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第一章 草原の黄昏 2-1



 大公宮内の厨にバミュール家から遣わされた調理人五人の、白衣姿が現れたのは夕方であった。

 雉鳩の入手に思いも掛けずに手間取り、昼食に間に合わせることが出来なかったのである。


 立派な雉鳩が十五羽と様々な食材が運び込まれ、廷臣たちからも名匠との評価が高い、バミュール家の料理長ネカルドが助手のキネラとともに、見事な手際で料理を作り上げて行く。


 大公宮付きの料理番たちはその手並みの見事さに、溜息さえ吐けずに見入っている。

 一方の大公奪還を画策しているフェリップたちは、戦の状況が報告される度に気が気ではなくなっていた。


 もたらされる戦況はどれもこれも捗々しくなく、いつトールン軍が壊滅してもおかしくない状態である。

 クエンティにしても、朝から戦場のクラークスからの遣いがなん人も来ているのだが、未だに芳しい返事が出来ないでいた。


 バミュール邸を出る直前に着いた密使の報によれば、どんなに早くともバロウズ騎士団が戦場に到着するのは日没頃だとのことであった。

 後は時間との勝負だ、一刻も早く大公アーディンを手中に納め、近衛騎士団を動かさねばすべてが手遅れとなってしまう。


 日没前までにはどうしても援軍を出さねば、トールン軍は戦線を維持できないはずだ。

「あと十小刻もすれば調理は完成いたします、みなさま席にお着きになられますようにお願い致します」

 調理助手に成りすましているスカッツが、厨房からそう伝えに来た。


「おおやっと出来たか、待ち兼ねたぞ早くいたせ」

 やきもきしながらフェリップが命じる。


「ではペリオルス殿、大公殿下をお呼びして下さいませ。あなたとヘムリュス殿もご一緒にどうぞ、大公殿下と食事を共にするなど今後二度とはない栄誉ですぞ」

 レノンが監視役の二人に声を掛ける。


「わかり申した、お二階にいらっしゃる殿下をお呼びいたせ。場所は広間横の小饗宴の間だ、粗相のないようにな」

 命を下された兵が、畏まって二階へと向かった。


「しかしわれらごとき身分の者がご一緒してよろしいのでしょうか、後で主から叱責を受けねばよいが」

 緊張した表情でヘムリュルスが、フェリップの顔を覗き込む。

 ここまでこれと言った問題も起きておらぬ事で、すっかりと気を許している。


「なに心配は要らぬ、その時はこのフェリップが口添えして遣わすゆえ安心するがよい。それにこれは大公殿下も望んでおられることではないか、そうであろうペリオルス」

「はっ、先ほどエ二グロス殿を通じて大公殿下からも共に卓に着くよう、格別なるお達しを受け取りました」

 嬉しそうにペリオルスが返事をする。


「ではなにも遠慮することはない、あまり畏まり過ぎる方が却ってご不興を買いかねん。さあ大公殿下がご出座されるのを出迎えようではないか」

 フェリップが先頭になって、小饗宴の間に歩いて行く。


 この頃になると大公宮にいる二人のもとにも味方側の優勢が伝わっており、もう直に上洛軍がトールン入城を果たすだろうとの報がもたらされていた。

 そういうこともあり、ここに来て監視役の二人はすっかり気が緩み切っていた。


 すでに長卓には、様々な食器や副菜類が並べられている。

 大公宮の大扉からすぐにあるのが舞踏会さえ開けるほどの大広間で、小饗宴の間はそのすぐ横に在った。


 この部屋にいるのはウェッディン家のフェリップ・フォン=サイレンと彼の執事長であるレノン、それに大公の監視役のペリオルス、ヘムリュスの二名の四人以外は、給仕役の女官が三名だけであった。


 二人はここひと月以上に渡って厳重に自室へ閉じ込めて、一歩も室外へ出していなかった大公を、ここに来てあっさりと動かすことを許してしまっていた。

 警護をしている将兵たちにしてみても、味方の勝利直前という噂が広まり、浮かれ出している者さえいる始末である。


本来であれば最後のひと踏ん張りという意味も込めて、一層の厳重な警戒が必要だというのにその気配は全くなく、めいめいに勝手なお喋りを始めてさえいた。

 大公宮内外は、規律がまったく緩み切っていた。


「大公殿下のお成りにございます」

 それほど待つ間もなくサイレン大公アーディンが、侍従長のエ二グロスと共に現れた。

 その場のすべての者が、一斉に頭を下げる。



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