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願紡  作者: 朝日超乾
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世界恐望

︎︎人間は欲望に満ちている生き物だ。お腹が減ったり、眠くなったり、遊びたくなったり色々と思う。でも思い通りに欲が満たされないことがある。規則(ルール)に縛られているから自分だけが勝手にできない。だから他人に提案をして共感を図る。例えば多数決とか。



「俊介をクラス対抗全員リレーのアンカーに推薦する人、手上げてー。」

「お、おい、俺そんな体力ないって...」

俊介は断ろうとしたが、何かに腑に落ちて断るのをやめた。

「俊介、体育祭の当日にクラスみんなでやればそれは持つだろ?」

「あぁそうだな、忘れてたよ。」

先日突然、多数決で過半数を超えた意見が実現するようになった。世界中でビッグニュースとなり、世界各地の科学者達によって、様々な実験がなされた。そうして発表されたことは次のこと。


①実現することには有効時間がある

②多数決は誰かが実現させたいことを念じ、それからその意見に賛成か反対かを念じることにより成立する

③多数決を採った集団全体の票数が多いほど、有効時間は長くなり、効力は大きくなる

④多数決により否決された場合でもほぼ何も起こらないが、直後に賛成側の意見が実現してしまう場合は実現しないことになる

⑤有効時間が切れると効力を失う

⑥1人のみでも多数決を採ることはできるが、不明の票が追加されて行われ、実現することに改変がある場合がある


「じゃ、体育祭の走者決めはこれで終わりだ。」

「今日はここらで解散だ~。」

「別にバレなきゃやっていいよな?」

「さ、みんなで足速くして帰ろうぜ」

「この場にいるやつ全員ウサギン・ソルト並の運動能力を手に入れるに賛成な人!」

多数決は念じて1人で行うのも可能だが他者に多数決の存在を認知させればこうして票数が増え効力アップというわけだ。

「みんなまた月曜日に、じゃあねー。」

こうも自由にやりたいことができると悪用する輩もいるに違いない。でもそんなことは知ったことではない。危険なことと無縁な生活を送れたらそれでいい。今晩は何を食べようか。その後どうしようか。いつ寝ようか。明日は何をしようか。そんなことを考えながら木の影からひっそりと歩いて帰った。


 家のドアを開く。ただいま、と言っても返事はかえってこない。ただ窓から月の光が差しているだけだ。灯りをつけて、いつものようにソファーに腰をかけて、食べ物と飲み物を念じる。右手にはダブルチーズバーガーを握っていたが左手には何も持っていない。

「僕が飲み物を手にするのには反対なのか。」

と、愚痴を吐きながらさっさと消えないうちに食べて空腹を満たした。口の中をオレンジの味が駆け回る。効力は正しく発動する訳ではないらしい。運が悪いとずっと何も食べられなくなるから、そのときは友達に頼んで一緒に多数決を採っている。

 さて、どうしたものか。昨夜はいじくった鏡とジャンケンして、一昨日の夜は部屋の中の摩擦をなくしてスケートした。ジャンケンは勝敗がつくチャンスがとても少ない。スケートは本当に摩擦がなくなってしまい今もぐちゃぐちゃになった部屋が元通りにならない。とても気まぐれな効力だ。たまにはぶっ飛んだことをしてみようか。

"僕は空を飛ぶ力を手に入れる"

「賛成してくれよ。」

体の軽さは変わらない。試しに窓から出てみる。窓から顔を出して下を見ると落ちたときは意外とマズい高さが分かった。大きく丸い月が照らしていた。窓から上半身を乗り出し、窓の枠に乗る。そして、思いっきり窓の枠を蹴った。一瞬、高く跳んだような気がしたが次第に体を下に引っ張る力を感じるようになった。これはやってしまったかもしれない。

「僕に死んで欲しいのか?」


 春の匂いがした。温かい布団の中に横たわっていた。誰かが自分の隣にいた。誰だろうか...。これは...お母さんとお父さん...?違うかもしれないとも感じる。あぁ、懐かしい気分だ。


 次に触れたのは冷たく柔らかいコンクリートだった。ぽよんぽよんと跳ねて激突の衝撃を吸収していた。もう一回触ってみるとコツン、と固くなっていた。もう少し手前に落ちていれば草むらが代わりのクッションになっただろう。

「僕に死んで欲しいわけじゃないんだな。」

一瞬走馬灯を見たが、イチかバチか『()()()()()()』という多数決を採って否定され、無事死なずに済んだ。効力のおかしさはこう生かすことができると発見して少し興奮した。しかし、飛ぶ力は貰えないわ、死にそうになるとそれを拒否するわで、この見知らぬ票には何か弄ばれているような気がしてくる。まるで誰かが僕を見て多数決を行っているようだ。そんな贔屓はこんなつまらない人生じゃなくて別の人生にしてもらった方が世のためになると思うが。一応飛べるかジャンプしてみたが、また体を引っ張られるばかりでつまらなくなったのでもう部屋に戻りその夜は早めに寝た。



「君は何を願う?」

「え?いや、えっと急にそんなこと言われても...」

「いつも願ってることがないんだったら、それは願いじゃないよ。願いがないなら私のお願いに賛成してくれる?」

「おい、なんだよあんた、俺に何をしようと...」

「...。」

「...」

「...んー?」

「...」

「...どうしたの?急に黙っちゃって、言いたいことがあるんでしょ?」

「...。」

「...ふふっ、これでプラス1票だわ!」

動かなくなった傀儡はどこかへと連れ去られた。

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