NPCとの遭遇
適度にモンスターを相手にしつつ、森の中を散策していた。
フィールドに出てからたいぶ経ったし、そろそろ街に戻るかな。
そう思い、引き帰そうとしたときだった。
「だ、誰かー! 助けてえええええ!」
どこからともなく女の叫び声が聞こえた。なんだろう?
えーと、声が聞こえたのは……あっちかな。
すぐに走り出して悲鳴が聞こえた方向に急いだ。
植物をかき分け、ひたすら進む。
そして周囲の木々が減り、ひらけた場所に出た。
『ギャギャギャ!』
「いやぁぁぁ!」
おっ。居た居た。
女性が崖のそばで震えながら立ちすくみ、その周りにはゴブリンが4匹も詰め寄っていた。女性が立っている場所は崖で、落ちたら助かるような高さではないのは一目瞭然だった。
うーん。なんという分かりやすいピンチなシチュエーション。
って、そんなこと考えている場合じゃないな。助けてあげないと。
相手はゴブリン4匹。さてどうするか……
んーと……左端に居る奴と、右端の居るゴブリンにコンフューズを発動。
「お前ら! 隣に居る奴を攻撃しろ!」
『『ギャッギャ!』』
よし。これで1匹目の奴が2匹目を、4匹目の奴が3匹目を攻撃し始めた。
倒すのに時間は掛かるが、時間稼ぎには十分だ。
「そこの人! 今のうちに逃げろ!」
「えっ……は、はい!」
女性は同士討ちしているゴブリンのそばを素早く通り、俺と一緒に森の中へと走って行った。
それから何分か走り、ある程度離れた所で止まる。
「ふう。ここまでくれば大丈夫だろう」
「そ、そうですね。えっと、さっきはありがとうございました」
女性はペコリと頭を下げた。
「ああ、いいってことよ。足止めしただけだしな」
「それでも私を助けて頂いたことには変わりありません。なんとお礼を言ったらいいのやら……」
「それよりもあんな場所で何していたの? ここに来るぐらいなら自分で倒せ――」
言い終わる前にハッと気づく。この子はプレイヤーじゃない。NPCだ。
どうしてそのことに気付けたのかというと、頭の上にあるものが表示されていたからだ。
女性の頭には ▽ という感じのマークが表示されている。これがあったから一発でNPCだと気付けた。
このゲームのNPCには共通のマークが表示されている仕様らしく、これでプレイヤーかNPCなのかすぐに判断することができる設計らしい。
ちなみにこのアイコンは消すこともできる。でも俺は設定を特に弄っておらずデフォルトのままだ。
「? あの、私の頭に何かついてますか?」
「……あ、いや。なんでもないよ」
そうか。この世界の住人にはあのマークが見えないのか。
「それよりも、どうしてあんな崖に居たの? 森の中はモンスターが存在するから危険なんじゃないの?」
「実はここまで遠出するつもりは無かったんです……」
「というと?」
「いつも村周辺で山菜や果物を収穫しているんですけど、今日はついうっかり遠くまで来ちゃったんです。ここらはモンスターが少ないので比較的安全でしたから……」
なるほどね。
「戻ろうと思った時に、ゴブリンに遭遇しちゃったんです。それで逃げていたらどんどん村から離れちゃって、追っかけてくるゴブリンも増えてきちゃって……」
「んで崖に追い詰められたと?」
「はい……」
そういうことか。油断してたらピンチになってたということだな。
「ま、まぁとにかく無事でよかったよ。これからは注意しなよ」
「は、はい……」
「とりあえずさ、これからどうするの?」
「今日はもう村に戻ろうかと……」
「うん。それがいいね。でも大丈夫? またモンスターに襲われたりしない?」
「あっ……ど、どうしよう……」
う~ん。これはなんというか、分かりやすいというか……
「な、なら俺が村まで一緒についていくよ」
「えっ!? い、いいんですか?」
「まぁ俺なんかが大して役には立てないと思うけど、居ないよりマシっしょ。ちょっとした護衛代わりにはなるはず」
「あ、ありがとうございます!」
このあたりのモンスターは強くないし、俺でもなんとかなるだろう。
「ええと、そういや君の名前は?」
「あっ。ごめんなさい言い忘れてましたね。私はマリーと言います」
「マリーさんね。俺はガイって言うんだ。短い間だけどよろしくね」
「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」
その場から離れ、村へと向かうことにした。
道中はモンスターも少なく、危なげなく進むことが出来た。