プレイスタイルの拘り
森を抜けて草原へとやってきた。
その間にモンスターを倒してきたが、途中で新しいスキルを習得した。
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【アクティブスキル】アーマーダウン
相手1体の防御力を低下させる。
消費MP:20
クールタイム:10秒
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デバフといえばこういうスキルが代表的じゃないだろうか。
実は初期スキルを選んでいた時にこのスキルはあったんだよな。習得しようか悩んだスキルの1つだ。
けど序盤だとあまり出番が無さそうだったし、他のスキルを選んだわけだ。
だからこういうのも欲しかったんだよな。無事に習得できて嬉しい。
そんなこんなで草原地帯を歩き、町へと目指している時だった。
遠くにスライムと戦っている女性プレイヤーを発見した。その人は髪が長く、さらに胸も大きめで動く度に髪と胸が揺れている。
なんとなく気になってその光景を見ながら歩いていた。
「えいっ……えいっ……えいっ!」
女の人は剣を振り下ろしてスライムを攻撃していたが、一回も当たっていない。
「むぅ~……なんで当たらないのぉ~……」
スライムはそこまで動きが早いモンスターじゃない。むしろ遅い部類だ。
なのにあの人は攻撃を当てられないみたいだ。俺でもあそこまで下手じゃないはずだ。
「もう一回……えいっ!」
再び剣を振り下ろすが、やっぱり当たらない。
その隙にスライムが動き、女の人に体当たりをした。
「きゃっ」
攻撃を受けた反動で、後ろに転んでしまったようだ。
……なんだろうなあの人は。
あんなにも下手なプレイヤーは見たことがない。ぶっちゃけ俺のほうがもっとうまく戦える自信がある。
さすがに見てられない。ちょっと手を貸してやるか。
急いで近づき、アースバインドを発動してスライムを動けなくした。
「……大丈夫?」
「あ、あれ? スライムが動かなくなった!」
「大丈夫だよ。しばらくは移動しないはずさ」
「も、もしかして君がやってくれたの?」
「まぁね」
「あ、ありがとう~」
女の人は起き上がり、俺の目の前にやってきた。
「えーと君は……」
「ああ。俺はガイって言うんだ。そっちは?」
「私はサクラっていうの! ごめんね。変な場面見せちゃって……」
「いやいや。最初は誰だってあんなもんだって。気にすることは無いよ」
さすがにあそこまでへっぴり腰な人は初めて見たけど……
「このゲームは今日始めたばかりだから、まだ動きが慣れないのよね……」
「ということは俺と同じで新規の人か」
「え。君も始めたばかりなの?」
「うん。俺も今日プレイしたばかりだよ」
「おー! 私と一緒なんだね!」
このゲームは確か、発売してから半年も経ってないはず。
だから今の期間は新規が多いんだろう。
「それよりあのスライム倒したら? まだ生きてるし」
「あ、うん。そうだね。よーし! がんばるよぉ~!」
サクラは両手で剣を構え、スライムの前へと移動した。
「やぁっ!」
剣を振り下ろして攻撃するが、スライムには当たらない。
「う~……もう一回!」
その後も何度か攻撃を繰り返すが、3回に1回ぐらいの命中率だった。
だが数うちゃ当たると言った感じで、何回目かの攻撃でようやく倒すことができたようだ。
「ふぅ。やっと倒せたぁ」
…………
う、う~ん。なんだろうなあの子は。
もう下手糞とかいうレベルじゃないぞこれは。
スライム相手にここまで苦戦する人はサクラぐらいだろう。
「ご、ごめんね~。私こういうの慣れてなくて……」
「そ、そうか。それなら仕方ないな……」
「何度かチャレンジしてるんだけどね、攻撃が全然当たらないのぉ……」
だろうね。
けど俺にはその原因を知っている。さっきの戦いっぷりを見てハッキリと分かった。
あのやり方じゃあ、誰がやっても似たような結果になるはずだ。
だって……
だってサクラは……
「あのさ。ちょっと聞いていいかな?」
「え? なーに?」
「なんで……なんで……攻撃中に目を閉じてるの?」
「あうっ」
そう。
攻撃するときに目を閉じていたのだ。
そりゃあ当たらないはずだよ。
剣を振り上げた時から既に目を閉じていたからな。そんなことしたら当たるもんも当たらないに決まっている。
スイカ割りでもやってるようなもんだ。
「うう……。やっぱりダメかなぁ?」
「誰に聞いても確実にダメだと答えるだろうね……」
「あうぅ……」
それに加えてリーチの問題もあった。
サクラがスライムと対峙した時、互いの距離が離れ過ぎていたからな。
剣先がギリギリ当たるぐらいの距離だ。そんな状態だから余計に命中率が悪かった。
「というか何で目をつむっているんだ? 何か理由でもあるの?」
「ううん。無意識のうちに目を閉じちゃうの。こういうの苦手だから……」
「そ、そうなのか」
「自分でもダメだと分かってはいるんだけどね。どうにも直らなくて……」
まぁ世の中にはそういうタイプの人間もいるだろう。
癖になっちゃってなかなか直せないだろうな。
「ん~。じゃあ戦い方を変えてみたらどう?」
「えっ……?」
「サクラは剣を使っているけど、他の武器を使ってみたらどうかな?」
「他の……」
さすがに近接タイプだと致命的すぎる癖だからな。
なら後衛が使う武器を選べばいい。
「例えば弓とか……あ、ダメか」
「うう……」
よく考えたら弓だともっと致命的になるな。ノーコンってレベルじゃなくなる。
ん~む。それだったら……
「そうだ。支援特化にすればいいんじゃない?」
「支援特化?」
「そうそう。簡単に言えば回復がメインのヒーラーとか。これなら目を閉じてもいけるはず」
「…………」
そうだよ。
サクラは攻撃メインじゃなくて、支援タイプに向いているかもしれない。
回復スキルなら目を閉じても発動できるだろうしな。まぁ立ち回りが厳しいかもしれないけど。
「どうだ? 今日始めたばかりなら、いくらでも育成方針を変えられるし」
「そう……だね……」
「いっそのことキャラを作り直すってのもありじゃないか? その方が初期スキルを選べ直せるしな」
「…………」
キャラ作りたてなら作り直したほうが早いだろう。
またキャラクリやり直すのが面倒かもしれないが。
「うん……ありがとう。いろいろ教えてくれて」
「ま、あくまで参考意見だけどね。どっちにしろ今から回復スキルを取得するのは大変だろうし――」
「でもね。私はこのままがいいの」
「――えっ? このまま? 作り直すのは無しってこと?」
「ううん。そうじゃないの。私はこの剣で……ずっとこのやり方で……お姉ちゃんと同じようにやっていきたいの」
サクラの表情は、最初から決心をしていたかのように真剣になっていた。
「ということは、そのプレイスタイルを貫くってこと?」
「うん。私はね、お姉ちゃんみたいなカッコいい剣士にないたいの!」
「ってか、サクラの姉もこのゲームやってるの?」
「うん! 私はお姉ちゃんに勧められてやり始めたんだよ~!」
なるほどな。
姉妹でプレイしてるってことか。
「へぇ~。姉ってそんなにかっこいいんだ」
「そうなの! お姉ちゃんはすごいんだよ!」
「見たことあるの?」
「動画でしか見たこと無いんだけどね。とってもカッコいいんだよ!」
「ほほう。そんなにか」
「うん! こうね……しゅたっ、びゅーん! しゅばばばっ! がきーん! ずばばばー! しゅたっ、しゃきーん! って感じなんだよ!」
ぜ、全然分からん……
サクラの脳内にはすごい演出が繰り広げられているんだろうけど、俺には何一つ伝わってこない。
「そ、そうか。す、すごいんだな……」
「うん! とってもすごいんだよ!」
ともあれ、姉に憧れて真似してみようと思ったわけか。
なるほどね。だから不慣れだと分かっていても、必死に剣を使いこなそうとしていたわけか。
「で、でもさ。人には得意不得意があるわけだし。言いにくいんだけど、サクラは別のスタイルのが似合ってると思うぞ。うん」
「……それでもね。私はお姉ちゃんみたいになりたいの。このゲームを始めるキッカケだもん」
「何も剣だけが全てじゃないっしょ。姉に追いつきたいなら別のやり方でも――」
「例えそれが正解だとしてもね。私はもう決めたの。このやり方でお姉ちゃんに追いつきたい。いつかお姉ちゃんをビックリさせて、喜んでもらえるようにがんばるって決めたんだ」
「サクラ……」
姉に憧れて同じ道を進む……か……
それがどんなに困難な道だろうとも、諦めることはないだろう。それぐらいの熱意を感じる。
もはや俺からは何も言うまい。
しかしなぜだろうか。
サクラを見ていると、不思議と共感を覚えてしまう。俺も似た境遇だからだろうか。
俺がデバッファーを好きになったのもある人のお蔭だ。
その人がデバッファーとしての活躍していたのを今でも忘れられない。
だから俺も同じようになりたいと思ったんだ。例えどんな困難が待ち受けようとも、変える気はない。
そんな境遇だからか、サクラが他人とは思えなかった。
「そっか。ごめんな。変なこと言っちゃって」
「い、いやいや。ガイ君が謝ることじゃないよ! これは私のワガママなんだから」
「サクラのことも知らずに、プレイスタイルを変えろなんて偉そうに言っちゃったし。本当にごめんな」
「だ、大丈夫だよ! 気にしてないから!」
これからは気を付けることにしよう。