廃坑ダンジョン⑥
「ふぅ……疲れたぁ……」
「勝ててよかったぁ……」
テレサもサクラも安堵の表情で肩の力が抜けていった。
「ようやく採掘ポイント見つけたってのに奪われたらたまったもんじゃないわ!」
「それだけ需要があるってことなんだろう。早い者勝ちみたいだしな」
「まぁね。特にここだとそれなり高価な素材も手に入るし。みんな目の色変えて探し回っているわ」
「というかさっさと採掘したほうがいいんじゃないか? またさっきみたいな連中がやってくるかもしれないし」
「あ、そうね! さくっとやってくるわ!」
テレサはすぐに動き出し、ツルハシを装備して採掘作業を始めた。
「んじゃ俺達は見張りしておくか」
「うん」
俺達はテレサを護るような配置で周囲を警戒することにした。
そんなときふと隣に居るテレサを見つめる。するとテレサも視線に気が付いたようで見つめ返してきた。
「ガイ君? ど、どうしたの?」
「いやさっきの戦いはすごかったなーと思ってさ」
「そ、そう?」
「ああ。対人は初めてなのにうまく動けていたじゃん。まさかあんなに上手だとは思わなかったよ」
「も、もうそんなに褒めないでよぉ……えへへ……」
すごく嬉しそうだ。恥ずかしそうに笑っていて可愛い。
「とても初心者に思えなかったよ。どこかで経験あったのか?」
「多分だけど、お姉ちゃんのお陰だと思う」
「姉の? 何か習い事でもしてたのか?」
「ううん。そうじゃなくてね。お姉ちゃんの動画ずっと見ていたから、同じようにできたらなぁって思ってたの。だからお姉ちゃんの真似をしているだけなの」
ああそうか。サクラは姉に憧れてこのゲームを始めたんだっけか。
「私はお姉ちゃんの動きを見よう見まねでやってみようとしているだけ。だからすごいのはお姉ちゃんのほうだよ!」
「なるほどなぁ」
ずっと姉のプレイを見続けていたからこそ、対人での動き方もある程度は分かっていたというわけか。
とはいえそれを実行できるサクラも素晴らしい。見ていたからといって実践で同じように動けるとは限らない。イメージと実践では別問題だしな。
それをうまく動かせるかどうかは本人次第。サクラにはそれができるだけの才能があったんだろうな。
「でも急に動きが変わったように見えたけど何かあったのか?」
具体的には俺がダメージ受けたあたりから急にサクラの動きが良くなった気がする。
激昂していたような雰囲気だった。
「え!? あ、あれは……その…………」
「?」
「ち、ちちちちちち違うの! あれは気のせいなの! わ、忘れて!」
「え? ど、どういう意味?」
「いつもはあんなのじゃないの! だから……」
このサクラの慌てっぷりは何なんだ一体。
そんなに恥ずかしがるようなことなんだろうか。
「と、とにかく忘れて! お願いだから――」
「どったの二人とも?」
振り向くといつの間にかテレサが近くで立っていた。
「あ、テレサが来たぞ。もういいのか?」
「全部取り終えたわよ。でもどうしてサクっちは慌ててるの?」
「さあ?」
どうしてサクラがこんなに取り乱してるのか分からん。
やたら恥ずかしそうにしてる気がするし。
「な、何でもないの! そ、それよりこれからどうするの?」
「うーんどうしようかしら。ちょっと悩んでいたところなのよね」
強引に話題を変えられたが、テレサは気にせず話を続けた。
「4層で他の採掘ポイント探そうと思ってたんだけど、もう無いみたいだし。次にどうするのか考えていたのよ」
「そういやさっきの連中も採掘ポイント探したけどもう無かったとか言ってたな」
「そうそう。本来ならしばらくは4層で探すつもりだったんだけど、採掘ポイントが無いのなら探す意味が無いもんね。だからどうしようかなーって思って」
既に採掘ポイントは荒らされたと分かっているのに探すのは時間の無駄か。
もしかしたらまだあるかもしれないが、そう簡単に見つかるとは思えん。散々探し回って見つからないとなったら骨折り損だ。
となるとやることは限られてくる。
「4層が期待薄なら別のエリアに行くしかないな」
「そうなるわね。とすると3層に戻るか……もしくは……」
「5層に行くかだな」
俺の言葉にテレサも肯いた。
先に行くか戻るかの2択か。
「テレサは5層は行ったこと無いんだっけ?」
「そうよ。4層でも厳しいのに5層はまだ早いと思ってさ。諦めてたのよね~」
ということは完全に未知の領域となるわけか。
「そもそも5層に行けるプレイヤーも少ないみたいなのよ」
「そうなの?」
「どうも4層と違って5層は難易度が跳ね上がるみたい。レベル30超えてる人でも手も足も出なかったらしいわ」
「マジか……」
俺はまだレベル20にすら達してない。この中で一番高いテレサですらようやくレベル20超えたぐらいだしな。
どう考えてもレベル不足。あっさり死ぬ未来が見える。
「そういやさっきの連中も忠告してたっけか。5層は人気無いとか言ってたな」
「そうそう。ある程度4層で採掘してから5層を様子見で行こうかと思ってたけど、まさか取り尽くされてたとは思ってなかったのよ。ここに来る人が増えてきたってことかしらね」
プレイヤーが増えれば採掘場に訪れる人も増える。仕方ないといえば仕方ないことだ。
これからはどんどん人口密度も増えて採掘ポイントの取り合いも激化するだろう。
「それなら……5層行ってみるか?」
「……そうね。どっちみちもう採掘ポイントも無さそうだし。行ってみようかしら。2人ともそれでいい?」
「おう。せっかくここまで来たんだ。最深部まで行ってみようぜ」
「うん! 私もできる限りがんばるよ!」
「おっけー! なら行ってみよっか! 目指せ5層!」
「「おー!」」
こうして俺達は5層を目指すべく先へ進むことになった。




