表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/78

売り上げ

 翌日。

 GoFにログインした俺は街の中で歩ていた。

 すると、少し離れた所からサクラの声が聞こえてきた。


「あ。ガイ君! 来てたんだ」

「おっ。サクラか。ついさっきログインしたばかりだよ」

「私もさっきログインしたところだよー。……ふふっ」

「ん? どうした?」

「私達って、ログインするタイミングも一緒なんだなーって。そう思ったらなんだか面白くなっちゃって……」

「そ、そうだな」


 そういや昨日もログインしてすぐにサクラと出会ったっけか。その時もサクラはログインしたばかりだったらしいし。

 どうやら俺達は生活リズムが似ているらしいな。


「今日はどうするの?」

「とりあえずテレサに会ってみよう。どれだけ売れたら気になるしな」

「でもテレサちゃんはログインしてるのかな~? してないならいくら探しても見つからないだろうし……」

「それは大丈夫だ。ちゃんとログイン中だ」

「え? そうなの? どうして分かるの?」

「テレサとはフレンド交換したからな。だから今ログインしているかどうかすぐに確認できるんだ」


 フレンド機能の一つで、フレンド交換した人は誰がログイン中なのか判別できるようになっている。

 これもフレンド交換するメリットでもある。


「そ、そうなの? 知らなかったぁ……」

「とりえあずゲーム内に居ることは分かってるし。どこに居るのか探してみるか?」

「じゃあ一緒に探そっか!」

「おう」


 それからサクラと一緒に街を散策し始めたが、数分も経たないうちにテレサの姿を発見することができた。

 少し遠くに居るテレサに向かって呼びかける。


「おーいテレサ!」

「……! ガイっちにサクっち! 待ってたよ!」

「えっ!?」


 テレサが猛スピードで駆け寄り、急ブレーキをしてすぐ近くで停止した。


「お、おいどうした……そんなに慌てて……」

「だ、大丈夫……!?」

「2人がログインするの待ってたのよ! すぐに知らせたくってさ!」

「何があったんだ? とりあえず落ち着け」

「う、うん」


 テレサはその場で深呼吸をしてから、俺達を見つめた。


「実はね。2人がログアウトしてから色々がんばって売り上げ伸ばそうとしてたの。そしたら予想以上に売れてびっくりしたのよ!」

「へぇ。そんなに売れたのか。んでどれぐらい売れたんだ?」

「聞いて驚きなさい! なんと81個も売れたのよ!」

「マ、マジで!?」


 確か昨日は56個持ってきて、その後に追加で32個渡したはずだ。つまり合計で88個。

 ってことは9割売れたわけだ。そりゃすげぇ。


「すげぇな。そんなに売れたのか。意外と需要あったんだな」

「よかったね! たくさん取ってきた甲斐があったね!」

「ああ。金策にもってこいのモンスターだったな」


 経験値もおいしいし金も稼げる。序盤だと一番おいしいモンスターじゃないだろうか。


「あ、そうだ。それでどれぐらい稼げたんだ?」

「んとね。ビッグホーンの角は1個4000G(ゴルド)で売ることにしたのよ」

「ってことは………………売り上げ約30万!?」

「えーっと…………正確には324000かな?」

「わーお……」


 すげぇな。たった1日でここまで稼げるとはな。


「ふふん。すごいでしょ! あたしもビックリしちゃったよ。1個4000G(ゴルド)という値段設定にしたのが良かったと思うわ。恐らくこれ以上高かったらだいぶ売り上げ減ってたかもね」

「そんなことも分かるのか」

「まぁカンだけどね。1個5000G(ゴルド)とかだったら売り上げは半減してたかも」

「ほー」


 クエスト依頼で納品するのは5個必要だ。そして報酬は13000G(ゴルド)である。

 仮に手元に2個しかなかった場合、3個購入したら12000G(ゴルド)の出費。よってギリギリ黒字になる。

 しかし4個以上購入した場合は赤字になってしまう。なので1人の購入数は3個以下なのはほぼ確実だろう。

 4000G(ゴルド)というのは絶妙な金額設定ともいえる。


「ね? 言ったでしょ? こういった中間層をターゲットにした商売ってのは馬鹿にはできないのよ」

「なるほどなぁ……」


 初めから自力で5個ゲットできるような人は買わないだろう。そして自力で全く集めることのできない初心者も買うことはありえない。確実に赤字になるからな。だがそういった層は初めから狙っていない。


 自力である程度集められるが、ドロップ運が悪く残り1~3個が出ない。もしくは勝率は悪いがドロップ運がよく数個集められたが、残り1~3個足りない。そういった層を狙った商売だったわけだ。


「テレサちゃんすごーい! まるで大企業の社長みたい!」

「ふふん! テレサ株を買うなら今のうちよ! これからもっと伸びるんだから~! あっはっはっは!」


 すっげぇ上機嫌だな。まぁそれだけのことをしたんだからこれくらいは許されるだろう。


「しかしここまで需要があるのは驚いたな。デイリークエストなのに意外と馬鹿にできんな」

「デイリー? ちょっと違うかな」

「え? そうなの?」

「クエスト掲示板で出現するクエストはランダムなのよ。毎日ランダムで選ばれて出現するってわけ」

「あ、そうなんだ」


 つまりクエスト内容はランダムのデイリークエストだったのか。


「ついでに言うとね。出現してから24時間以内にクリアしないと失敗扱いになるのよ。だからおいしいクエストはその日の内にクリアしないといけないってわけ。持ち越しできないから注意してね」

「そういうことか」


 ビッグホーンの角収集のクエストは当たりの部類だろう。他にここまで高額な報酬があるクエストは無かったからな。

 テレサはこのことも計算して商売を思いついたんだろう。


 やけに需要があると思ったらこういうことだったのか。


「じゃあこれを続ければ割といい金策になるんじゃね?」

「そう簡単な話じゃないのよ。初めてだからうまくいっただけ。次も同じことしてもここまで稼げることは無いと思うわ」

「そうなのか? 割とよさそうなのに」

「…………ライバルが出始めたのよ。旨みがあると気付いたのか、あたしの真似をした商売をするプレイヤーもちらほら出始めてるわ」

「…………なるほど」


 そりゃそうか。

 テレサの借りた武器のお陰とは言え、初心者である俺達2人でも割と簡単に集めることができたからな。

 そこそこの知識と装備があれば簡単に参入できてしまう。そら真似する人も増えるわな。


「本当なら全部売り切りたかったわ。でも他の人もビッグホーンの角を出品し始めて売り上げが落ちたのよ。このままいっても値下げ合戦になるだけ。だったらレアドロップ狙いで狩りに行った方が期待できるわ。この商売はもう終わりね……」

「そう簡単に儲けられる方法は無いんだな」

「まぁね。だからこそ常に斬新な発想が必要なのよ」


 どこの世界も商売は楽じゃないってわけか。

 俺はこういうやり方は苦手だし。普通に狩りに行った方が楽でいい。


「さてと。んじゃ売り上げ分渡すわね」

「あ、そうだ。取り分について決めてなかったな。どうする?」

「安心して。全部渡すわよ。2人で分けてちょうだい」

「は? 待て待て待て! テレサの分が無いだろ!」

「そ、そうだよ! テレサちゃんも貰うべきだよ!」


 さすがにここまで頼らせてもらってタダ働きでいいはずがない。俺もそこまで鬼じゃない。


「別にいいのに。あたしは商売できて楽しかったし。2人はまだ新規でしょ? なら懐は寂しいはず。だったら全部あげるわよ。というかあたしは待ってただけだし。ビッグホーン狩りも参加してないし」

「いやいやいや! ビッグホーンの角を売りさばいてくれたのはテレサじゃんか!  ある意味一番の功績者じゃん!」

「このやり方を提案してくれたのはテレサちゃんだよ! 武器も貸してくれたし! さすがに全部は受け取れないよ!」

「う~ん……気にしなくてもいいのになぁ……」


 それから必死に説得し続け、何とかテレサも受け取ってくれることで落ち着いた。

 話し合った結果。俺:サクラ:テレサで4:4:2で分けることになった。


「テレサのお陰で一気に金が増えたよ。サンキューな」

「ありがとうね。私もいっぱい貰っちゃった」

「お礼を言いたいのはあたしもだよ。まさか80個以上も集めてくるなんて思わなかったもん。あたしも儲かっちゃったし」


 これもラッキーダガーお陰なんだけどな。もし無かったらここまで集めることはできなかっただろう。


「さてと…………あっそうだ。せっかく金が増えたんだ。サクラの武器も買っていこうぜ」

「あ、うん。そうだったね」

「ん? サクっちの武器探してるの?」

「サクラはまだ初期武器のままだったんだ。さすがに買い換えないときついと思ってな」

「ふ~ん…………」


 テレサはサクラの近くまで寄って見つめ始めた。


「ど、どうしたの?」

「………………」

「テレサちゃん……?」

「………………ねぇサクっち」


 そしてサクラの肩に手を置き、テレサは話し出す。


「サクっちの武器……あたしが作っていいかな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ