてはならない。そうなるとどうしても対応が遅れてしまう。
サクラはミスリルゴーレムを連れてきてからすぐに戦い始めたからそういった位置関係になってしまったんだ。
「だから位置を入れ替えてミスリルゴーレムを一番遠くにして、サクラがテレサを背するように動けばいいんじゃないかな。そうすればミスリルゴーレムが他の人を狙いに動いたらすぐに対処できると思う」
「あ、そっか! 私から離れた時に分かりやすいもんね! やってみる!」
そういってすぐにサクラは動き出した。
ミスリルゴーレムと場所が入れ替わり、テレサまでの道を妨害するような位置にサクラは移動した。
俺も狙われた時を想定して、なるべくサクラの近くで待機することにした。
根本的な解決にはなっていないが、これで少しは対処できる時間が増えてやりやすくなるだろう。
後はテレサが採掘終えるまで時間を稼ぐだけだ。
「……! やったー! 全部取り終えたわー! すぐに逃げるわよ!」
「! サクラも逃げるぞ!」
「2人は先に行って! ミスリルゴーレムを食い止めておくから!」
「頼んだ!」
俺とテレサはすぐに走ってその場から離れた。
サクラも俺達が離れたのを確認したのか、ミスリルゴーレムとの戦いを中断して離脱。走って俺達を追いかけてきた。
「急いで4層に戻るわよ! あいつも4層まで追いかけてこないはず!」
「道はこっちか! 広いから迷いにくくて助かるな!」
多分だけど、ミスリルゴーレムみたいな巨大なモンスターを動きやすくするために広いエリアになったんだろうな。
だけどその分逃げ道も広くなってこうして逃げやすくなっている。その分隠れる所も少ないからこうして全力で逃げる必要があるけど。
「もうすぐ4層よ! このまま逃げ込むわよ!」
走りながら目的地に向かって駆け込もうとするが――
「……! ま、待った!」
「え、あ、う、嘘!?」
俺とテレサは同時に急ブレーキして立ち止まってしまう。
やばい……
これはマズい……
非常にマズい……!
「ど、どうしたの2人とも?」
背後から追いかけてくるサクラの声が聞こえてくるが、俺達は前方のとある物体から目が離せなかった。
サクラはすぐに追いつき、俺のすぐ隣で立ち止まった。
「ガイ君? テレサちゃん? どうしてこんな所で止まってるの? 4層に戻らないの?」
「あ、あれ……見てみろ……」
「?」
「そんな……4層への道が……」
「え……」
俺が4層の出入り口付近を指差す。
サクラもその方向を見つめる。
「…………ッ!!」
するとそこには……
ミスリルゴーレムが立ちふさがるように待機していたのだ。




