セーフティエリア
残ったゴブリンを始末した後、倒れて戦闘不能になったレンジに近づいた。
「これで俺の勝ちだな」
「ふ、ふざけんな! あんなの反則だ! 無効試合だ! 普通に戦えばオレのほうが勝つに決まってる!」
まーだ分かってないのかこいつ。
「あのなぁ。何が普通なのか知らんが、真面目にやっただろうが」
「なら今度はあんなセコいマネしないで戦え!」
…………はぁ。
本当に何も分かってないんだな。
「いいか? プレイスタイルは人それぞれなんだ。どういうやり方で戦おうが人の勝手だろうが」
「で、でもよ。デバフしか使わねぇアホが居るとは思わねーだろうが!」
「対策しないほうが悪い」
「うぐっ……」
デバフだって万能じゃないんだ。
いくらでも対策の手段はあるはずだ。
「お前がリアルでどれだけすごいのかは知らんけどな、ここはゲームの世界なんだ。現実とゲームを一緒にするんじゃねーよ!」
「……ッ!」
現実でも強いからって、ゲームでも強いとは限らない。
どれだけ優れた格闘家だろうが、ゲームでも強いとは限らない。
それがVRMMOなんだからな。
「ま。勝ちは勝ちだ。サクラには手を出すなよ?」
「ふんっ……」
「というか今後もサクラには関わらないと誓ってもらおうか。ストーカーでもされたら面倒だからな」
「……しねーよ。たかが一人の雑魚に粘着するほど暇じゃねーんだ」
これで一安心かな。
復讐でもされたら厄介だからな。
「…………糞っ!」
「あっ。今気づいたんだけどさ」
「……?」
「お前もスキルは使えるんだろう? 何で使わなかったんだ? 素手でもスキルは発動できるはずだよな?」
「…………あっ!」
「えっ」
「………………」
「………………」
素で忘れてたんかい。
たぶんだけど、剣道の知識が豊富にあったせいで頭から抜け落ちてたんだろうな。
現実の試合にスキルなんて使えないからな。
「…………お、覚えてろおおおおおおおお!」
そんな三下セリフを吐いた後、姿が消えていった。
どうやら死に戻りしたようだ。
ふう。
やっと終わったか。
「ガイ君!」
サクラがトテトテと走って近づいてきた。
「ほ、本当に一人で勝てちゃうなんて……すごい……」
「まぁね。このゲームでは初めて対人やったけど、意外となんとかなるもんだ」
実はデバフが効かなかったらどうしようか少し不安だったんだよな。
「それよりも今の戦い見てたか?」
「う、うん。ガイ君って強いんだね。無傷で勝てちゃうなんて」
「まぁ相性ってやつだな」
「それに比べて私は……」
さっきの奴が言ってたことがまだ耳に残っているんだろう。
「サクラ」
「……?」
「俺は攻撃も弱いし、攻撃スキルも持っていない。ロクにダメージに与えられないスタイルなんだよ」
「そ、そうなの……?」
「でもな。そんな俺でもレンジみたいな奴に勝てたんだ」
「う、うん。すごかった……」
「だからさ」
サクラの目の前に立ち、一呼吸置いてから続ける。
「サクラは役立たずなんかじゃないよ」
「……!」
そう。
これを伝えたかった。
「ここはゲームの世界なんだ。どんな人間だって活躍できるチャンスはある」
「…………」
「レンジみたいな奴の言うことなんて忘れろ。サクラはこれから強くなればいいんだから」
「私でも……役に立てるの……?」
「当たり前だ。俺も出来る限りサポートするからさ。だから元気出せ」
「…………」
サクラは泣きそうな表情をしていたが、徐々に笑顔になっていった。
「うん……うん! 私がんばるよ!」
「そうだ。その意気だ。まだ始めたばかりなんだから、頑張れば強くなれるさ」
「ガイ君」
「ん?」
サクラは満面の笑みで俺を見つめ――
「ありがとう。ガイ君に出会えてよかった」
嬉しそうにそう言った。
「もしガイ君と出会えなったら、私このゲーム辞めちゃってたかも」
「……そっか」
「だからね。ガイ君と出会えて本当に良かったと思う」
「俺もさ」
偶然の出会いだけど、もしかしたら運命だったのかもしれない。
なんてな。
「ああそうだ。ついでにフレンド登録しないか?」
「フレンド登録? ど、どうやるの?」
「まずメニュー画面を開いて――」
やり方を教えた後、フレンド登録をすることにした。
「よし完了っと。これでいつでも互いに連絡できるようになった」
「そうだね。えへへ」
「とりあえず今日はもうログアウトするよ。なんか変に疲れたし」
「あ、じゃあ私もそうするね」
「おう。それじゃあな」
「うん。またね!」
メニューを開き、ログアウトボタンを押す。
すると、ウインドウ画面が表示された。
――――――――――――――――――――――――――――
【警告】ログアウトについて
現在の居る場所はセーフティエリアではありません。
セーフティエリア以外でログアウトを実行した場合、ログアウト処理に1分かかります。
ログアウト処理中は、全ての行動を封じられます。
本当によろしいですか?
――――――――――――――――――――――――――――
……なんだこりゃ。
セーフティエリア?
初めて聞いたぞ。
「あ、あれ? なんか変な画面が出てきたよ~?」
「サクラもか」
「もしかしてガイ君にも?」
「ああ。ちょっと待ってくれ。ヘルプ見るから」
「う、うん」
ヘルプを見ると、ログアウトについての記載を発見した。
さっそく読んでみることに。
…………
ふむふむ。
そういうことか。
要するに、セーフティエリアってのは町中のことを指すみたいだ。
町中だと何の問題無くログアウトできるってわけだ。
だが町以外のフィールドでログアウトしようとすると、ログアウトまで1分かかってしまう。
その間は移動も出来ない上に完全無防備になるらしく、ダメージを受けるとログアウト処理が中断されるらしい。
たぶんこれは緊張感を持たせるために作ったシステムなんだろうな。
例えば強敵と遭遇してしまった場合、ログアウトすれば簡単に逃げられることになってしまう。
それ以外にも色々と悪用が出来てしまう。
そういったことを防ぐためのシステムというわけだ。
これら以外にもデメリットが存在する。
セーフティエリアでログアウトすれば、ログアウト中でもHP、MPが自然回復される。
だがフィールドでログアウトした場合、ログアウト中はHPもMPも自然回復しないそうだ。
サクラにもこれらについて伝えた。
「……というわけみたいだ」
「な、なるほどぉ。セーフティエリアなんてあるんだね。覚えとこう……」
「と、とりあえずさ、町に戻らないか? 出来ればセーフティエリアでログアウトしたいし」
「そ、そうだね。私もそうするね」
少し気まずい雰囲気になりながらも、一緒に町に戻ることにした。




