廃坑ダンジョン⑦
俺達は4層で周辺を見回しつつ進んでいる。なるべく寄り道はせずに5層へと向かうつもりだ。
道中で採掘ポイントがあれば採掘していきたかったが、残念ながら1つも発見できなかった。さっきの連中が言っていた事は本当だったようだ。もう採掘ポイントは殆ど残っていないんだろう。
遭遇したモンスターを倒しつつ奥へと進んでいった。
それからひたらすら進んでいくと、遠くに次のエリアに向かう入口を発見した。
「あそこが5層の入口よ」
「いよいよか……」
「私はいつでも行けるよ!」
「それじゃあさっそく行くわよ! れっつごー!」
テレサの後を追って5層へと突入した。
5層に辿り着くと足を止めて周囲を見渡した。
「ここが5層かぁ……」
「見た目はそれほど変わらないけど、今までより広いのかな?」
「本当だ。けっこう広いかも!」
今までと変わり映えしない廃坑らしい場所だが、やけに広く感じる。最深部だけあって特別に広く設計されているんだろうな。
だけど相変わらず薄暗いし不気味な雰囲気は変わらない。
「敵はいないのかな……?」
「そうみたいね……」
運が良かったのかは知らないけど、モンスターがやってくる気配は感じられない。
5層に到着していきなり襲われる覚悟もしていたけど、何事も無くてよかった。
「とりあえず先進もう。テレサは採掘ポイント優先で探してくれ。俺とサクラはモンスターが来ないか警戒しながら進むから」
「分かったわ」
「私が先頭に居た方がいいのかな?」
「そうするか。サクラ頼んだ」
「うん! 任せて!」
こうしてサクラを先頭にして進むことになった。
この場所は他の層と大差ない風景をしているが、今までとは違う緊張感があった。最深部特有の雰囲気というやつだろうか。
まだ敵が見えてないのに妙に緊張してくる。それはサクラも同じみたいで、周囲をキョロキョロしながら険しい表情で進んでいた。
しばらくそうして進んでいたが、前方に巨大な物体が見えてきた。
「……! な、何あれ!?」
「うおっ! でけぇ……!」
「うひゃあ……」
その巨体に全員が思わずその場で立ち止まってしまった。
前方には4~5メートルはありそうな巨大なモンスターが立っていた。その大きさは天井ギリギリに頭が付きそうなほどの高さだった。
「やばそうなのがいるな……」
「あれはまさか……ミスリルゴーレム!」
「へぇ。あのでっけぇのはミスリルゴーレムというのか。見た目からして堅そうだな」
「防御力がすごく高くてまともに攻撃が通らないらしいわ。レベル40ぐらいないと厳しいかも……」
どう考えても今の俺達では火力不足。まともに相手にならないだろうな。
ただの雑魚敵なはずなのにボスのようにも思えてしまう。もしかしたら本当に5層のボスかもな。
「さすがにあれは無理だな。迂回して別のところ行こう」
「そうね。相手にするだけ時間の無駄…………ってああああああああああああああああああああああああ!」
「!? テ、テレサちゃん!? どうしたの急に!?」
「いきなり叫ぶなよ! あいつに気付かれたらどうするんだ!?」
テレサはとある方向を見ながら驚いた表情で指差した。
「採掘ポイントがある!!」
「マ、マジで!? どこだ!?」
「あそこ! ミスリルゴーレムの足元にある壁!」
「はぁ!?」
「しかも3つも密集してる!」
おいおい。嘘だろ。
よりにもよってあんな手強そうなモンスターの近くに採掘ポイントがあるのかよ。
「運がないな。まさか採掘ポイントに近くに強敵が待ち構えてるなんて」
「もぉー! なんでよりにもよってあんな所に居るのよぉー! 邪魔ー!」
「…………」
「どうする? ミスリルゴーレムが立ち去るのを待つか?」
「それしかないわね~……」
それから1分ぐらい待ってみたが、一向に動く気配は無かった。
「ああもう! いつまで居座るのよ! あっちいってよぉ!」
「……いや待てよ? もしかして5層では採掘ポイントの近くにモンスターを配置する設計になってるんじゃないか? そしてその場から動かない仕様になっているのかも」
「! 言われてみればそうかも。よく見たら採掘ポイントを護るような配置になってる気がする」
「となると、どれだけ待っても時間の無駄か。結局倒さないと採掘させてくれないというわけか」
4層までは採掘ポイントとモンスターの沸きは別だった。運が悪ければ採掘ポイントの近くにモンスターが接近してくることはあったが、常に存在しているわけではなかった。
だからモンスターをやり過ごして採掘ポイントだけを狙うことが可能だった。
だけど5層からはそうはいかないらしい。
モンスターが採掘ポイントを守護者のように護る仕様になっているんだろう。
「4層で襲ってきた連中も言ってたな。5層は不人気だって。こういうことだったのか……」
「そりゃみんな4層に留まるよねぇ……」
「…………」
つーかいきなり難易度あがりすぎだろう。
4層と5層でどうしてこんなにも差があるんだ。バランス調整ミスってないか。
「どうする? 4層に戻るか?」
「でも採掘ポイント見つからなかったし……」
「ああそうか。あれから見つからなかったから5層に来たんだったな」
「…………」
どう頑張っても勝てる相手とは思えないし。結局4層で探し回るしかないのか。
残念だけど諦めて戻るか。
「ここに居ても仕方ない。4層に戻ろう」
「あ、あの! ちょっといいかな?」
「ん? どうしたサクラ」
「えっと……その……あのね。私がミスリルゴーレムと戦ってる隙に……テレサちゃんが採掘するのはどう……かな?」
「へ?」
「サ、サクっち!? それって囮になるってこと!?」
「う、うん。ダメかな?」
ああそうか。別に倒す必要は無いのか。
俺達の目的は採掘ポイント。だからモンスターが近くに居ようが、採掘さえ済ませれば逃げることだって可能だ。
「ど、どう?」
「サクラはいいのか? かなり厳しいと思うぞ。ミスリルゴーレムはレベル40ぐらいないと勝てないぐらい強敵らしいからな。恐らく通常攻撃だけでも即死級なのは間違いない。それをずっと避け続けることになるんだぞ。本当に行けるのか?」
「で、でもそうしないと採掘できないんだよね? だったら誰かが引き付けておかないと……」
「しかし……」
「それにここに来たのは私の武器を作るのが目的なんだよね? それならもっと役に立ちたいの! テレサちゃんが頑張って採掘してくれてるのに私は見てるだけだもん。だから私が何とかしたいの!」
サクラは十分役に立ってると思うけどな。
今回の目的がサクラの武器作製だからか一番活躍しないといけないとでも思っているんだろうか。
「何言ってるのよ。サクっちはとても役に立ってるよ! あたしが採掘中に守ってくれてるじゃない。それに4層で襲ってきたやつらも撃退してたし。そんなに卑下しなくても大丈夫だって」
「テレサの言う通りだ。サクラは十分活躍してるよ。だからこそ5層まで来れたわけだし」
「そ、そうかな?」
「自信持ちなって! サクっちはすごいよ」
嬉しかったのか、サクラは照れくさそうに笑った。
「まぁサクラがこう言ってるんだ。せっかくここまで来たんだから一度チャレンジしてみないか?」
「……そうね。ダメ元でやってみる価値はあるわね。5層なら貴重な鉱石も手に入りそうだし。何事も経験かもね」
「よし決まりだ。サクラ頼んだぞ。俺もできるだけサポートするから」
「うん! 任せて! 頑張るよっ! ふんすっ!」
どこまでいけるか分からんが、頑張ってみよう。




