廃坑ダンジョン⑤
俺とサクラはその場から離れ、テレサの元へと向かった。
テレサと対峙しているのは……ええと、確かリートって言ってたな。
リートは剣を構えたままその場で周囲を見回していた。
「さぁこれで3対1よ! どうする?」
「くっ…………」
サクラも剣を構えたままゆっくりとリートへと近づいていく。
リートはテレサの方を向いてはいるが、別方向から近づくサクラにも警戒するように目を動かしていた。
「さすがにあんたでもこの人数差は厳しいでしょ? 諦めたらどう?」
「………………」
「採掘ポイントを奪おうとするからこうなるのよ。これ以上続けてるというのなら容赦はしないわよ」
「………………」
「さぁどうするの!?」
テレサは短剣を構えたままリート狙いを定める。
リートは動かずしばらく沈黙していたが……
「……およ?」
リートは剣をしまい、両手を挙げたのだ。
「分かったよ。降参だ。おれ達の負けだ」
「あら。意外とアッサリ引くのね」
「勝算の無い戦いを続けるほど馬鹿じゃないさ」
ふぅ。これで終わりか。
どうやら本当に降参したみたいだな。
「まったくもう。最初からこんなことしなきゃいいのに。採掘ポイントなんて他にもあるんだからそっちいけばいいじゃん」
「だからもう探したんだっての。おれ達が来る前に荒らされたのか知らねーが、ほとんど採掘された後だったんだよ。つーかお前らが片っ端から採掘しまくったんじゃねーのか?」
「4層にきてからここが初めての採掘ポイントよ。だからこっちだって採掘したかったのよ」
「そうだったのか……」
なるほどな。俺達が4層の採掘ポイントを荒らし回っていたと勘違いしてたから奪おうとしてたわけか。
「そういや、やけに少ないと思ってたのよね。発見できたのは運がよかったわけね」
「ま。これ以上探しても無駄だろうし。おれ達は帰るよ」
そういって背を向けて立ち去ろうとするリート。
「これでようやくゆっくり採掘できるわね。でも他に採掘ポイントが無いなら5層に行こうかしら?」
テレサの声でリートは足を止めた。
「……止めとけ」
「はぁ? 何よいきなり」
「お前らじゃあ5層は無理だ。行くだけ時間の無駄だよ」
「……!? な、なんでそんなことが分かるのよ!?」
「行けば分かるさ。どうして5層は人気が無く、4層で留まるプレイヤーが多いのか。その理由が嫌というほど実感できるぜ」
「……!」
「まぁいいや。もうおれには関係ないしな。じゃあな」
そしてリートは立ち去って行った。
倒れていたサトゥムも既に消えていた。




