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吹雪に響く産声

 伊旭が生まれた時、産声は吹雪でかき消されていた。2001年2月21日会津地方のある病院で生まれた室平 伊旭の父教業は当時そう語っていた。室平家は代々、福島県会津地方にある栂枝村で農業とマタギで生計を立てていた。教業は家業を継いでいたが、収入面で厳しい部分もあった。そこで教業は資金を調達し旅館(室平旅館)を立ち上げた。しかし、立ち上げ当初経営は上手く行か無かった。狙っていた夏の登山客や冬のスキー客が思うように宿泊しなかった。更に村の中心部からやや離れている所に建設したため認知度がとても低かった。また、山深い場所にあった為、従業員の確保にも苦しんでいた。

 室平旅館開業から3年が経つといよいよ経営が厳しくなり事業から撤退することまで考えていた。しかし、伊旭が生まれる時、同じ集落の人たちは室平旅館の経営を支え始めた。当時、室平旅館は栂枝村で久しぶりに新設された旅館であった。その為、同業者から仲間はずれにされていた。しかし、経営が上手く行っていない様子を見て次第考えが変わっていき室平旅館に協力的になっていった。

 その後、客足は伸びたもののそれでも売り上げは赤字であった。伊旭が生まれた時、教業は病院に立ち会わずに吹雪で客が来ない中、旅館のフロントで生まれてくる子供のために手作りのおもちゃを作ったという。教業が息子に会ったのは実に1週間後であった。室平旅館は人手不足であった為、教業が休む訳にも行かず仕事を続けていた。

 伊旭の子育てを行うために、教業の妻、行子はしばらく旅館の仕事から離れていた。その為、教業は行子の分まで働くようになった。会計や調理など行子に任せていた部分もある為、室平旅館はしばらくバタバタしている状態が続いていた。

 5月の連休になり雪も次第に解け始め栂枝村にも桜が開花した頃、客が殺到した。新しい旅館であった為、室平旅館の存在を知らずに予約しないでの客が殆どであった。流石にこの時ばかりは伊旭を行子の実家がある群岡市に預けてもらった。連休中は行子にも手伝ってもらいなんとか繁忙期を乗り越えることができた。

 室平旅館の評判は決して悪くなかった。教業の妻は教業との結婚前、群岡市にある当海温泉の温泉旅館で働いていたため接客は慣れていたからだ。夏になると評判を聞きつけた登山客も宿泊するようになり室平旅館は軌道に乗り始めた。しかし、従業員の確保に苦しむ状況は続いた。従業員の募集を行っているが効果はあまりなかった。

 週に一度の休館日に教業はガイドの勉強を始めた。それは、ガイドになれば栂枝村に来る観光客の需要を直接聞きだせる事が出来ると考えたからであった。

  

 続く


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