テレサの提案②
「ひと稼ぎ? どういうこと?」
「んーここじゃあ他の人に聞かれそうだから……ちょっとこっち来て!」
「お、おい!」
「私も!?」
「二人とも早くー!」
止める間もなくテレサは動き出し、遠くへと行ってしまう。
「と、とりあえず追いかけるか」
「う、うん……」
困惑しながらも俺達はテレサの後を追うことにした。
2人で追いかけていると、テレサはひとけの無さそうな建物の物陰で立ち止まった。
「ここらへんでいっか」
「急にどうしたんだよ。なんでわざわざこんな場所に移動しなきゃならないんだ」
「だって周囲の人に聞かれたら嫌でしょ。せっかくの儲け話なのに」
「だからその儲け話とやらは何なんだ。そもそもやるとは言ってないぞ」
「ごめんってば。でもガイっちもサクっちも金策になるだろうし。聞いて損は無いと思うよ。とりえあえず今から説明するからもうちょっとだけ付き合って!」
「まぁいいけど……」
そしてコホンを咳をした後、テレサはゆっくりと話始めた。
「さっき初心者殺しのクエストだって説明したでしょ? でも何も知らないプレイヤーは報酬の高さに釣られて挑戦しちゃうのよ」
「俺達もそのパターンだな」
「レベルの低い人はビッグホーンにはまず勝てないし、萎えて諦めちゃうのよ。レベル10超えててもスキルや装備が揃ってないと厳しいし、やっぱり諦めちゃう」
「だろうな」
ビッグホーンを倒すのには何かしらの対策が必要だろう。無策で勝てるとは思えん。
「でもね。全員がそういうわけじゃない。中にはかろうじてビッグホーンに勝てるような人も居るのよ。レベルが低くてもスキルの工夫次第では勝てなくはない。そういうモンスターなのよ。ガイっちだって勝てたわけでしょ?」
「俺はサクラのフォローをしてただけだ。実際に倒したのはサクラだよ」
「で、でも私1人だけだと倒せてないよ! ガイ君が居たから倒せたんだし……」
「まぁガイっちの場合は少し特殊かもしれないけどね。けど2人が協力して戦ったからこそ倒せたわけでしょ? がんばれば君達みたいに戦えば倒すこと自体は可能なのよ」
俺1人ではまず倒せないだろう。サクラが居てくれたお陰でクエストクリアできたんだ。
「それがどうかしたのか? パーティプレイで戦うのはネトゲでは基本だろう」
「そこじゃないのよ。誰もがパーティを組めば勝てるような相手じゃないのよ。ガイっちはアースバインドがあったから楽に感じたかもしれないけど、全員が都合よくそういったデバフスキルを習得しているわけじゃない。だから勝てるだけの実力がったとしても苦戦して時間が掛かるのよ」
「つまり?」
「そういった人達が簡単にドロップ品を集めることができると思う?」
「…………」
何となくだけど、言いたいことが分かってきた。
しかしサクラは理解してないようで、頭に『?』が付きそうな表情で首をかしげていた。
「ああそうか。倒せても確定でドロップ品が手に入るわけじゃない。5個も集めるにはそれなり数を狩る必要があるってことか」
「そういうことよ。ドロップ率自体は低くない部類だけど、1体倒すのに時間が掛かる人だと体感では低く感じるでしょうね。クエストの規定数である5個も集めるのにはそれなり運が無いと厳しいと思うわ」
「それはゲームではよくあることだし。問題は無いんじゃないのか。それぐらいクエスト受けた時点でどのプレイヤーも覚悟しているはずだ。運が無いのは数をこなせば――」
「そう。だからそういった層を狙うのよ!」
ビシッと指を向けるテレサ。
「どういうことだ?」
「ビッグホーンは倒せなくはないけど、時間が掛かるし面倒。なのに倒してもなかなかドロップ品が出ない。あと1~2個あればクリアできるのに、なかなかドロップしない。そんな時にお金で解決できるとしたら……?」
「…………あっ。そういうことか」
「ね? あたしが言いたいことが分かった?」
「え? え? どういうこと? 全然分かんないよぅ……」
俺はテレサが言いたいことは何となく把握したが、サクラはそうでもなかった様子。
さすがにこの手の仕様に疎いサクラには説明不足すぎたな。
「つまりだな。クエストクリアにはビッグホーンの角を5個を集める必要があるのは分かるよね?」
「う、うん。それで一緒に倒しにいったわけだしね」
「けど別にビッグホーン自体を倒す必要は無いんだ。欲しいのはビッグホーンの角であって、本体を倒すのは集める手段にすぎない。つまり最初からビッグホーンの角が5個揃っていれば倒しにいく必要は無いんだ」
「な、なるほどぉ……。そういえばクエストには収集って書いてあるもんね」
「ってことが言いたいんだろテレサは」
「まぁね」
これもゲームにはよくある仕様だ。
最初からクエストの指定したアイテムさえ揃っていれば、クエストを受注した直後にクリアすることができる。
収集系のクエストだとこういうことができるから楽ではある。一部例外もあるけどね。
「そこでね。ガイっちとサクっちにはビッグホーンをひたすら狩り続けて、そしてビッグホーンの角を沢山集めてほしいのよ。可能な限りいっぱい集めて!」
「別にいいけど何の目的でそんなに沢山…………あっ、まさか……」
そういうことか。テレサがやりたいことがよくやく理解できた。
「ふっふっふ……分かった? それらを全部売るのよ!」




